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J1大誤審への処分は、本当に「甘すぎる」のか 専門家が「筋は通っている」と評する理由

   サッカーJ1・浦和レッズと戦った湘南ベルマーレMF杉岡大暉のシュートがゴールラインを割ったにもかかわらず得点と認められなかった誤審問題で、日本サッカー協会(JFA)が審判員に下した措置が「甘すぎる」と疑問を示す声がインターネット上で続出している。

   決定した措置は「1~2週間の公式戦割り当て停止」。これにネット上では「年単位でいいだろ」などと厳罰を求める声が相次いでいるのだ。だが、サッカージャーナリストの石井紘人氏は今回の措置について「筋は通っている」との見解を示す。

  • 浦和-湘南戦が行われた埼玉スタジアム2002(試合当日の写真ではありません)
    浦和-湘南戦が行われた埼玉スタジアム2002(試合当日の写真ではありません)
  • 浦和-湘南戦が行われた埼玉スタジアム2002(試合当日の写真ではありません)

「たった2週間の停止で済むのか」

   JFAは2019年5月20日の臨時審判委員会で、湘南戦の審判団への措置を決定。下されたのは、山本雄三主審と浦和ゴール側の川崎秋仁副審が「2週間の公式戦割り当て停止措置」、湘南ゴール側の中野卓副審と、熊谷幸剛第4審は「1週間の同措置」だった。5月18日から計算され、6月には公式戦の審判に復帰できることになる。

   Jリーグ史に残りかねない今回の誤審。得点に直接関わるものだったという重大性に加え、報道によると小川佳実審判委員長が「この件を重く受け止めている」との認識を示したことも相まって、ネット上では、

「随分と軽い処分だな」
「1年間停止で研修生からやり直し、くらいしろよ甘すぎ」
「たった2週間の停止で済むのか こんなの今期全停止で降格だろ」
「重く受け止める(処分は1週間だけ) どこが重く?」

など軽重をめぐって違和感の声が続出した。

「ヒューマンエラー』の側面があった」

   サッカージャーナリストで審判員資格の取得経験がある石井紘人氏はJ-CASTニュースの取材に、「この措置が重いか軽いかの判断は難しいです」と話す。

「今までもっと重いものもありました。公表はされていませんが昨季、後半アディショナルタイム(AT)を『19分』も取った試合(編注:18年11月24日の清水エスパルス-ヴィッセル神戸戦)の時は、今回よりも重い措置が審判員に下ったと思っています。この試合はATにファウルが起きて試合が一時中断しました。もともと提示されていたATだけを消化すれば良かったところ、主審は試合が止まった分の時間も考慮するものと勘違いし、異例の長いATを取ってしまいました。これは『ルール適用のミス』でした。

一方、湘南戦の誤審は、ゴールに入っているかいないが見えなかったという『ヒューマンエラー』の側面があり、見極めが難しい部分がありました。あの場面の見極めができなかっただけで、試合進行に大きな問題もなく、ゲームコントロールができていなかったとは言い難いでしょう。ただ、『ヒューマンエラー』ではありながら、『それでも今回の場面は見極めないといけない』という姿勢が、2週間の割り当て停止につながったと思います。

『重い』と見るか『軽い』と見るかは立場によって変わるものですし、『軽い』と感じる人がいるのも理解できます。しかし、審判委員会としての一定の基準は見えます。筋は通っていると思いますね」

そもそも停止措置の「発表」自体が異例

   小川委員長も「今回は『ヒューマンエラー』。ただ言い訳はできない」との認識を示していた。さらに石井氏は「そもそもJFA側が審判員への停止措置を発表したこと自体が一番重いと思います」と話す。

「JFAとしては『重く受け止めている』からこそ、割り当て停止措置を下すことを発表したと捉えたほうがいいかもしれません。審判員への割り当て停止措置を発表するのは10年くらいなかったと思います。今回はファン・サポーターの注目が大きかったことで、発表に踏み切ったのでしょう」

   ネット上では上記の通り「降格だろ」「クビにしろよ」などと厳罰を求める声もあるが、石井氏は懐疑的だ。

「ヨーロッパ主要リーグでも、期間の差こそあれ、割り当て停止自体はあるでしょう。向こうでも誤審はあります。それが連発すれば別ですが、今回のような誤審があったからといって、ヨーロッパでもその審判をクビにするようなことはないと思います。

選手のミスと通じるものがあります。同じミスが何度も続いたらメンバーから外されると思いますが、この1回でクビなどにしてしまうと、そもそも審判をやる人がいなくなってしまいます。今回の件でJFAも、『やってはいけないミスだけど起こり得るものだ』という認識で、改善を促していくものと思います」

シーズン途中の「追加副審(AAR)」導入はあり?

   JFAは再発防止策として、ゴール判定の精度向上のためにゴール脇に立つ「追加副審(AAR)」の導入を、今季8月以降のJ1の試合について検討するとしている。シーズン途中の制度導入については賛否あるが、石井氏は導入に前向きだ。

「クラブと選手がどう思うかが一番重要ですね。理由を説明して、シーズン途中でも導入すべきだと合意を得られれば、導入してよいと思います。全チーム納得のうえで、その後の全試合に導入すれば平等性は保たれると思うからです。疑問があれば不公平感につながると思いますが、そこは丁寧にクラブの意見を聞くべきですね」

(J-CASTニュース編集部 青木正典)