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ひきこもり経験者・当事者は、マスコミ報道をこう見ている 川崎殺傷、偏見助長への懸念

   神奈川県川崎市・多摩区の殺傷事件で、容疑者の男が「ひきこもり傾向」にあったとメディアで報じられたことをめぐり、ひきこもり経験者や当事者関係団体からは「ひきこもりへの偏見が広がる」と懸念の声が上がっている。

   J-CASTニュースでは2019年5月31日、メッセージを発信した関係者にそれぞれ話を聞いた。

  • 石崎編集長の記事(ひきポスのサイトより)
    石崎編集長の記事(ひきポスのサイトより)
  • 石崎編集長の記事(ひきポスのサイトより)
  • マスコミ関係者らに呼び掛けた声明文(ブログより)

ひきこもり経験者「当事者を追い詰めるのではなく」

   ひきこもり当事者や経験者が自ら声を発信するメディア「ひきポス」の石崎森人編集長。容疑者の男が「ひきこもり傾向のある」と報道されたことを受け、30日に「川崎殺傷事件『犯人にひきこもり傾向』報道から思うこと」と題した記事をウェブ版のサイトで公開した。

   自らもひきこもり経験のある石崎さん。報道を受け、記事で、「世間が、ひきこもっている方たちへ無差別殺人犯予備軍のようなイメージを持つようなことが起きれば、それはまさに偏見の誕生である」と警鐘を鳴らし、

「例えば、無差別殺人の犯人は男性がほとんどだが、だからと言って男性すべてが無差別殺人犯予備軍だと言われたら、そんなことはないと言うだろう。パワハラ上司に元体育会系が多いからと言って、体育会系が危険団体だと言ったら、メチャクチャな理屈だと言われるだろう。

それと同じように、その人の属性の一部が一致するからと言って、その他の人たちも同じように『危ない人』としてみるのは、偏見である」

とつづる。

   「失うものがなかった時を過ごしたことのある私は、犯人の気持ちがまったくわからないでもない」。こう明かす石崎さん。「彼の犯した罪は全く許されるものではない」としつつ、「何もなかった二十代後半の自分なら、私立の制服を着ている子どもたちを見て、怒りはしないだろうが、きっと落ち込んでいたと思う。運命の不平等さを突きつけられているようで」と自らの過去と重ねた。

「バッシングが起きるんじゃないか」懸念から発信

   報道後、ネット上ではひきこもりに対するバッシングが出ていることに触れ、「このような言説が広まれば、ひきこもりの当事者や、かつてひきこもりだった者も深く傷つく」と懸念を示し、

「当事者を追い詰めるのではなく、しっかりと事件を検証し、社会の不安が和らぐ報道や言論であってほしい」

   と求めた。J-CASTニュースでは、石崎さんに話を聞いた。24歳から27歳くらいまでひきこもりの経験があったという石崎さん。「今の報道のあり方だと、ひきこもりやひきこもっている人に対するバッシングが起きるんじゃないかという思いがあった。ひきこもりであることと犯罪をおかすことがイコールになってしまう」と語った。

   最近のマスコミ報道では、「ひきこもりであることと犯罪は関係ありません」と前置きして話す人がおり、数年前からは意識が高くなっているように思うというが、「そういう前置きが必要ではないか、引きこもることと凶悪犯罪を起こすことはどれだけ関係するのか、かなり検討してほしい」と呼び掛けていた。

当事者や経験者団体「『ひきこもり』への偏見の助長の懸念」

   ひきこもりの当事者や経験者らでつくる「一般社団法人ひきこもりUX会議」は31日、「川崎殺傷事件の報道について」と題した声明文を出し、マスコミ関係者らに要望を行った。

   声明文で同会議は、川崎市による会見で、「長期間仕事に就かず、ひきこもり傾向にあった」「同居の親族からおこづかいをもらっていた」などの内容があったことについて、

「これらが事実であったとしても、ひきこもっていたことと殺傷事件を起こしたことを憶測や先入観で関連付ける報道がなされていることに強い危惧を感じています。
『ひきこもるような人間だから事件を起こした』とも受け取れるような報道は、無関係のひきこもり当事者を深く傷つけ、誤解と偏見を助長するものだからです」

と懸念を示した。以前もひきこもりがちな状態の人物が刑事事件を起こしたことをめぐって、「メディアで『ひきこもり』と犯罪が結び付けられ『犯罪者予備軍』のような負のイメージが繰り返し生産されてきました」と指摘。「社会の『ひきこもり』へのイメージが歪められ続ければ、当事者や家族は追いつめられ、社会とつながることへの不安や絶望を深めてしまいかねません」と訴えた。

   ひきこもり当事者や本人の家族が高齢化し、生活上の問題を伴う「8050問題」にも言及。声明文では「『8050問題』への誤解を引き起こす」と問題提起し、「今回の事件と関連づけて『まさに8050問題』と表現することも適切ではないと考えます」と見解を示していた。報道をする際は、「『専門家』『有識者』だけではなく、ひきこもり当事者・経験者の声を取り上げていただきたくお願い申し上げます。当事者不在で『ひきこもり』が語られ、実態に即さないイメージが拡大していくことは、さらなる誤解と偏見を引き起こします」と求めていた。

   J-CASTニュースでは31日、同会議の恩田夏絵代表理事に取材をした。川崎出身だという恩田さんは、「地元でこういう事件が起こることは非常に悲しい」と声を落とす。川崎市の会見後、「ひきこもりと事件が結び付けられて報道がすごい勢いで広がっていった」といい、

「これまで何か凶悪犯罪が起きて、犯人がたまたまひきこもりで、『ひきこもり=危ない人たち』と見られてきたのが長いことある。『ひきこもり=危ない、なってはいけないもの』みたいなイメージが当事者たちを苦しめている。事件をきっかけにひきこもりへの偏見が広がるのは避けたい思いがあって、声明文に書かせて頂きました」

と語った。

(J-CASTニュース編集部 田中美知生)