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内田裕也さん死去、3か月前の「最期の仕事」 記者が見たロックンローラーの生きざま

   ロックミュージシャンの内田裕也さんが2019年3月17日、肺炎のため亡くなった。79歳だった。各メディアが報じている。

   生前最後の公の場となったのは18年12月31日から19年1月1日にかけて、東京・博品館劇場で行われた年越しライブ「NEW YEARS WORLD ROCK FESTIVAL」だった。ここ数年、ライブを訪れてきた記者が、往時を振り返る。

  • NEW YEARS WORLD ROCK FESTIVALのステージ(2018年12月31日撮影)
    NEW YEARS WORLD ROCK FESTIVALのステージ(2018年12月31日撮影)
  • NEW YEARS WORLD ROCK FESTIVALのステージ(2018年12月31日撮影)

46回開催してきたライフワーク

   内田さんが主催している年越し音楽イベントは東京・PARCO劇場(当時は西武劇場)で行われた1973年の「フラッシュコンサート」を皮切りに46回続いている。

   第1回のフラッシュコンサートには桑名正博さん(故人)が所属した「ファニーカンパニー」や矢沢永吉さんが参加した「キャロル」、そして46回目にも参加した「頭脳警察」ら豪華な出演陣が名を連ねた。

   その後、「ROCK'N'ROLL VOLUNTEER」や「スモーキン・クリーンコンサート」と名を変えつつ第6回から「NEW YEAR ROCK FESTIVAL」の名称に変わった。

   内田さんが懇意にしていたジョー山中さん(故人)や安岡力也さん(故人)といったお馴染みの面々や、ロックバンド「シーナ&ロケッツ」は78年から40回連続で出演している。

   P-MODELやヒカシューといったテクノポップバンドやシャネルズ(ラッツ&スター)やスターダスト・レビューなどポップス勢も80年代前半のイベントに出演。新進気鋭のバンドやミュージシャンも積極的に出演させた。

   開催地も東京だけに留まらず、32回から上海で同時開催。その後、35回目から現在の「NEW YEARS WORLD ROCK FESTIVAL」に名を改めてソウル、ロンドン、台北でも開催した。

   発起人である内田さんも1815ロックンロールバンドやトルーマン・カポーティ・ロックンロールバンドを従えてパフォーマンスを行った。

近年は車いす姿で登場

   46回目となった2019年1月1日。シーナ&ロケッツのパフォーマンスから出演者一堂による「サティスファクション」の演奏が終わり、タイムテーブルでは次が内田さんの出番であった。

   44回目から車いすでステージ上に登場し、ビッグバンド共にパフォーマンスを行った。この時は演奏後に内田也哉子さん本木雅弘さんら娘家族と共にステージに上がって立ち上がるなど元気な姿を見せていた。

   しかし、45回目になると矢口壹琅(いちろう)さん、音楽グループ「カイキゲッショク」のHIROさんに支えられて立っているのがやっとの状態。声もほとんどでなくなってしまい、「きめてやる今夜」では俳優の中村獅童さんとパンクロックバンド「アナーキー」の仲野茂さんらの歌唱もあって何とか歌いきった。

   年々、悪化していく内田さんの容態――。それに追い打ちをかけるように訪れた、妻・樹木希林さんの死。6回目の参加だった筆者も、今年は「本当に裕也先生は出てくるのか」と疑わざるを得なかった。

「この借りは今年中に返そうと、思っています」

   迎えた0時20分過ぎ。車いす姿で内田さんは観客の前に現れた。

「裕也!」「親分!」「ロックンロール!」

など怒号に近い歓声が飛び交う。

   1曲目に歌ったのは「朝日のあたる家」。樹木さんが生前「最期に聴きたい曲」と話していたナンバーから幕を開けた。途中、三原康可(やすのり)さんを自身に近づけてギターの音を聴くなど、満身創痍ながらも必死にバンドを追いかけた。

   2曲目は1991年東京都知事選の政見放送でも歌った「コミック雑誌なんかいらない」。ここで観客の興奮は頂点に達した。アップテンポの歌であるため、途中詰まってしまう場面もあったが観客の大合唱で乗り切った。

   3曲目も長年歌い続けた「ジョニー・B.グッド」。途中立ち上がる場面を見せて完全復活に向けての兆しを見せてくれた。

   そして4曲目。生前最後の曲になったのは自身がスカウトした沢田研二さんから提供された「きめてやる今夜」だった。途中の歌詞にある「イカした ロックンロール」のフレーズで語気を強め観客を大いに沸かせた。

「(関係者やスタッフに)この借りは今年中に返そうと、思っています」

   MCでそう語った内田さん。自身の体調面についても語り、2019年末こそ完全復活してくれる。――そう思っていた矢先の訃報だった。

   棺桶や骨壺だって良い。ただそこに立っていてくれればそれで良い。歌なら客が何とかする。親分なのに支えたくなる不思議なロックンローラーだった。

(J-CASTニュース編集部 大山雄也)