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「霞が関修辞学」の悩ましい判断 景気「下方修正」はどう読むべきか

   夏の参院選、10月の消費税率引き上げもにらみ、経済運営は難しさを増す――。

   政府が景気の現状について、判断を下方に修正した。2019年3月の月例経済報告で、景気の総括判断を「緩やかに回復している」から「このところ輸出や生産の一部に弱さもみられるが、緩やかに回復している」に変更したのだ。

   景気拡大が戦後最長になった可能性が高いと宣言した1月の月例経済報告から2カ月。統一地方選、参院選を前に、景気回復が続いているという基本認識は維持しつつも、輸出や生産など景気後退のサインが出ていることから、判断を引き下げざるを得なかったようだ。

  • 霞が関としても悩ましい現状(イメージ)
    霞が関としても悩ましい現状(イメージ)
  • 霞が関としても悩ましい現状(イメージ)

「生産と輸出」2項目の悪さが全体に響く

   月例経済報告は、政府が様々な統計や状況を総合的にみてまとめる。輸出や生産といった14の個別項目と、景気全体の「総括判断」で構成。政府の景気判断の、その時々の「公式見解」といえるものだ。一方、景気がピークをつけて下降に転じる「山」、底を打って上昇に転じる「谷」の判定は、内閣府が有識者会合の議論を経て行うが、景気動向指数を中心とする経済指標を詳細に分析して結論を出すので、半年~1年以上先になる。

   今の景気拡大局面は、2012年12月に始まったと判定済みで、2019年1月まで拡大が続いていれば74カ月(6年2カ月)になり、最長記録更新になる。茂木敏充経済再生担当相は1月の月例経済報告の際、「戦後最長になったとみられる」と明言したが、正式な判定はずっと先になる。

   このように、月例報告の判断は、あくまでも現時点での見方で、データを機械的にみる景気動向指数と比べ、一定の「裁量」の余地がある。悪く言えば「政治判断」が介在することがある。過去、景気回復の持続にこだわった担当大臣の交代後、景気がとっくに後退していたと認定された例もある。

   そこで、今回の判断を詳しく見てみよう。個人消費について「持ち直している」を15カ月連続、設備投資も「増加している」を7カ月連続で維持した一方、生産は前月の「一部に弱さがみられるものの、緩やかに増加している」から、「一部に弱さがみられ、おおむね横ばいとなっている」と2カ月連続で判断を下方修正し、輸出は「このところ弱含んでいる」との判断を据え置いた。生産と輸出の2項目の悪さが全体の下方修正につながったということだ。

   具体的には、中国経済の減速の影響が大きい。米中貿易戦争とも絡んで中国経済の先行き不透明感から投資や生産が控えられ、情報関連材を中心に、日本からの輸出が弱含んでいる。このあおりで国内の生産も低迷し、鉱工業生産指数は1月まで3カ月連続で前月より低下している。

エコノミスト「公共事業をこれ以上積み増しても...」

   3月7日に発表した1月の景気動向指数で、基調判断を、それまでの「足踏み」から「下方への局面変化」に引き下げたのも、こうした生産などの停滞を示すデータなどを機械的に反映した結果だ。ちなみに、この「下方への局面変化」という表現は、景気がすでに数カ月前から後退し始めている可能性が高いことを示す。

   それでも今回、茂木氏が「現時点で景気回復が途切れたとは考えていない」と強調するのは、消費と設備投資が堅調なことが理由だ。

   政府の景気判断は、景気の変わり目に差し掛かると、難しくなるのが当然で、勢い、表現が微妙になる。「霞が関修辞学」の代表格とされる所以だ。しかも、政府は一般に、景気がいいとアピールしたいものだから、景気後退がはっきりするまでは、「まだ大丈夫」と言い張ることが多い。また、「景気は『気』から」と言われるように、景気悪化を政府が認めてしまうと、本当に景気の足をひっぱりかねないという悩ましさもある。

   エコノミストの現状認識も、「中国の景気テコ入れなどで世界経済が総崩れにはならない」といったものから、「上昇が陰り、下降に転じる可能性もある『踊り場』といった表現が適当」、あるいは「昨秋にピークをつけ、すでに後退局面入りしている」など、割れている。

   茂木氏は20日の会見で、安倍晋三首相が10%への消費税率引き上げを延期した2016年と比較し、「内需がしっかりしており米国経済も堅調。当時とは状況が違う」と説明した。ただ、設備投資や消費も息切れ、失速するようなら、政府が追加の経済対策を検討せざるを得ない状況になる可能性もある。だが、対策を行うにも、消費税増税のダメージを緩和するため既に2兆円規模の経済対策を決めており、「公共事業をこれ以上積み増しても実行し切れない」(エコノミスト)とも指摘される。