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「現代用語の基礎知識」72年目の転機へ 大幅リニューアルに向け準備、「休刊」は否定

   「ユーキャン新語・流行語大賞」の選出元としても知られる「現代用語の基礎知識」。その同書が大幅なリニューアルに向けて調整中であることが分かった。

   筆者らへの手紙には「いったんお休み」の表現もあるものの、編集部側はJ-CASTニュースの取材に対し「休刊」を否定。具体的なリニューアル内容については、今後改めて発表するとしている。

  • 「現代用語の基礎知識」最新版(2019年・左)と、創刊復刻版(1998年版付録・右)
    「現代用語の基礎知識」最新版(2019年・左)と、創刊復刻版(1998年版付録・右)
  • 「現代用語の基礎知識」最新版(2019年・左)と、創刊復刻版(1998年版付録・右)
  • 「対日基本政策」について解説する創刊復刻版

「新しい『現代用語の基礎知識』を新創刊します」

   同書を発行する自由国民社は2019年2月、記事を執筆する複数の著者に対し、

「このたび、昨年(2018年)11月発売の2019年版をもってこれまでと同じかたちでの『現代用語の基礎知識』はいったんお休みすることといたしました」

との文言が入った手紙を送付。ただ、同時に、

「手に取りやすい、新しい『現代用語の基礎知識』を新創刊します」

との文言も含まれていた。また、別冊など関連シリーズは刊行を継続するとある。

   同書は1948年10月10日に雑誌「自由国民」(自由国民社刊)の特別号として発売。これが記念すべき第1号となる。翌年には「続編 現代用語の基礎知識」が出版され、年刊の方式による出版が確立。その後も順調に号数を重ねていき、1984年からは、同書に収録されている言葉の中から選ぶ「新語・流行語大賞」を主催するようになった。毎年秋に翌年版を発売しており、昨年11月発売された「2019年版」が現時点の最新版となる。

   「1998年版」の付録として発行された第1号の復刻版を見てみると、「占領政策」という欄には、「ポツダム宣言」「対日基本政策」「公職追放」「極東軍事裁判所」など、占領下の日本ならではの言葉が当時の「現代用語」として収録されているのが分かる。

   時代は下って、「2000年版」を見てみると、「ガイドライン関連法」「情報公開法」といった、同年に可決・成立した法律名に加え、この頃から一気に普及が進んだ「携帯電話」が名を連ねるほか、翌2000年に「IT革命」が叫ばれるようになっただけあって、「ホームページ」「フリーウェア」「USB」「MP3」「DVD-ROM/DVD-RAM」も取り上げられている。

   また、「2017年版」の特集「ニュースのおさらい」を見てみると、「熊本地震」と自然災害に始まり、政治の世界からは「共謀罪」、国際関係からは「パナマ文書(タックス・ヘイブン)」、スポーツからは「野球賭博問題」と、やはり、その年の世相を表わす言葉が続々。ほかにも、「自動運転車」「ポケモノミクス」という具合に、テクノロジーについての言葉も充実している。

   「イミダス」(集英社)、「知恵蔵」(朝日新聞社)などの競合が紙での展開を終了する中、その孤塁を守り、まさに、時代の鏡として昭和・平成を歩んできた「現代用語の基礎知識」。果たして今後、どうなってしまうのだろうか。

「より時代に即したかたちで読者の皆様にお届けできるよう」

   そこで、J-CASTニュースは同書編集部に対し、同書と流行語大賞が今後どうなるかについて取材を実施。その結果、大塚陽子編集長の名義で、メールで回答があった。

   まず、手紙に関しては同社が筆者に送ったものであることを認めつつ、「いったんお休み」との表現については、「休刊するわけではありません」と、休刊を否定。刊行形態についても「雑誌コードです」とした。その上で、

「これまでも70余年の歴史の中でさまざまに試行錯誤してまいりましたが、より時代に即したかたちで読者の皆様にお届けできるよう考えております」
「現在、内容については検討を重ねており、あらためて正式に発表できると思います」

と、現時点では同書のリニューアルを想定しているとの考えを示した。

   具体的な「リニューアル」の内容は、どのようなものになるのだろうか。同書で「働き方事情」のページを担当した常見陽平さん(千葉商科大学専任講師)は、

「近年、現代用語の基礎知識は毎号アップデートしなければならないページと、そうでないページが出てきた。これらを同居させて辞書的な機能を維持する、ということをやめるということではないか」

と分析する。

やくみつるさんは「選考委員は続けたい」

   また、気になるのは「流行語大賞」の行方だ。選考委員を務めている漫画家のやくみつるさんはJ-CASTニュースの取材に、

「日頃、世事には気を配っているつもりですので、流行語大賞の選考委員を継続してまいりたいのはヤマヤマです」

と、選考委員を続ける意欲を明かしている。前述の大塚編集長のメールでも、「従来どおり行う予定で、基本的な変更は特にございません」との回答があった。

   前述のとおり、流行語大賞は「現代用語の基礎知識」から選出される。近年では、2017年は「忖度」「インスタ映え」。また、2018年は「そだねー」が年間大賞を受賞しており、「政治」「芸能」「スポーツ」といった多岐にわたるジャンルから受賞語が出ているのが分かる。だからこそ、その年ごとの世相を批評するという意味で長年にわたって存在意義を示していたと言えるだろう。

   近年は、その選出がネットを中心に「政治的」との評も。だが、同書の前編集長の清水均さんは、こう真意を明かす。

「流行語大賞に政治的な言葉のノミネートが多いと書かれ始めたのは『アベ政治を許さない』をトップテンに選んだ年(2015年)でしたが、クレームに困惑しつつも、一方で『してやったり』と思ったのも確かです。もともと、芸能もスポーツも政治経済も同じ土俵に上げて世の中をあれこれ考えることができるのが流行語大賞なんです。それが1984年の第1回からこの賞に関わって来た私の認識です」

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)