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「最低でも6%成長」の深い意味 中国・全人代を振り返る

   中国の国会といえる全国人民代表大会(全人代)が2019年3月15日に閉幕する。今年の成長率目標は6%台前半(6~6.5%)とされ、前年の6.5%より下げられた。日本メディアの報道は、「経済減速」や、アメリカとの貿易摩擦をはじめとする中国が直面する難題を強調したものが中心。だが、それらの多くには、中国経済の規模や実力の過小評価や、「経済成長」の意味合いへの認識不足があったように思われる。

  • 北京で開催された全国人民代表大会(2019年3月5日撮影)
    北京で開催された全国人民代表大会(2019年3月5日撮影)
  • 北京で開催された全国人民代表大会(2019年3月5日撮影)

もう不可能な「ふたけた成長」

   中国経済の規模を再確認しよう。今年、目標通り6%台前半の成長が実現されるなら、5.4兆元から5.85兆元の新たな富が生まれることになる。1990年代半ばの中国のGDPが5~6兆元だったから、四半世紀前の年間GDP総体にほぼ匹敵するほどの富がいまは1年間に新たに生み出されるわけだ。日本円に換算すると、今年新たに創出されるのはおよそ90兆円前後。昨年の日本のGDPの約15%にあたる規模だ。

   これだけ巨大な経済規模になっている以上、高成長、それもふたけた成長を続けることなど、もう不可能になっている。2~3年前から指導部が打ち出している「経済成長の量から質への転換をめざす新常態(ニューノーマル)」という方針の背景にあるのもこうした現実だ。今年の全人代の討議では、「わが国の経済規模拡大につれて、成長率が徐々に落ちることはごく当たり前なこと」(政府シンクタンク・国務院発展研究センターの王一鳴副主任)といった発言が目立った。

   会期中の討議では、前年より成長目標を下げ、しかもその目標に0.5%の幅を持たせたことにも、肯定的な意見が多かった。「目標の数字に幅があれば、市場を安定させやすいし、地方政府が目標達成に向かってがむしゃらに走ることも回避しやすい」と語ったのは、江蘇省連雲港市トップの地位にある共産党市委員会・頂雪龍書記。これまで、共産党や政府が掲げた成長率目標が、任期中に業績を残さねばならない地方のリーダーにとっては「達成すべきノルマ」「政治目標」という面が強かったことを意味する。

「雇用安定」をとりわけ重視

   中国共産党の権威の最大の拠りどころは経済を成長させ、国民の生活水準を日々高めていることにある以上、成長率が「政治目標」とみなされても無理はない。ただ、そうしたこれまでの傾向を、経済合理性が否応なく正してきているのが現状だといえる。

   一方で、今年の成長目標が「最低でも6%」とされた意味は、実は大きい。現在の中国では「GDPが1%増えると約200万人の新たな雇用が生まれる」(王一鳴副主任)とされる。成長率6%は1200万人の雇用を作り出し、6.5%なら1300万人だ。毎年1000万人を超える人々を新たに就業させて初めて「経済成長の目標を達成した」とされるのが中国の現実なのだ。

   逆に、その目標を達成できなければ民心や社会の不安定が生まれかねないという危機感が政権トップには強い。「権威」が揺らぎかねない事態は何としても防がねばならない。全人代初日の「政府活動報告」で、李克強首相が「まず雇用確保を優先して考える」と強調したのも、こうした危機感を踏まえたものといえる。

   少し前から、「大衆創業・萬衆創新」という名の新規企業設立を活性化する政策が進められているのも、雇用の受け皿を増やす狙いが大きい。その結果、いま中国では一日に1万8千社の会社が新たに生まれる状況になった。こうした新興企業の活力をどんな政策でさらに高めていくか。今年の全人代で成立した「外商投資法」などによって、アメリカをはじめとする外国企業の投資をどう増やすか。全国の中小、民間企業が抱える「資金繰りの難しさ」の悩みに、金融当局はどう応えていくか――。

   課題の所在と処方箋は全人代で示された。あとはその実行度合いを注視するだけだ。

(在北京ジャーナリスト 陳言)