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「お前、俺の小説パクったろ」飲み屋街で絡まれ... 志茂田景樹、京アニ事件で「体験談」振り返る

   直木賞作家の志茂田景樹さん(79)が2019年8月27日にブログを更新し、京都アニメーション放火事件で逮捕状が出ている青葉真司容疑者が「京都アニメーション大賞」に複数の小説を応募していたと報じられたことを受け、「やはりそうか」として「懸賞小説」にまつわる自身の体験談をつづった。

   自身も懸賞小説に応募を続け、7年がかりで受賞したという志茂田さん。だが当時、路地で突然「お前、俺の小説パクったろ」などと恨みつらみをぶつけられたことがあったという。

  • 志茂田景樹さんのブログより
    志茂田景樹さんのブログより
  • 志茂田景樹さんのブログより

「なぜ俺の作品が最終候補作にもならないんだ ということである」

   青葉容疑者をめぐっては26日、大賞に選ばれれば文庫化・アニメ化される「京都アニメーション大賞」に長編・短編小説を応募していたと京都府警が断定したことが報道された。また事件発生当時には、警察官に取り押さえられながら「(小説を)パクりやがって」と叫んでいたことが報じられている。

   志茂田さんは27日「容疑者『京アニ大賞』に執着 やはりそうか 懸賞小説の闇ってあるんだよ 僕も懸賞小説を唯一の手がかりにもの書きの世界に這い上がっただけに その闇のおぞましさは承知してるのよ」のタイトルでブログを書き、小説家として駆け出しのころの体験を次のようにつづっている。

   出版界につながりがなかった志茂田さんは「新人賞と称する懸賞小説に応募し 受賞するしか道はなかった」。受賞まで7年かかったが、作家の中には10~20年かけて受賞する作家もいる。「懸賞小説に応募する人って 数回応募して1次予選にも引っかからなかったら 大体あきらめる。同じ小説を時期をずらして 他の懸賞小説の賞へ応募して 10回以上という人もいるけれど やはり いずれあきらめる。2次予選以上に残ったことがあると それを励みにして根強く続ける人もいる。そのなかから苦節ン10年で受賞する人も出てくる」とする。だがそういうケースばかりではない。

「問題は何度応募しても 箸にも棒にもかからない作品なのに 本人は傑作のつもりで いずれは受賞すると思いこんでいる人である。応募作品の下読みをしている人の話によると 約半分は1,2枚読んだだけで 才能ゼロの作品らしい。編集部に問い合わせしてくる人の殆どは そういう人からだという。なぜ俺の作品が最終候補作にもならないんだ ということである。ここから懸賞小説の闇が始まる」

「そのまま盗んだでしょ」

   新人賞受賞後、作家や出版関係者が集う新宿の飲み屋街を歩いていた志茂田さんは、路地の出口で中年男性に「お前、○○○○だよな?」と自身の筆名で声をかけられ、こう言われた。

「お前、俺の小説パクったろ」

   すると「そいつはいきなり 僕の胸ぐらをつかんで 恨みつらみを速射砲のように言い募った」という。「1応募者に過ぎない僕が 同じく1応募者に過ぎないお宅の原稿をどうやって読むんだよ」と反論すると、通行人が集まってきた。そこで「彼は怯んで僕を突き放すと 許さねえからな と 捨て台詞を吐いて姿を消した」。

   新人賞受賞の1年後には、雑誌に掲載されていた短編小説に関して女性から電話がかかってきた。

「登場人物の○○子は私がモデルでしょう ストーリーは私が□□新人賞に応募した小説のものを そのまま盗んだでしょ」

   そんなことを延々と訴えられた。「私はノーベル文学賞を貰う宿命にあるんです」とも言っていたという。またある時は、「いついつまでに某小説誌に発表した短編は私○○○○の盗作であることをA新聞に告白せよ」といった内容の手紙が配達されたこともあったと明かしている。

   いずれも小説家志望の人から「パクられた」と因縁をつけられたという体験談だ。ブログによると、こうした「懸賞小説の闇に毒された人たち」からの接触が途絶えたのは、1980年に『黄色い牙』で直木賞を受賞した後だったという。

「懸賞小説の闇に取り込まれ 闇から躍りあがったときは 最悪の悪魔と化していた」

   志茂田さんは、京アニ大賞が「今時の若い人には魅力的な賞に違いない」とし、

「青葉真司容疑者は自分の小説をパクってアニメにしたとして京都アニメーションを恨み 犠牲者35人を出すという放火を行ったとされる。懸賞小説の闇に取り込まれ 闇から躍りあがったときは 最悪の悪魔と化していた」

との見方を示した。一方で、

「しかし 僕は 青葉容疑者をこの賞の持つ深い闇に取り込まれ 人間性を最凶のかたちにゆがめられたと見てはいない。人間性を大きくゆがめていた人間が たまたまこの賞に応募し 受賞できなかったことを逆恨みし 償うことが不可能な凶行に及んだのである。そうでなければ あまたの懸賞小説が持つ闇に浸り 少しばかり奇妙な行動に及んだ作家志望者たちが可哀想である。いずれ闇から抜けて それぞれの道を見つけて それぞれに自分らしい人生を築いたはずだから」

との思いもつづっている。

   志茂田さんは最後に「35人の犠牲者の方々のご冥福を改めて祈る」と結んだ。