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HIS澤田氏、「ホテル」に本腰 その本当の狙い

   大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)が2019年7月10日、「ホテルユニゾ」「ユニゾイン」などのホテルや不動産を手掛けるユニゾホールディングスに対して、株式の公開買い付け(TOB)を仕掛けた。

   直後に「当社に対して何の連絡もなく、一方的かつ突然」とする声明を出したユニゾは26日までにTOBへの賛否を明らかにするとみられる。HISを一代で築いた「ベンチャーの雄」がホテルに主戦場を移す狙いは何か。

  • HISの公式サイト
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ユニゾに対しTOB

   「ユニゾとの協業でホテルの展開を強化して、世界的なホテル会社になる」。TOBの狙いを説明する記者会見で、HISの澤田秀雄会長兼社長は語気を強めた。HISは、ロボットを導入した「変なホテル」などホテル33軒を展開しており、建設中や交渉中も合わせると67軒に達する。一方、ユニゾが展開するホテルは25軒。HISは自社グループの旅行販売を通じてユニゾブランドのホテルの稼働率を高めるほか、ユニゾの強みである不動産情報ネットワークを活用して不動産事業の拡大も目指す。澤田氏は将来的に1000軒規模のホテルグループを目指す意向を明らかにした。

   HISは既にユニゾ株の約5%を保有する筆頭株主だ。HISはユニゾに対して繰り返し協業を要請していたが、ユニゾは拒否する姿勢を崩さなかったため、TOBに踏み切ったと説明している。株主総会で特別決議を拒否できる3分の1超の獲得を目指し、最大で45%まで保有比率を引き上げる意向だ。TOBの買い付け期間は8月23日までで、価格は1株当たり3100円。HISはTOBに約427億円を費やす。

   現在68歳の澤田氏は、ソフトバンクの孫正義氏、パソナの南部靖之氏と並んで、この世代のベンチャー経営者の代表格だ。大阪の高校を卒業した後にドイツに留学し、世界50か国以上を旅して見聞を積んだ。帰国後の1980年に旅行会社「インターナショナルツアーズ」を設立し、90年には社名を「エイチ・アイ・エス」に変更。旅行を中心に事業を拡大させ、98年には国内で4番目(当時)となる航空会社「スカイマークエアラインズ」を就航させ、世間を驚かせた。2010年には赤字続きだったテーマパーク・ハウステンボス(長崎県佐世保市)の再建に乗り出し、集客とコスト削減を両立させるアイデアを繰り出して、黒字に転換させた手腕を持つ。

旅行事業をめぐる経営環境の変化

   そんな澤田氏がなぜ今、ホテル事業に本腰を入れようとしているのか。背景には、本業の旅行事業を巡る経営環境の変化がある。インターネットを経由してホテルや交通手段を予約する人が増えており、利幅はどんどん薄くなる。最大手のJTBでさえ純損失を計上するほどだ。一方、ホテル事業で澤田氏は人件費を圧縮した独自の手法を開発。現在のHISグループの収益に占める比率はわずかだが、東京や大阪など都市部では訪日外国人の増加もあってビジネスホテルの稼働率が高まっており、ホテル事業の伸びしろは大きい。そこで、株価が割安で個人株主の比率が高いユニゾに狙いを定めたようだ。

   国内のチェーン別ホテル軒数では、アパホテルが500超、ルートインホテルズと東横インが各300前後に達しており、ユニゾが加わってもHISはベスト10にも入らない。今度はホテル業界で上位に挑む澤田氏の動向に注目が集まりそうだ。