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パイオニア身売りでどこへ行く 数々の「世界初」生んだ名門の未来

   香港の投資ファンド「ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア」(BPEA)傘下に入るパイオニア。

   これまで数々の「世界初」を生み出してきた創業約80年の名門電機メーカーは株式の上場を廃止し、ファンド傘下で再建を図る。今後は主力のカーエレクトロニクス事業に磨きをかけ、地図データや人工知能(AI)を組み合わせた新サービスで自動運転時代に挑む考えだが、明確な成長戦略を描けているわけではなく、道のりは険しそうだ。

  • パイオニアの本社が入る都内のビル
    パイオニアの本社が入る都内のビル
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始まりはスピーカー、新分野を次々開拓

   パイオニアは2019年1月25日、東京都内で開いた臨時株主総会でBPEA傘下に入る議案を承認した。BPEAはこの買収に1020億円を投じる。具体的には、第三者割当増資により520億円を出資するほか、すでに融資している250億円については債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)を行う。さらに既存株主から250億円で株式を買い取り、完全子会社化する。パイオニアは3月に上場廃止となる予定だ。

   同社は創業者の松本望氏が1937年、ダイナミックスピーカー「A-8」を開発し、翌年、東京都文京区で「福音商会電機製作所」を設立したことに始まる。松本が「開拓者」を意味するパイオニアをA-8の商標として考案。1961年に社名を「福音電機」からパイオニアに変更し、この年、東証2部に上場。1968年には東証1部に昇格した。

   社名の通り、次々と新分野を開拓していく。1962年に世界初のセパレートステレオを発売。1975年のコンポーネントカーステレオ、1984年のカーCDプレーヤーの発売も世界初だった。

   1986年に国内市販カーオーディオに新ブランド「カロッツェリア」を採用して勢いづく。1990年にGPSカーナビゲーションシステムを世界で初めて市販し、1997年にはDVDカーナビゲーションシステムを発売した。1999年のDVDレコーダー、2006年の50V型フルHDプラズマモニターの発売も世界初だ。ほかにもスピーカーやレーザーディスク、カーオーディオにプラズマテレビなどの分野で、市場で存在感を示した製品は多い。

「カーエレ」の将来にも不安が

   一方、プラズマテレビは液晶テレビとの競争に敗れ市場そのものが消滅するなど、事業環境は厳しかった。2015年にホームAV、電話機、ヘッドホン関連はオンキヨーに、DJ機器事業はファンドに売却。カーエレへの集中を鮮明にした。

   だが、カーエレの事業環境も極めて厳しい。スマートフォンでカーナビの機能を代替できるようになったからだ。パイオニアのライバル、アルパインは上場を廃止し、親会社のアルプス電気と経営統合してアルプスアルパインを発足させたほか、クラリオンは親会社が日立製作所からフランスの大手自動車部品会社に変わる。

   パイオニアは国内外のグループ従業員約2万人のうち、3000人を削減する計画。森谷浩一社長と社外取締役以外の取締役5人は辞任して、ファンド側から役員を受け入れる予定だ。

   当面の資金を確保し、経営体制を変更しても、厳しい事業環境に置かれていることは変わりない。完成車メーカーやIT企業が自動運転の開発にしのぎを削る中、パイオニアは「必要とされる会社」になれるのか。いまだ視界不良だ。