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G20での反応は...? 政府・温暖化対策「長期戦略」の微妙な評判

   2019年6月28、29日に大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議。安倍晋三首相にとって、参院選前の重要な「大舞台」となる。

   その重要なテーマとなるのが環境問題だ。政府はこれに向けて地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」に基づく「長期戦略」を策定。6月中旬に決定して国連に提出する方針だ。

   政府は「2050年までに温室効果ガス排出量を80%削減」との目標を掲げており、長期戦略はこの実現に向けたシナリオとなるはずだが、その中身は心もとないだが、安倍首相はG20で、温暖化対策分野でのリーダーシップをアピールしたいところ。だが、温室効果ガス削減の方法は先端技術や技術革新頼みなど、世界の評価を得られるかは微妙だ。

  • G20会場となるインテックス大阪
    G20会場となるインテックス大阪
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新たな技術開発で実現目指す

   パリ協定は、産業革命前に比べて地球の平均気温の上昇を2度未満、できれば1.5度に抑える目標を掲げる。2度未満実現のために、国連は世界のCO2排出量を2070年までに実質ゼロにする必要があると提言しており、長期戦略案も、再生可能エネルギーの普及を進めるなど、今世紀後半の早期に「脱炭素社会」の実現を目指すと強調している。

   その実現の方向として、太陽光や風力など再生可能エネルギーの主力電源化を目指すのと並んで、温暖化対策を新たなイノベーション(技術革新)や投資を促進する「成長戦略」と位置付けたのが大きな特徴だ。

   そこで、重きを置いたのが、これまでの延長線上にはない新たな技術開発による「非連続的イノベーション」の推進。具体的には、CO2を回収し、地中に貯留する技術(CCS)を2030年までに石炭火力発電に導入、CO2をメタンガスなどの燃料や建設資材などに作り替える技術(CCU)を2030年以降に実用化することを目指すとした。水素の製造費を2050年までに現在の1割以下にし、天然ガスより割安にして普及を促すと明記。さらに、事故の危険性を抑えるとされる次世代原子炉の開発を進めることも盛り込んだ。

目玉となる「CO2の再利用」。しかし...

   この中で、特にCO2の再利用は経済産業省がG20をにらんで「仕込んだ」ネタだ。1月にスイスで開かれたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に出席した安倍首相が「CO2は最も手に入れやすい、多くの用途に適した資源になるかもしれない」との演説をすると、直後の2月1日に経産省は資源エネルギー庁に「カーボンリサイクル室」を設ける手回しの良さを見せた。CO2リサイクル技術の研究開発の工程表を作成してG20首脳会議の関連会合で発表する方針だ。

   だが、こうした技術革新は、言うは易く、行うは難し。例えばCO2からメタンを作る化学反応は20世紀初頭から知られているが、そのために水素や触媒が必要で現状では莫大なコストがかかる。経産省も「CO2の再利用は商用化のめどが立っていない」と認める。

   もう一つ、長期戦略での石炭火力の位置づけ。実は、長期戦略のベースになった有識者会議の提言は石炭火力について、当初の北岡伸一座長(国際協力機構理事長)の案に「長期的に全廃に向かっていく姿勢を明示すべきだ」とあったのが、中西宏明経団連会長ら財界出身の委員から異論が出て、「依存度を可能な限り引き下げる」と表現が後退し、「全廃」の文字は消えたという経緯があった。

「石炭」手放せない理由は?

   CO2排出量が多いとして、世界では「脱石炭火力」が大きな潮流になっているが、日本は東日本大震災を受けて石炭火力への依存が高まり、今後の新設計画も目白押し。さらに、途上国では安価な石炭に頼る部分もなお大きく、日本は石炭火力としては世界トップレベルの効率を誇る技術力を武器に、輸出戦略の中に位置付けている。こうした日本の複雑な立場が、長期戦略にも反映された形だが、これで世界の温暖化防止の議論をリードするのは難しい。

   さらに、原発について長期戦略は、新たな原子炉技術の開発のほか、足元の政策として「再稼働を進める」「利用を安定的に進める」とした。原発を重要なベースロード電源と位置付ける国のエネルギー基本計画に沿った内容だが、現状は再稼働が9基にとどまる。

   これについては、脱原発の東京新聞社説(4月25日)が「温暖化対策を原発復権の口実にしてはならない」と批判する一方、原発容認・推進の側からは「原発をエネルギー源のひとつとして使い続けるなら、新増設の議論から目をそむけてはならない」(日経5月5日社説)、「安全性を確認した上で再稼働を進める必要性を、政府は国民に丁寧に説明しなければならない。......(政府は)基幹電源と位置づけている以上、新増設の方針を明記すべきだ」(読売4月11日)と、政府の「及び腰」を批判する論調も目立つ。

   原発の是非は脇に置くにしても、長期戦略は、全体として「目先の痛みを回避し、将来の技術開発に頼ってばかり」(毎日4月6日社説)の感は否めず、「今の削減ペースでは(2050年に80%削減の目標)達成がほぼ絶望的だ。もう一段の対策が要る」(日経5月5日社説)との見方は強い。