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桜田発言と社会のメダル重圧 23年前の「千葉すずの言葉」はなお重い

   白血病を公表した競泳の池江璃花子選手(18)に対して「本当にがっかり」と発言した桜田義孝五輪相(69)への批判が止まらない。この発言について桜田五輪相は2月13日の衆院予算委員会で「配慮を欠いた。おわびをして撤回する」と謝罪の意を示したが、各方面からの批判は今もなお続き、事態は桜田五輪相の辞任問題にまで発展している。

   18歳の女性に対する誠実さを欠いた大臣の発言は、野党から格好の非難の的となり、国民からも多くの批判の声が寄せられている。SNSを通じて痛烈に批判する著名人もおり、批判の声は大きな広がりを見せている。

  • 桜田義孝・五輪相(YouTube上の定例記者会見映像より)
    桜田義孝・五輪相(YouTube上の定例記者会見映像より)
  • 桜田義孝・五輪相(YouTube上の定例記者会見映像より)

不適切発言に続々寄せられる批判の声

   作家の百田尚樹氏(62)は2月14日に自身のツイッターを更新し、「白血病を公表した18歳の女の子に対し、いかなる理由があろうと『がっかり』という言葉を使う人物を私は認めたくないし、その発言も認めない。五輪大臣であろうと、五輪やメダルのことを考えるべきではない」と怒りをあらわにし、ばっさり切り捨てた。

   もはや社会問題となっている桜田五輪相の不適切発言だが、この発言を耳にした時に23年前のある女性スイマーが発した言葉が頭をよぎった。その女性とは、1992年バルセロナ五輪、1996年アトランタ五輪と2大会連続で競泳日本代表として出場した千葉すずさんである。

   小学生時代から注目されていた千葉さんは、高校在学中の1992年バルセロナ五輪で五輪初出場を果たし、メダル獲得を期待されながら200メートル自由形の6位が最高だった。1996年アトランタ五輪では、前年のパンパシフィック水泳選手権の200メートル自由形で金メダルを獲得したことから、金メダルの最有力とされていた。だが、結果は個人種目で決勝に進めずに惨敗した。

   競技終了後、五輪開催地のアトランタから日本のニュース番組に生出演した千葉さんが発した言葉は物議をかもした。日本中から金メダルを期待された20歳のアスリートが背負う重圧は一般人には想像すら出来ないものに違いないだろう。レースを終え、期待された結果を残せなかった千葉さんは、番組内で自身の感情を抑えることなくストレートに胸の内を吐き出した。

「そんなにメダルというなら...」

   キャスターとのやりとりのなかで出た言葉は、五輪代表選手の個々の気持ちを無視するような形でメダル獲得ばかりを願う者を批判するようなものだった。「そんなにメダルというなら自分でやればいいじゃないか」。当時、過激とされた千葉さんのコメントは波紋を呼び、「オリンピックは楽しむつもりで出た」との発言は、五輪代表選手としての資質を問われた。

   23年前の当時、国を背負って五輪に出場する選手は、個々の意志が尊重されることなく過度のメダルの期待をかけられ、メディアもそれを大きく報じた。このような風潮は徐々に薄まってきたとはいえ、2020年東京五輪は地元開催ということもあり、代表選手には過去の大会を超える大きな期待が寄せられるだろう。

   桜田五輪相の「がっかり」発言の真意は分からないが、発言内容から五輪にかける代表候補選手に対するリスペクトを見出すことは難しい。不用意な大臣の発言、そしてそれを批判する世間の声。23年前、世間の批判にさらされた20歳の発言を改めて思い返すと、その言葉の重みを感じる。

   白血病を公表してから一夜明けた2月13日に自身のツイッターを更新した池江選手は、「私は神様は乗り越えられない試練は与えない、自分に乗り越えられない壁はないと思っています。もちろん、私にとって競泳人生は大切なものです。ですが今は、完治を目指し、焦らず、周りの方々に支えて頂きながら戦って行きたいと思います」と綴り、「必ず戻って来ます」と決意の言葉で締めくくった。

(J-CASTニュース編集部 木村直樹)