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朝日新聞、「誤報経緯」を翌日掲載 「首相の意向を知りうる政権幹部に取材した結果...」

   元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた2019年6月の熊本地裁判決をめぐる政府の対応方針を朝日新聞が誤報した問題で、誤りを認め「おわび」を掲載していた朝日新聞は翌日の7月10日付朝刊の紙面で、改めて経緯を説明した。

   そこでは、安倍晋三首相の政治判断が焦点で、7月8日夕方の時点で「首相の意向を知りうる政権幹部に取材した結果、政府が控訴する方針は変わらないと判断した」などと説明している。大きな誤報が出た際には検証記事が出ることがあるが、今回は誤報翌日のスピード掲載となった。

  • ハンセン病家族訴訟で控訴断念を表明する安倍晋三首相(写真は首相官邸ウェブサイトから)。この日の朝日新聞朝刊は、1面トップで「ハンセン病家族訴訟 控訴へ」と報じていた
    ハンセン病家族訴訟で控訴断念を表明する安倍晋三首相(写真は首相官邸ウェブサイトから)。この日の朝日新聞朝刊は、1面トップで「ハンセン病家族訴訟 控訴へ」と報じていた
  • ハンセン病家族訴訟で控訴断念を表明する安倍晋三首相(写真は首相官邸ウェブサイトから)。この日の朝日新聞朝刊は、1面トップで「ハンセン病家族訴訟 控訴へ」と報じていた

「あとは安倍晋三首相の政治判断が焦点」

   朝日新聞は7月9日付朝刊(東京本社最終版=14版△)の1面トップで、「ハンセン病家族訴訟 控訴へ」の大見出しを打っていたが、同日午前に安倍氏は控訴断念の方針を表明。1面トップ内容と政府の発表が逆になるという事態となった。ウェブサイトに掲載されていた「国控訴へ」の記事の見出しには、ほどなく「おわびあり」の表記が加わり、本文には

「元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、朝日新聞は9日朝、複数の政府関係者への取材をもとに『国が控訴へ』と報じました。しかし、政府は最終的に控訴を断念し、安倍晋三首相が9日午前に表明しました。誤った記事を配信したことをおわびします」

と追記。同様の内容が同日夕刊1面に「誤った記事 おわびします」の見出しで掲載された。翌10日の朝刊には、1面に「控訴せず」の記事とともに、「誤った記事おわびします」と2段見出しの文章が載り、2面には「本社記事 誤った経緯説明します」の見出しで、栗原健太郎・政治部長の署名が入った記事が掲載された。それによると、6月28日の熊本地裁判決を受け、政治部、科学医療部、社会部、文化くらし報道部を中心に取材を進めたところ、

「法務省や厚生労働省、首相官邸幹部は控訴するべきだとの意向で、あとは安倍晋三首相の政治判断が焦点」

になった。安倍氏は7月3日の党首討論会で「我々は本当に責任を感じなければならない」などと述べたものの、「官邸幹部への取材」で、発言を踏まえても「控訴の流れに変わりはないと受け止め」たという。7月8日になって、(1)安倍氏が9日に対応策を表明する(2)控訴はするものの、経済支援を検討している、という情報を得たのに加えて、

「8日夕、首相の意向を知りうる政権幹部に取材した結果、政府が控訴する方針は変わらないと判断」

したという。

「参院選が行われている最中に重要な政策決定をめぐって誤った記事を出し」...

   安倍氏は7月9日午前、熊本地裁判決について「一部には受け入れ難い点があることも事実」だとしながら、控訴断念の経緯を

「しかし、筆舌に尽くし難い経験をされた御家族の皆様の御苦労を、これ以上長引かせるわけにはいきません。その思いのもと、異例のことではありますが、控訴しないことといたしました。この方針に沿って検討を進めるよう関係大臣に先ほど指示いたしました」

と説明していた。朝日記事が指摘するように控訴断念が「安倍晋三首相の政治判断」だったことをにじませたともいえるが、この判断がいつの時点で下されたかは明らかではない。

   お詫び記事は

「私たちの取材は十分ではありませんでした。参院選が行われている最中に重要な政策決定をめぐって誤った記事を出し、読者や関係者の皆様に多大なご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ありません。今後はより一層入念に事実を積み重ね、正確な報道を心がけて参ります」

と結ばれている。新聞社が取材の経緯を明らかにすることは多くないが、参院選期間中の誤報で影響が大きかったことに配慮したとみられる。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)