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日本女子マラソン低迷の元凶は... 「東京五輪でメダル」への課題

   2020年東京五輪の女子マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」の出場選手が19年3月10日までにほぼ出揃った。女子では14選手が同大会の出場権を獲得。日本歴代4位の2時間21分36秒のタイムを持つ安藤友香(24)=スズキ浜松AC=をはじめ、ベテランの福士加代子(36)=ワコール=らが出場権を獲得しており、9月15日に行われるMGCで五輪代表の座を目指す。

   代表選考の本戦となるMGCの予選レースが、2017年8月から19年3月までの間に行われた。女子は北海道マラソン、さいたま国際マラソン、大坂国際マラソン、名古屋ウィメンズマラソンの4大会8レースが対象となった。各大会それぞれの本戦出場権獲得の条件は以下の通りとなる。

北海道マラソン 1位 2時間32分以内 2位~6位 2時間30分以内
さいたま国際 1位~3位 2時間29分以内
大阪国際 1位 2時間32分以内 2位~6位 2時間30分以内
名古屋ウィメンズ  1位 2時間32分以内 2位~6位 2時間30分以内
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女子の本戦出場者は男子の半分以下に

   14選手が上記のいずれかの条件をクリアし、本戦出場を決めている。この14人を多いとみるか少ないとみるか。設定タイムからいえば決してハイレベルなものではなく、五輪でメダルを狙う選手ならばクリアして当然のレベルである。実際、男子は女子の倍以上の30人が予選レースを突破している。選考レースが女子よりも2レース多く、選手数が女子より上回るとはいえ、この数字が現在の女子の低迷ぶりを大いに物語っている。

   日本の女子マラソンはかつて世界トップレベルにあり、五輪では1992年バルセロナ五輪から2004年アテネ五輪まで4大会連続でメダルを獲得し、うち2つが金メダルだった。女子マラソン全盛期の2000年初頭は、五輪金メダリスト高橋尚子さんが世界最高記録を樹立するなど「マラソン王国」として世界の女子マラソンをけん引していた。

   日本女子マラソンの日本記録の変遷をたどると、2001年に高橋尚子さんが日本女子で初めて2時間20分の壁を越え、2時間19分46秒の日本記録(当時の世界記録)を樹立。04年には渋井陽子さんが2時間19分41秒、05年には野口みずきさんが2時間19分12秒をマークし、日本記録を更新した。世界的に女子マラソンの高速化が進むなか、05年を最後に日本記録が更新されず、かつての「マラソン王国」が世界に大きく後れを取っている。

実業団の存在と練習量の減少

   日本女子マラソンの低迷のひとつの要因とされるのが、実業団の存在である。マラソン選手の多くが実業団に所属し、マラソンの他に駅伝を兼ねている。実業団のメインは駅伝となり、駅伝で結果を出すことが最大の目的となる。表現的には駅伝を兼ねるというよりも、マラソンを兼ねるというほうが的確かもしれない。実際、マラソンに専念できる環境にいる選手はほとんどいないのが現状である。

   女子駅伝は男子とは異なり、その多くのレースが最長区間約10キロ程度。したがって駅伝練習はスタミナよりもスピードが重視され、トラックでの練習が多くなる。また、近年の実業団は経済的に多くの選手を抱えることが困難なため少数精鋭の傾向にあり、練習でひとりでもケガ人が出れば駅伝のチームを組めない事態も起こりうる。これを防ぐために練習量を減らすチームが増えているという。

   マラソンレースを控える選手は、期間限定で駅伝練習とは別メニューをこなす。特別に合宿を張る選手もいるが、一年を通してマラソンに専念しているわけではないので練習量は限定的なものになる。ただでさえ通常の練習量が減少の傾向にあるだけに、マラソン選手の練習量は減少の一途とたどっている。高橋尚子さんは、かつて新聞紙上で近年の女子マラソン選手の練習量について「私の時代と比べて、格段に減っていると思います」と指摘。マラソン関係者の間では、練習量の減少が女子マラソン低迷の大きな要因とする意見が根強い。

   女子マラソンの世界最高記録は、ポーラ・ラドクリフ(英国)が2003年4月に樹立した2時間15分25秒。この記録が16年間更新されていないことからも分かるように、世界的にみて大幅に記録が伸びているわけではない。事実、世界歴代2位は2時間17分01秒と、1分30秒以上の開きがある。世界歴代2位と日本記録を比べると、その差は2分11秒で、決して手が届かないタイムではない。

   かつての「マラソン王国」を取り戻すために必要なものは、マラソンに専念できる環境を選手に提供することに他ならない。企業スポーツが抱える課題に直面している日本の女子マラソン。東京五輪女子マラソンは2020年8月2日に号砲が鳴る。