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「何のための増税か」 経済対策「大判振る舞い」の評判

   安倍晋三政権で(第2次内閣発足以降)7回目の予算編成となる2019年度の国の予算案が18年末に決まった。一般会計の総額は、前年度当初に比べ3兆7437億円増の101兆4564億円と、当初予算として初めて100兆円の大台を突破した。19年10月の消費税増税による景気落ち込みを防ぐため約2兆円の経済対策を盛り込むなどした結果だが、財政健全化先送りのバラマキ型といえそうだ。

   歳出が膨らんだ最大の要因は消費税増税対策だ。首相官邸の方針として増税による国民の負担増を上回る規模の対策を行う方針を打ち出し、各省庁の尻を叩いた結果、対策の総額は2兆280億円に達した。対策は、中小店舗でのキャッシュレス決済へのポイント還元、住民税非課税(年収約250万円未満)の低所得世帯や0~2歳児を持つ子育て世帯を対象としたプレミアム付き商品券、省エネ性能の高い住宅の新築などへのポイント付与などが柱で、防災のためのインフラ整備も消費税対策の名目で積み増した。消費税の増税による半年分の税収増1兆3000億円を軽く上回り、「何のための増税か」(与党議員)との声が出るところだ。

  • 新年度予算案の行方に注目が集まる
    新年度予算案の行方に注目が集まる
  • 新年度予算案の行方に注目が集まる

財務省の「豹変」

   安倍首相が2017年の衆院選で掲げた消費税の使途拡大も歳出増の要因だ。消費税増税分の一部を回して幼児教育・保育の無償化などを始めるのを含め、社会保障の充実策に7157億円を計上した。

   このほかでは、防衛費の膨張も663億円(1.3%)増の5兆2574億円と過去最大になった。

   一方の歳入は、消費税増税などの効果で税収が3兆4160億円増の62兆4950億円と、バブル期の1990年度決算(60兆1059億円)を上回り過去最大になる。消費税増税に加え、引き続く景気拡大で法人税収などが増えると見積もった。税外収入は、預金保険機構の剰余金の繰り入れなど異例の措置で1兆3601億円増の6兆3016億円を確保。国の新たな借金である新規国債発行額は1兆324億円減の32兆6598億円と9年連続で減額した。ただ、歳入の3割超を国債に頼る借金体質は変わらず、2019年度末の国と地方を合わせた長期債務残高は国内総生産(GDP)の約2倍の1122兆円に達する見込みだ。

   今回の予算編成は財務省の〝豹変〟ぶりが際立った。財政規律を重視するのが使命のはずだが、大盤振る舞いに次々応じた。前回の2014年4月に税率を8%に上げた後、予想以上に景気低迷が長引いたことから、将来的に消費税率を、10%を超えて上げていく必要があるとの認識の下、「今回も景気の腰を折ったら将来の増税の芽がなくなる」(財務省筋)と、腹をくくっていたのだ。

   バラマキを象徴するのが、「5%ポイント還元」だ。増税分の2%でなく5%還元するということは、現在、税込1080円の商品が、税率アップ後には1050円で買える、つまり増税前より税負担が小さくなるもので、安倍首相の号令で決まった。キャッシュレス決済を一気に普及させようという経済産業省の思惑もあってのポイント還元だったが、キャッシュレスへの冷ややかな空気を払拭するには、5%というインパクトのある施策が必要という判断のようだ。

ポイント還元とプレミアム付き商品券

   クレジットカードなどを持たず、キャッシュレスに縁遠い低所得者向けに、ポイント還元に代わるものとして盛り込まれたのが、2万円で2万5000円分を購入できるプレミアム付き商品券だ。公明党の要求を飲んだもので、食料品などへの軽減税率(8%据え置き)が低所得者対策とされただけに、屋上屋を架す形で、これもバラマキとの批判が根強い。

   こうした一方で、2019年の統一地方選や参院選を意識し、負担増を伴う改革を極力避けた。社会保障費は総額34兆円で、前年度より約1兆円増えた。高齢化に伴う伸び(自然増)が4768億円、消費税対策の幼児教育・保育無償化など社会保障の充実で4808億円増という内訳だ。

   焦点だった自然増は、概算要求段階では6000億円だった。過去3年、5000億円に抑制する目安があったが、今回は目安を設けなかったため、抑制が効かないのではとの懸念があったが、最終的に1200億円ほど圧縮した。ただ、中身をみると、既に決まっていた制度改革(高収入の会社員の介護保険料引き上げなど)で800億円圧縮でき、残りは薬価(薬の公定価格)の引き下げ(医療材料を含む)で約500億円ねん出。物価・賃金の伸びに伴う年金額の改定による100億円増も吸収した。後期高齢者(75歳以上)の病院での窓口負担を1割から2割に引き上げるなど、積年の懸案には手が付けられなかった。

補正予算の「カラクリ」

   この予算案について、全国紙は閣議決定翌日の2018年12月22日朝刊で、一斉に社説(産経は「主張」)を掲げたが、批判的な論調が目立った。

   「1000兆円を超す借金を抱えているのに、いつまで野放図な財政運営を続けるのか。安倍政権の発足後、予算規模はこれで7年連続で最大となったが、今回は大盤振る舞いが際立つ」(毎日)といった、財政の危機的状況下でのバラマキへの批判、懸念は各紙共通する。日経も「世界経済の先行きに不透明感が出るなか、来年後半以降の需要減に備える一定の対策は理解できるが、当初予算でこれだけ大判振る舞いが必要なのだろうか」と諌める。

   「増税による景気の腰折れは何としても回避したい。そのため政府が対策に万全を期した狙いは分かる」と理解を示す産経でも、「新たな財政需要があるならば、既存事業を見直して予算にメリハリを付けるのが筋だ。その形跡が見えないのはどうしたことか」と手厳しい。

   個別のテーマにもそれぞれ言及し、例えば朝日は国債発行額の減について「18年度も2次補正で国債を追加発行する結果、年度を通しての発行額は17年度を上回る。これではいくら当初予算を取りつくろっても、財政はよくなることがない」と〝補正予算のカラクリ〟を指摘。税収見積もりも、前提となる経済成長率見通しの名目2.4%が「民間などの予想より高め」と疑問符をつける。

   読売は、「自然増の抑制を、主に薬価引き下げで捻出する手法にはおのずと限界がある。給付抑制と負担増を伴う、本格的な制度改革に取り組まねばならない」と、社会保障改革を強く訴える。

   毎日は「来年度は、政府が新たに作った財政健全化計画の初年度である。......今回は歳出抑制に本腰を入れる必要があった。まして増税で国民に新たな負担を求める以上、無駄をきっちり省くべきだった」と、財政再建への取り組みを求め、読売は「財政の先行きを見据えれば、(消費税率の)さらなる引き上げは避けられまい。新たな社会保障と税の一体改革の策定が急がれる」と、腰を据えた取り組みを訴えている。