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デジタル化の波乗り切って... ついに「上場来高値」見えてきた富士フイルムHDの好調

   富士フイルムホールディングス(HD)の株価が2019年7月に入って11年8カ月ぶりの高値をつけ、上場来高値(2007年11月1日の5710円)をうかがう展開になっている。

   iPS細胞を使ったがん免疫薬の開発が投資家の関心を集めている。富士フイルムHDは2019年3月期の連結営業利益が過去最高を更新するなど社全体として業績改善を続けており、その成長力に期待が高まっていると言えそうだ。

  • 「フイルム」の社名は残るけど(画像はイメージ)
    「フイルム」の社名は残るけど(画像はイメージ)
  • 「フイルム」の社名は残るけど(画像はイメージ)

バイエルと組んで開発に着手

   がん治療には従来、(1)外科手術でがん細胞を直接取り除く手術療法、(2)抗がん剤を点滴や注射で内服し、がん細胞を死滅させたり増殖を抑えたりする化学療法、(3)がん細胞に放射線を当てて死に至らしめる放射線療法――が「三大療法」として採用されてきた。ただ(1)は切除した臓器などの機能が失われる、(2)(3)は副作用がある、ということでデメリットがあるのも事実。そこで近年、第4の療法として注目されているのが免疫療法だ。

   免疫療法はがんを攻撃する体内の免疫細胞を使う療法で、自己の免疫細胞を使うため、副作用が少ないとされている。ただ、まだあまり普及していないことなどから、費用がかさむことが多い。

   富士フイルムHDが7月1日、独製薬大手バイエルと組んで開発に着手したと発表したのは、第三者のiPS細胞から作った「CAR-T(カーティー)」と呼ばれる技術を用いたがん免疫治療薬。CAR-Tは採取した免疫細胞にがん細胞への攻撃力を高める遺伝子操作を加えるもの。従来、患者自身の細胞を培養し、点滴で患者の体内に戻す手法だったが、品質がバラついたり、製造コストが高くなったりする問題があった。しかし第三者のiPS細胞なら、大量培養した細胞を活用するため、均一な品質と製造コストの低減が期待できるとみられている。2~3年内の臨床試験開始を目指すとしている。

   これを受けて2日の東京株式市場は一時、前日終値比2.1%(114円)高の5618円と、11年8カ月ぶりの高値をつけた。その後も大崩れはしておらず、上場来高値更新は十分視野に入っている。

大手フィルム企業が破綻する中、見事転身

   富士フイルムHDは社名に残っているように、かつては写真のフィルムが主力事業だったが、写真の電子化が進む中でフィルムの売り上げがほぼ消え去る危機に直面した。時代の流れにのまれて変身できなかったフィルム大手の米イーストマン・コダックは経営破綻したが、富士フイルムHDは化粧品や医薬品の強化で乗り切り、2019年3月期連結決算は営業利益が過去最高を11年ぶりに更新した。

   それでは2019年3月期連結決算の内容を確認してみよう。売上高は前期比0.1%減の2兆4314億円、営業利益は70.1%増の2098億円、純利益は1.8%減の1381億円だった。この期で起きた変化はオフィスの複合機など事務機器部門の売上高(1兆56億円、前期比4.0%減)を医療・高機能材料部門の売上高(1兆390億円、3.6%増)が上回ったこと。現在、両部門が同社の2本柱でかつての主力、カメラ光学部門の売上高は3869億円にとどまっている。つまり、将来性のある医療・高機能材料部門が伸びており、そこに投資家の期待が集まっているわけだ。

   事務機器部門も売り上げを追わず利益をとれる製品に集中するなどして稼ぐ力を高めており、2019年3月期の営業利益は前期比11倍超の964億円。医療・高機能材料部門(976億円)に並ぶ水準に回復しており、グループとして利益を新たな投資につなげる好循環に入っている。米ゼロックスとの統合が宙に浮いているという大きな懸案はあるものの、事務機器部門はペーパーレス化の波の中で成長が難しい守りの部門。医療分野で成長のタネをまく富士フイルムHDの姿勢が株式市場に評価されている。