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原田、辰吉、山中... 「黄金のバンタム」日本人王者たちと、井上尚弥を比べれば

   ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)決勝が11月開催で最終調整に入った。決勝戦では「モンスター」井上尚弥(26)とフィリピンの「レジェンド」ノニト・ドネア(36)が拳を交える。

   一時、ドネア陣営が主催者サイドの運営姿勢に不満を漏らし開催が危ぶまれたものの、海外メディアによると、ドネアが井上戦に向けてトレーニングを始めたという。開催日時などの詳細は正式決定していないが、11月にはドリームマッチが実現する見込みだ。

   井上が世界王者として君臨するバンタム級は、ボクシング界では「黄金のバンタム」と称される。1960年代、世界に衝撃を与えたひとりのボクサーがいた。ブラジル出身のエデル・ジョフレだ。強烈なパンチを武器に軽量級ながらKOの山を築き上げ、世界バンタム級王座を8度防衛し、その後、フェザー級を制して世界2階級制覇を達成。リスペクトの意を込めて人々はジョフレを「黄金のバンタム」と呼んだ。

  • 井上尚弥(2016年撮影)
    井上尚弥(2016年撮影)
  • 井上尚弥(2016年撮影)

「殿堂入り」原田氏、ラッシュはもはや伝説

   日本のボクシング史上、これまで暫定王者を除き、バンタム級の世界王者は9人誕生している。井上は日本人9人目のバンタム級世界王者となる。軽量級の世界王者を多く輩出している日本ボクシング界において、とりわけ「黄金のバンタム」の注目度は高い。平成のボクシング界をけん引した辰吉丈一郎氏(49)はバンタム級に強いこだわりをみせ、バンタム級で9度、世界戦のリングに上がった。

   日本人で初めてバンタム級の世界王座を獲得したのはファイティング原田氏だ。1965年5月18日、原田氏が挑んだのは「黄金のバンタム」ジョフレ。世界フライ級王座に続いて世界2階級制覇に臨んだ原田氏は2-1の判定で勝利した。当時は世界団体が分裂前で世界王者は世界でただひとり。単純比較は出来ないが、現在でいえば、世界4団体統一王者に相当するだろう。

   「黄金のバンタム」を破った原田氏は世界にその名をとどろかせ、引退後、日本人で初めて世界ボクシング殿堂入りを果たしている。3分間、休みなく続く驚異的なラッシュ戦法は世界でも類を見ず、いまや伝説と化している。かのヘビー級統一王者マイク・タイソン氏は、師匠のカス・ダマト氏の勧めにより原田氏の現役時代のビデオを繰り返し見たという。タイソン氏は尊敬するボクサーとして常に原田氏の名前を挙げていたほどリスペクトしていた。

記録よりも記憶に残る浪速のジョー

   パイオニアの原田氏と同じく、日本国内で絶大の人気を誇ったのは辰吉氏だろう。世界王座2度の返り咲き、そして1994年、薬師寺保栄氏とのWBC世界バンタム級王座統一戦。薬師寺戦のテレビ視聴率は関東地方で39.4%の驚異的な数字を記録し、当時の辰吉人気を大いに物語っている。波乱万丈のバックボーンを持つ辰吉氏は、20勝(14KO)7敗1分の戦績以上のインパクトを残し、記録よりも記憶に残るボクサーだった。

   記録といえば、長谷川穂積氏と山中慎介氏だろう。長谷川氏はWBC世界バンタム級王座を5年間にわたって守り続け、10度の防衛に成功した。WBO世界バンタム級王者フェルナンド・モンティエル(メキシコ)との事実上の王座統一戦に敗れて王座を失ったが、その後、見事にカムバックを果たし、スーパーバンタム級とフェザー級を制して世界3階級制覇を達成した。

   その強打から「神の左」の異名を取った山中氏の活躍は記憶に新しい。サウスポースタイルから繰り出される左は、破壊力抜群で世界ランカーを一発で仕留めてきた。具志堅用高氏の持つ、13度の世界王座防衛記録まであと一歩のところまで迫ったが、13度目の防衛戦で「問題児」ルイス・ネリ(24)=メキシコ=に敗れた。リターンマッチはネリの悪質な体重超過の影響もあり、本来の力を発揮できず2回TKO負けし王座返り咲きはならなかった。

「モンスター」が最終的に行き着くところは...

   「黄金のバンタム」の第一人者である原田氏、そして絶大なる人気を誇った辰吉氏。バンタム級の長期政権を築いた長谷川氏と山中氏。いずれも日本が世界に誇るバンタム級の名王者だが、井上は歴代の王者と比較しても異次元の世界にいると言わざるを得ないだろう。プロキャリア18戦のうち14戦が世界戦で、いまだ負けなしの16KOを記録している。スーパーフライ級では7度、王座を防衛し、バンタム級ではWBA、IBFの王座を統一した。

   世界的な注目度は、かつての原田氏に引けを取らない。米国の老舗ボクシング誌で「ボクシングの聖書」と称される「リング誌」において、今年の2月号で日本人として初めて単独で表紙を飾り、9月号では2度目の表紙に採用された。米国、欧州メディアによるパウンド・フォー・パウンド(PFP)では常に上位に名を連ね、世界トップのプロモーターが争奪戦を繰り広げる。主戦場は日本から本場・米国に移行しつつあり、いまや世界の「イノウエ」となっている。

   ジョフレが「黄金のバンタム」であったように、井上は世界を震撼させる「モンスター」である。実績と試合のインパクト、そして新たなボクシングのファン層を開拓した井上。11月のドネア戦で勝利すれば、その後はWBC、WBOとそれぞれ王座を統一していくことだろう。日本が誇る「モンスター」は今もなお進化し続けている。