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問題児ネリ、次戦に水差す「VADA検査なし」 これで勝っても、井上尚弥との対戦は...

   元WBC世界バンタム級王者ルイス・ネリ(24)=メキシコ=が2019年7月20日、米ラスベガスのリングで元WBA世界バンタム級スーパー王者フアン・カルロス・パヤノ(35)=ドミニカ共和国=と拳を交える。現在、WBC同級1位のネリにとってWBC王座の挑戦者決定戦となり、王座返り咲きに向けて重要な一戦となる。

   薬物違反、体重超過など数々の問題を起こしながら山中慎介氏からベルトを奪ったネリ。一方のパヤノは2018年10月に「モンスター」井上尚弥(26)=大橋=に70秒KO負けを喫した元スーパー王者。どちらも日本のボクシングファンに大きな「衝撃」を与え、井上が王者として君臨するバンタム級にとどまっていることから7月20日の一戦は日本でも大いに注目されている。

  • 井上尚弥(2016年撮影)
    井上尚弥(2016年撮影)
  • 井上尚弥(2016年撮影)

経緯の説明なし...米メディアでも疑問視

   ネリVSパヤノ戦は、世界6階級制覇のマニー・パッキャオ(40)=フィリピン=の世界戦の前座として行われ、ペイ・パー・ビュー(PPV)により、全米で生中継されることが決定している。王座返り咲きを狙うネリ、パヤノ両者にとって最高の舞台での一戦となるが、この興行は大きな問題点を抱えている。それは薬物検査問題だ。

   米メディアの報道によると、この興行では厳格な薬物検査を実施することで知られるボランティア・アンチ・ドーピング協会(VADA)による薬物検査が行われないという。VADAの代わりにラスベガスを管轄するネバダ州アスレチック・コミッション(NSAC)が薬物検査を実施する。ボクシングの世界主要団体はこれまでVADAの検査を積極的に採用してきたが、この興行で採用されなかった経緯などの説明はなく、米メディアの中には不信感を隠さない報道も見られる。

   VADAは過去にネリの薬物疑惑を暴いた「実績」がある。2017年8月に行われた山中VSネリ戦に先立って実施した薬物検査で、VADAはネリの検体から禁止薬物ジルパテロールに対する陽性反応が出たことを確認してWBCに通告。しかし、WBCはこの事実を公表しながらも、メキシコでは家畜を太らせるためにジルパテロールを使用するケースがあり、ネリがその肉を食べた可能性があるとして、ネリに対する処分を公表せず、王座はく奪などの処分はなされなかった。

問われる「挑戦者の資格」

   2018年3月に行われた山中氏との再戦で体重超過の失態を犯し王座をはく奪され、無期限資格停止処分(後に6カ月の資格停止処分に変更)を受けた。昨年10月の復帰後は3連勝を飾っており、世界ランキングも1位まで登りつめた。現在のところ復帰後、ネリの体内から禁止薬物が検出されたという事実はないが、VADAによる検査が行われないという事実は、日本のボクシングファンにとっては心外だろう。

   現在WBC1位のネリは正規王者への指名挑戦権を有している一方で、WBCバンタム級は、正規王者ノルディ・ウーバーリ(32)=フランス=と暫定王者・井上拓真(23)=大橋=の王座統一戦が義務付けられている。ただ、過去の例から見ても指名挑戦権を持つネリ陣営が横やりを入れ、WBCがネリ戦を優先させる可能性はゼロではない。

   WBCタイトル戦にしろ、将来的な井上尚弥戦にしろ、いずれにしてもパヤノ戦での勝利が大前提となる。しかし、VADAの検査なしで行われるパヤノ戦は、日本のボクシングファンをはじめ、ボクシング関係者の信用をも失いかねない。「問題児」ネリが「モンスター」に挑むならば、改めて「身の潔白」を証明し、WBCのベルトを巻く必要がある。そうでなければ、ネリに「挑戦者」としての資格はないだろう。