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ふるさと納税は、まだポテンシャルを秘めている 脱「激安通販」で開ける未来

   実質負担2000円で、全国各地から返礼品を手に入れられる「ふるさと納税」。そのルールが2019年6月から厳格化される。

   返礼品を「寄付額の3割以下の地場産品」に定める改正地方税法が3月に成立。加えて、一部の自治体は、適用対象から除外された。高価な返礼品でアピールしていた自治体が一掃されて、ふるさと納税はどうなるのだろうか。

  • 税額面の優遇が特徴だが…
    税額面の優遇が特徴だが…
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除外自治体「総務省が理解を示すべき」

   総務省は19年5月15日、6月からの制度対象地域から静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町、大阪府泉佐野市の4市町を除外すると告示した。これらの自治体に寄付しても、少なくとも来年9月まで、税制面での恩恵は受けられない。

   この4市町はいずれも高い返礼率で、納税者から注目されていた。対象になった自治体からは、

「今後、地方が自立していかなければならない時代に、丁寧な議論もなく、地方の自由な発想を国の制度という形で抑えられるということは残念でなりません。高野町のふるさと納税に対する考え方にこそ、総務省が理解を示すべきだと考えます」(平野嘉也・高野町長、広報「高野」6月号より)

といったコメントも出ているが、なかでも総務省との対決姿勢を示しているのが泉佐野市だ。

   告示後の5月17日には、千代松大耕市長によるコメント「泉佐野市の主張 ~ふるさと納税の本来の役割とは~」が、公式サイトに掲載された。ここで千代松市長は、総務省の決定を「大変驚き、困惑しています」として、地方税法改正以前からの取り組みを踏まえたのは「法の不遡及」から逸脱していると訴えている。

激越批判の泉佐野市、復活の可能性は?

   あわせて同日公開された「ふるさと納税の本来の役割とは?」なる資料では、38ページにわたって泉佐野市の考え方を説明。ここでは08年の制度スタートから、高額化の背景、15年以降の規制まで、一連の経緯や課題点を紹介しつつ、赤字で強調された部分では「本音」をあらわにしている。

「余計なことかも知れませんが、現在でも3割と申告しながら、3割を超える返礼率で実施している自治体は、多くはないですが存在します」
「泉佐野市に対しても、総務省とのやり取りとの中で、総務省の担当者から『交付税などどうにでもできる』という趣旨の発言があり、脅しともとれるような違法な関与だったのではないかと考えています」

   除外された4市町は、今後再び対象になるのか。石田真敏総務相は5月17日の会見で、地方財政審議会で議論していく予定だとする一方で、「正直者が損をすることを放置すべきではない」といった声も踏まえる必要があるとした。また、今年度(制度改定前の4~5月分も含む)の取り組みなど「客観的な情報」をもとに判断する方針も示した。5月下旬に最大返礼率70%の「最大で最後の大キャンペーン!」を行った泉佐野市は、ここでハンデを負う可能性がありそうだ。

自治体は「新たな返礼品を作り出すアイデア」を競っては

   これまでのふるさと納税は、価格競争による「激安通販」の側面もあった。そこを是正する目的では、今回の厳格化は意味を持つだろう。しかし、納税者には「お得に商品がもらえなくなる」、自治体には「財政難打開のチャンスが減る」といったデメリットもある。

   そこで、これを機会に、位置づけを変えるのはどうか。納税者は「『通販では買えないもの』を手に入れられる」、自治体は「地元住民以外の『ファン』を増やすチャンスが増える」と考える。現在でも一日町長や、新庁舎への氏名刻印、ローカル鉄道のヘッドマーク掲出といった、ふだん得られない経験で、地域への愛着を高めようとする返礼品が、各地でラインアップされている。ここを拡充していくのだ。

   所有欲や名誉欲をくすぐる返礼品。たとえば、ネーミングライツ(命名権)の仕組みを応用して、一定期間に限って公共施設の名前を付けられる、なんてのも面白そうだ。3万円の寄付で、公民館に自分の名字が1年間冠されるとなれば、遠方でも旅行してみたくなる人は一定数いるだろう。自治体ごとのアピールポイントを「お得な商品の確保」から、「新たな返礼品を作り出すアイデア」に変えることで、ふるさと納税は、より有意義な制度になる可能性を秘めている。

(J-CASTニュース編集部 城戸譲)