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スギVSマツキヨが「ココカラ」奪い合うのは、こういう事情だ

   花嫁1人に婿候補が複数――かぐや姫状態とでも言うのか、業界再編では、そんな構図になることがままある。

   古くは旧大蔵省の護送船団方式の金融行政の下で13行を数えた都市銀行が3メガ・りそなの4グループに再編されたが、90年代、例えば旧東京銀行(現三菱UFJ銀行)や旧協和銀行(現りそな)などは人気の「花嫁」候補だった。いま、ドラッグストア業界で、業界7位のココカラファインが人気で、同5位のマツモトキヨシホールディングス(HD)と同6位のスギHDによる争奪戦が勃発している。

  • ドラッグストア業界の動きを読む(イメージ)
    ドラッグストア業界の動きを読む(イメージ)
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ココカラを制するものが業界の「トップ」に

   ドラッグストア業界の売上高ランキングは下記の通り。

1位/ツルハHD:7824億円(2082店)
2位/ウエルシアHD:7791億円(1878店)
3位/コスモス薬品:6100億円(964店)
4位/サンドラッグ:5880億円(1147店)
5位/マツモトキヨシHD:5759億円(1654店)
6位/スギHD:4884億円(1190店)
7位/ココカラファイン:4005億円(1354店)
(注)カッコ内は期末時点の店舗数。ウエルシアとスギは2019年2月期、サンドラッグとマツモトキヨシ、ココカラファインは2019年3月期。ツルハは2019年5月期、コスモスは同期見通し(店舗数は第3四半期末時点)。

   マツキヨとココカラの売上高合計は9764億円、スギとココカラでも計8889億円で、いずれの組み合わせでも、ツルハHDの7824億円、イオン系のウエルシアHDの7791億円を悠々上回って業界トップに踊り出る計算だ。

   直近のニュースを振り返ると、6月1日、ココカラがスギと経営統合への協議を開始することを発表。4月30日にスギから申し入れを受けていたといい、協議に応じることにしたものだ。

   他方、6月5日、マツキヨがココカラと経営統合を含めた検討・協議を進めると発表した。両社は4月26日、資本・業務提携の協議をはじめると発表していた。今回、マツキヨが「資本業務提携に限らず経営統合を含むあらゆる選択肢の検討、協議を進める」と発表し、ココカラは「伝達内容を含め客観的な立場から総合的に検討していく」と発表したマツキヨは、スギの動きを受けて「提携協議」から「統合を視野」に格上げした、つまり、ココカラ争奪戦を下りないと宣言した形だ。

再編の背景には業界全体の不安

   マツキヨ、スギの「求愛」を受けたココカラは、どちらとの統合が自社にメリットがあるかを、外部有識者らの特別委員会を設置して検討するという。ココカラはこれまで、マツキヨとの提携について「9月末を目安に結論を出す」とし、今回、スギとの統合協議については「7月末に基本合意を目指す」としている。時期は流動的だが、いずれにせよ今秋までに一定の結論をめざすことになる。今のところ、3社統合については各社、否定的だ。

   ドラッグストア再編の動きの背景には、業界の成長に陰りが見えていることがある。

   都市部に多数の店舗を展開し急成長したマツキヨは郊外にも出店を進め、1995年に売上高1位に躍り出てその地位をキープしていたが、近年はウエルシアやツルハHDが積極的なM&A(企業合併・買収)で地場チェーンを取り込んで急拡大してマツキヨを逆転。他方、マツキヨなど3位以下も僅差で激しい競争を繰り広げている。

   ドラッグストアの成長を生んだビジネスモデルは、利幅の厚い医薬品、化粧品で稼ぎ、これを原資に日用品や食品で安値攻勢をかけ、コンビニやGMS(総合スーパー)の客を奪うというもの。近年は中国などからの訪日客による「爆買い」も成長を押し上げた。日本チェーンドラッグストア協会の推計では、2018年度のドラッグストア業界の市場規模は、前年度比6.2%増の7兆2744億円で、2000年度の約2兆6630億円から、20年弱で2.7倍に拡大している。

どちらを選ぶのがココカラには「得」か

   だが、出店競争で1店舗当たりの商圏は以前より狭まってきたうえ、コンビニなどとの競争は激しさを増し、医薬品を扱う店舗に欠かせない薬剤師不足で人件費も高騰。インバウンドにも陰りがみえる。かつて地場チェーンを含めて群雄割拠だったコンビニ業界が、今やセブン‐イレブン、ファミリーマート、ローソンの3強に収れんしてきたように、ドラッグチェーンも集約が進む可能性が高い。

   ココカラ争奪戦はどうなるか。

   スギとココカラは、調剤を核に医療・介護事業を強化する戦略が重なる。超高齢化社会をにらみ、健康維持や予防から介護・終末期のケアまでを一貫して扱う体制の構築を成長戦略と位置付けているのだ。スギが東海地方に強いのに対し、関東地盤の旧セイジョーと関西地盤の旧セガミメディクスが2008年に経営統合したココカラとは、地域的な補完性でも統合効果が期待できる。

   一方のマツキヨとココカラは同じ都市型店舗が中心で、地域的にも一定の店舗が競合するという不安材料もあるが、マツキヨは会員データに基づいた付加価値の高いプライベートブランド(PB)商品を強みにしており、ココカラでのPB販路拡大は大きなメリット。ココカラも商品ラインアップの充実は魅力だ。

   また、ココカラはオーナー色が薄く、マツキヨやスギとして経営統合がしやすいというのが業界での評価だ。

   大手がM&Aによって地場チェーンを傘下に収める形での「陣取り合戦」がかなり進展したドラッグストア業界は、市場の伸びに陰りが出る中、いずれ大手同士の合従連衡の時代になるとの見立てが一般的だった。ココカラ争奪戦は、まさに本格的な業界再編の号砲を鳴らすもので、その帰趨が各社の今後の戦略に大きな影響を与えるのは必至だ。