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外資系証券が注目する「三菱重工業」 懸案のMRJも最終段階に

   三菱重工業の株価が上昇基調にある。2019年3月11日から19日まで7営業日連続で上昇し、1年8カ月ぶりの高値圏に到達。その後、世界的な株安の影響は受けたが大崩れはしていない。

   過去数年は、巨額損失を計上した造船事業や納入延期を繰り返す民間ジェット機「MRJ」といったリスク案件によって先行き不透明感が高かったが、そうした「もや」が晴れつつあることが背景にある。ただ、リスク要因が後退しただけではさらに上値を追う力にはなりにくく、新たな成長のタネが求められている。

  • 三菱重工本社が入居する丸の内二重橋ビル(Kakidaiさん撮影、Wikimedia Commonsより)
    三菱重工本社が入居する丸の内二重橋ビル(Kakidaiさん撮影、Wikimedia Commonsより)
  • 三菱重工本社が入居する丸の内二重橋ビル(Kakidaiさん撮影、Wikimedia Commonsより)

投資判断を「格上げ」、目標株価も引き上げる

   3月中旬、7日まで223円(5.0%)上昇し19日に終値4669円をつけた7連騰を後押ししたのは、JPモルガン証券が3月12日付で公表した投資判断の格上げと目標株価の引き上げだったようだ。JPモルガン証券は投資判断を3段階で最下位の「アンダーパフォーム」から真ん中の「ニュートラル」に格上げし、目標株価を4100円から5100円に一気に引き上げた。造船事業の損失が過去のものとなったうえ、MRJについても納入に向けた開発の段階が着実に進んでおり、さらなる追加投資は今のところ必要ない。前向きな施策に取り組む環境が整っている点などを評価した。

   ちなみに、造船事業の損失とは、納期の遅れなどによって大型客船で累計2500億円超の特別損失を出したもので、構造改革を進める現在は大型客船の受注を凍結している。MRJは開発の遅れから5度の納期延期にいたったことなどで開発費が膨らんだ。2018年末に開発子会社「三菱航空機」の増資1700億円をすべて引き受けたほか、500億円の債権を放棄して三菱航空機の債務超過を解消した。最後のハードルとも言える国による飛行試験が2019年3月に米国で始まり、2020年半ばに迫った納期を守るべく最終段階に至っている。

   三菱重工株の見直しは最近、外資系証券に目立っており、クレディ・スイス証券は2月26日付のレポートで投資判断を3段階で真ん中の「ニュートラル」に格上げし、目標株価を4000円から5000円に引き上げた。理由としてやはり「新たな不採算案件や特別損失を計上するリスクが見当たらない」ことを挙げている。豪州のマッコリー証券も2月に投資判断を格上げし、目標株価を引き上げた。

企業統治の透明度も好感か

   外資系の好感度が高いのは、企業統治の透明度の高さもあるかもしれない。三菱重工は4月1日付で泉沢清次取締役兼常務執行役員(61)が社長兼CEO(最高経営責任者)に昇格する人事を2月6日に発表しており、宮永俊一社長(70)は代表権のない会長に就く。オーナー企業などにありがちな「社長がかわったのに実権を持つ代表取締役会長兼CEOが院政を敷く」とはならず潔く交代することは、企業統治の透明度の観点からいかにも外資系に好まれそうだ。

   もっとも、課題は残る。だからこそ、上昇基調とはいえ、株価は直近の高値である2015年6月の8050円の6割程度にとどまっているとも言える。三菱重工の中期経営計画では、2021年3月期に連結売上高5兆円(2019年3月期の同社業績予想は4.2兆円)、時価総額は「売上高の0.6倍」にあたる3兆円程度を目指しているが売上高はともかく、時価総額は現在、株価が低いため目標の半分の1.5兆円程度だ。造船は構造改革を進めている最中だし、MRJで投資をいくら回収できるかという見込みは立てづらい。主力の火力発電機器事業は脱炭素社会に向けた世界の環境規制強化という逆風が吹いており、計画の見直しを迫られている。時価総額を目標に近づけるには、現状の課題を克服し、新たな収益源を生み出すという高いハードルが待ち受けていると言えそうだ。