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前回は2年前、前々回は3年前... 発行「5年前」の新紙幣発表は、本当に「政権の思惑」なのか

   新元号「令和」の発表からわずか8日後、1万円札などの紙幣刷新の発表があった。発行目途は約5年後だ。

   会見した麻生太郎財務相は、発表のタイミングについて「たまたま改元と合わさった」と発言したが、メディアの中には「『令和』と相乗 政権思惑」(毎日新聞)と報じるところも。実際、前回刷新の際の発表は発行の「約2年3か月前」で、前々回では「約3年4か月前」。これらと比較すると、今回の準備期間は長めになっている。それはなぜか。J-CASTニュースが財務省に聞いた。

  • 新1万円札の肖像は渋沢栄一に(写真は財務省発表資料から)
    新1万円札の肖像は渋沢栄一に(写真は財務省発表資料から)
  • 新1万円札の肖像は渋沢栄一に(写真は財務省発表資料から)

印刷開始まで2年半、自販機対応と合わせて「5年」

   「紙幣刷新『たまたま改元と重なった』 麻生財務相」(日本経済新聞ウェブ版)

   麻生大臣の刷新発表があった2019年4月9日、「たまたま」発言を強調する、こんな見出しの記事が相次いだ。4月1日に新元号(5月1日から)が「令和」に決まったと菅義偉官房長官が発表してから1週間強しか経っていないタイミングだったからだ。日経の他にも、

「紙幣刷新に麻生氏『たまたま改元と合わさった』」(読売新聞オンライン)
「紙幣一新、正式発表 新元号とは『たまたま重なった』」(朝日新聞デジタル)

といった報道があった。

   麻生大臣は会見で、発表のタイミングがこの時期になったことについて、次のように説明した。印刷の開始までに2年半程度かかり、その後に自動販売機などの機械を対応可能なものにするために変えていく必要があるとして、

「準備を考えて合計5年の期間が必要だと判断した」
「(略)毎回20年で改刷しているが、たまたま改元と合わさった」

との見解を示した。

毎日新聞は「政権思惑」、NHKも「狙い」指摘

   ただメディアの中には、額面通りに「たまたま」とは思えない、との思いがにじむ見方を披露するところもあった。毎日新聞(東京本社最終版、10日付朝刊)は、「クローズアップ」欄で、「『令和』との相乗 政権思惑」の見出しも使い、麻生大臣の「たまたま」発言を紹介したすぐ後の部分で、

「だが、大幅に早い発表には、新紙幣を21年に自民党総裁任期を終える安倍氏のレガシー(遺産)にしたい意向もにじむ」
「政府が新元号に続いて新紙幣を発表したのは相乗効果への期待もあるようだ」

と指摘した。

   また、日経新聞(同、9日付夕刊)は1面の記事本文で

「複数の政府関係者は9日、『新紙幣は新時代を見据えたものだ』と話した。4月1日の新元号『令和』の公表から間をおかずに新紙幣を発表したことで、新時代の幕開け機運を醸成するとの期待がある」

と結果論の形を取りながら、新元号と新紙幣の発表を結び付けた。さらには、正式発表前の9日未明にはNHK(ウェブ版)が、

「この背景には、皇位継承に伴って来月1日に元号が『令和』に改められるのに合わせて、新しい時代を国民がこぞってことほぐ環境を醸成する狙いもあったと見られます」

との見立てを披露していた。

発表から新紙幣の発行までの期間は、今回は「2019年4月発表」で「24年度上期を目途に発行」のため、約5年となる。前回刷新時は「02年8月発表」、「04年11月発行」で約2年3か月。前々回は「1981年7月発表」、「1984年11月発行」で約3年4か月。こうして比較すると、今回はやや突出して準備期間が長い(発表時期が早い)ように見える。なぜなのか。J-CASTニュースは財務省に話を聞いた。

前回起きていた、あるトラブル

   質問の概要は「麻生大臣は会見で、発行まで5年の期間について、自動販売機などが新紙幣に対応できるよう準備期間を設けたなどと説明したが、『自販機などへの対応の必要性』については、前回(02年発表、04年発行)の時も同様にあったのではないか。どこが今回と異なるのか」といったものだ。

   これに対し、財務省の担当者は、

「前回は、偽造券(偽札)の増加という状況に対応するため、短期で新しい技術を速やかに導入する必要があった。このため、結果としてATM(現金自動預け払い機)では混乱は比較的少なかったようだが、自動販売機の対応準備が間に合わず、しばらく不便をきたした。こうした点を踏まえ、今回の措置となった」

と、前回より準備期間を長く設けた理由を説明した。

   では、前回の「新紙幣」発行が始まった(2004年11月)頃における自動販売機(の紙幣識別機)の交換作業の実態はどうだったのだろうか。当時の新聞記事を確認すると、直前10月末の日経記事(「自販機切り替え、人海戦術も追いつかず」)で、JTグループは「(11月1日までに交換が済むのは)全体の3割程度」、日本コカ・コーラは「来年末になっても新札対応は7割にとどまる」との状況が報告されており、実際に対応の遅れが生じていたようだ。

   「たまたま」問題はさておき、今回の紙幣刷新では、前回のような混乱はなく、多くの自販機で新札がスムーズに使えるようになるのか。少なくとも、準備期間は前回より余裕があるのは間違いない。

   5月1日からは元号が「令和」となる。新札発行が始まる2024年は、令和6年に当たる。