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これが韓国の「今」なのか 国防白書の日本・北朝鮮に起きた変化

   韓国の新しい国防白書から、ふたつの文言が消えたことが注目を集めている。

   文在寅政権下では初となる発刊で、北朝鮮をめぐっては「われわれの敵」、そして日本に対しては「基本価値共有」の表現が削除された。昨2018年には3回の南北首脳会談が開かれて北朝鮮との関係改善ムードが高まる一方、日本とは元徴用工訴訟などをめぐり関係が悪化している状況をそれぞれ反映しているとみられる。

  • 文大統領は2019年の年頭会見で日本批判を展開した(画像は韓国大統領府の動画から)
    文大統領は2019年の年頭会見で日本批判を展開した(画像は韓国大統領府の動画から)
  • 文大統領は2019年の年頭会見で日本批判を展開した(画像は韓国大統領府の動画から)

「時期尚早」懸念の声も

   韓国国防省(部)は2019年1月15日、18年版の国防白書を刊行したと発表した。聯合ニュースなど韓国メディア(日本語ウェブ版)によると、今回の白書からは「北朝鮮の政権と軍はわれわれの敵」との文言が削除された。

   韓国の国防白書は04年からは2年に1回、発刊されている。前回16年版では、核やミサイルの脅威を指摘し、「その実行主体である北の政権と軍はわれわれの敵」と表記していた。北朝鮮をめぐる表記には変遷があり、過去には「直接的かつ深刻な脅威」などの表現が使われたが、中央日報などによると、北朝鮮による延坪島砲撃があった10年(版)以降は「敵」表記が続いていた。

   北朝鮮に対する「敵」表現の削除に向けた動きについては、18年8月から報じられており、「時期尚早」との懸念の声があがっているとも指摘されていた。今回の刊行発表を受けた聯合ニュース記事(19年1月15日)でも、「敵」表現をめぐる検討の中で交流・協力関係の構築への配慮を求める声があったことを指摘したうえで、今回の削除で「別の立場から問題視する声が出ることが予想される」と分析している。

   また、18年版の「敵」についての表現は包括的なものとなり、「わが軍は韓国の主権、国土、国民、財産を脅かし、侵害する勢力をわれわれの敵とみなす」としている。

   一方、日本をめぐっては、「関係悪化を反映」(聯合ニュース)したものとして、「韓日両国は自由民主主義と市場経済の基本価値を共有している」という表現が削除されたことが取り上げられた。

日本は登場する「順番」下がる

   時事通信など国内メディアも報じており、時事の記事(ウェブ版、15日)では「韓国駆逐艦によるレーダー照射問題などには直接触れていないが、摩擦激化で冷え込んだ関係を反映しているとみられる」と指摘している。聯合ニュースも同様の分析を披露したうえで、日本の外務省サイトで公開している韓国を紹介する文書について、15年3月から「わが国と、自由と民主主義、市場経済などの基本的価値を共有する」との表現を削除し、「最も重要な隣国」と触れるにとどめた、という変化も今回の国防白書での日本に関する「価値共有」表現の削除に「影響したようだ」と触れている。

   日本に関しては、登場する順番にも変化があり、米国以外の周辺国との軍事協力などを紹介するくだりでは、従来の「日本、中国、ロシア」の順から「中国、日本、ロシア」に変わった。

   こうした日韓関係の冷え込みは、文大統領による年頭会見をめぐっても露わになった。元徴用工訴訟の問題について、文大統領は1月10日、日本の政治指導者たちが政治争点化して問題を拡散している、などと批判。これに対し、菅義偉官房長官は11日の会見で、「韓国側の責任を日本側に転嫁しようというものだ」と反発した。

   韓国国防省は、白書発表と同じ15日、レーダー照射問題について会見で、日本側がレーダー情報の提示を求めていることについて「無礼な要求」と批判した。鎮静化への道筋はなかなか見通せない状況となっている。