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チケット転売禁止法、早くも透ける限界 施行でどこまで「変われる」のか

   2019年6月14日に、チケット不正転売禁止法(特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律)が施行された。

   インターネットを通じて近年拡大してきた、チケットの高額転売防止を目的とするが、果たして実際の効果は見込めるのか。施行後の転売市場の様子などを取材した。

  • ファンのニーズを満たす健全な市場は実現できるか(画像はイメージ)
    ファンのニーズを満たす健全な市場は実現できるか(画像はイメージ)
  • ファンのニーズを満たす健全な市場は実現できるか(画像はイメージ)

規制対象はあくまで「特定興行入場券」

   2010年代のライブエンタテイメント市場の拡大に伴って、チケットの高額転売もエスカレートしていた。16年には音楽業界団体と著名アーティストが連名でチケットの高額転売に反対する広告を発表しており、今回の法成立にも音楽業界と、東京五輪を控えたスポーツ界の意向が強く反映された。

   しかし実は今回施行のチケット不正転売禁止法で規制対象となるのは、あらゆる興行のチケットではない。条文は「特定興行入場券」の高額転売を規制するものであるからだ。

   では特定興行入場券とは何なのか。条文を引用すると、

「興行主が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明記し、かつその旨を当該興行入場券の券面に記載」
「興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者又は座席が指定」

などが規定されている。転売(有償譲渡)が禁止され、券面や電子チケットの端末画面に購入者氏名や座席が明記されている、またチケット購入の際の決済画面などで興行主が個人情報を確認する旨を明示しているものが対象となる。

   したがって、チケットに購入者の氏名も座席番号も記載されていない券や、無料で配布されたイベント整理券などは、転売規制の対象とならない。

   そして本法で禁止されている不正転売も、「販売価格を上回る価格で」「業として」行っているものに限られる。

「業として」とはどのレベルから?

   この「業として」が何をもってみなされるのか。文化庁にも見解を聞いた。

   法律を所管する文化庁文化経済・国際課に6月18日に取材すると、「業として」とは、

「反復して何度もチケットを高額で転売し利益を得ていれば、常習的に転売を行っているとみなし、警察による捜査の対象となる可能性もあります」

   という回答だった。チケットの定価に購入の際に支払った販売手数料を明示して譲渡する程度ならまだしも、定価を大幅に超えるような転売・譲渡を繰り返していれば、本法により「クロ」とみなされる可能性は高い。しかしあくまで定価以下の額であれば、譲渡のやり方を問わず本法では規制対象にならない。

   一方で本法の施行後の6月19日現在でも、ネット上の二次流通サイトでは、ジャニーズ・宝塚歌劇・ミュージカル・JPOPアーティストなどを中心に定価を大幅に上回る価格で出品され、また取引されているチケットが少なからずある。

   例えば定価8300円の興行で1万円以上の価格で出品されている例があり、劇場の2列目・3列目といった良席は定価の2倍近い、2万円以上の価格で出品されたチケットもある。また初日や千秋楽ともなればさらにプレミアがつけられ、定価の倍をも上回る3万6000円で取引が成立していたり、後方席でも定価に5000円前後上乗せされていたりするチケットが珍しくない。

   二次流通サイト側ではこのような現状にどう対応しているのか。サイトのひとつ「チケットストリート」の西山圭社長に電話取材を行った。

善意の購入者には難しい「区別」

   西山社長は取材に対し、

「業としての高額転売については、高額のチケットを反復して出品している出品者は『業として』行っている可能性が高いとみなし、出品を取り下げさせる、購入経緯を問うなどの措置を行い、できる限り不正転売阻止に努めています」

と答えた。とはいえチケットストリートなどもあくまで二次流通サイトであり、出品者に代わってチケットを確認できるわけではない。前述のように高額で転売されていてもそれが特定興行入場券に該当しなければ、また業とみなされるほどに転売を繰り返していなければ、出品者に言い逃れの余地がある。つまりは出品者が特定興行入場券にあたらない、あるいは1回限りだからと考えて高額転売を試みれば、それをサイト運営者が強権的に阻止することは難しい。

   チケットストリートでも、「チケット不正転売禁止法の施行にあたっての当社の運用について」掲示し、出品者・購入者双方に確認を呼び掛けているが、「都合が悪くなったがための転売」と「はじめから転売目的で購入しての転売」の区別は善意の購入者には難しい。施行前と変わらず高額転売チケットが出回っている現状を見ても、出品者・購入者どちらの目線でも、施行前と環境はあまり変わっていない――そんな見方もできる。

実は「転売屋」はかなり減っている

   実際、不正転売禁止法により、高額転売の撲滅は見込めるのか。二次流通市場を長らく見てきた西山社長は

「不正転売禁止法の施行前から我々でも対策を行い、組織的な高額転売は相当な割合で減少してきていました。今後さらに減るかは、まだわからないと考えております」

と答えた。実のところ、プログラムなどを駆使して大量のチケットを買い占め売りさばくという従来型の高額転売、いわゆる転売屋は既に壊滅状態で、二次流通サイトでも出品を受け付けないようにしているところが多いという。現在は一般の消費者による出品が多いそうだ。

   ネットやSNSにより、組織的なダフ屋でなくとも一般のファンが余ったチケットを容易に転売できるようになっている。最後はプレミアチケットを譲渡する、あるいは購入するファンの良識に委ねるしかない点は施行前後で変わっていない。エンタメファンの間でも賛否両論ある高額転売であるが、個人のモラルが問われる局面にあるといえるだろう。

(J-CASTニュース編集部 大宮 高史)