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米国トウモロコシ「250万トン追加輸入」は本当か 農水省に聞くと...

   「中国が輸入しない米のトウモロコシ 日本が買います」(NHK)――先の日米首脳会談後にあったトランプ大統領の会見発言が注目を集めている。一部メディアでは、米中貿易戦争の影響で余った米国産(飼料用)トウモロコシについて、日本が年間輸入量の3か月分にあたる約250万~270万トンを「追加輸入」すると、安倍晋三首相が約束したといったトーンで報じている。

   果たして、日米は「約250万トンの追加輸入」で合意したのか、農林水産省に聞くと、否定する答えが返ってきた。さらに、安倍首相が触れた「害虫被害対策」に関する誤解も広がっているとして経緯を説明した。

  • トランプ米大統領の期待は大きい? <(C)FAMOUS>
    トランプ米大統領の期待は大きい? <(C)FAMOUS>
  • トランプ米大統領の期待は大きい? <(C)FAMOUS>

「(3か月分にあたる)約250万トンを民間企業が追加輸入する」報道

   仏ビアリッツで2019年8月25日(現地時間)にあった日米首脳会談後の会見。その内容の一部について、NHKは26日朝配信の記事で「中国が輸入しない米のトウモロコシ 日本が買います」の見出しで報じた。記事本文では「政府関係者によりますと、追加で輸入するのは飼料用のトウモロコシおよそ250万トンで(略)」などと伝えている(他の箇所で「前倒し」表現もあり)。

   その後も、「(3か月分にあたる)約250万トンを民間企業が追加輸入する」(朝日新聞ウェブ版、27日記事)、「(略)約270万トンもの輸入が必要か、企業や専門家からも困惑の声が出ている」(毎日新聞、28日付朝刊<東京最終版>)などと、「3か月分の(追加)輸入」を規定路線とする報道が複数出ている。

   また先に触れた会見で、安倍首相が「害虫被害」に関連してトウモロコシ輸入の民間需要があると言及したことへの批判的な記事もある。害虫被害の影響はわずかだとして、「米トウモロコシ購入 企業困惑」「『害虫対策』首相説明に疑問」(毎日、同上記事の見出し)、「害虫被害はデマ?農水省『現時点で影響ない』 米産トウモロコシ大量輸入で"忖度報道"」(AERA dot.、27日配信記事の見出し)などだ。

   以上の2点、「3か月分の追加輸入」と、「害虫被害とトウモロコシ輸入の関係」について、J-CASTニュースが29日、農林水産省の担当者に話を聞いた。結論としては、「追加輸入ではなく、害虫被害が広がる可能性を考慮して、前倒し輸入で確保する場合は、最大3か月分、保管料を全額補助する」という趣旨で、「3か月分を年間必用量に追加して輸入する訳ではない」との説明だった。たとえば、先に(19年)10~12月分を確保(契約)しておき、仮に不足が生じなければ、当初予定分の輸入は見送ればよい、というわけだ。

会談前の8月8日に支援策を決定

   まず、経緯としては、

   (1)7月3日に国内で初めて、害虫のツマジロクサヨトウの幼虫が鹿児島県で見つかり、以降、九州・沖縄計7県でも発見が相次ぎ、8月中旬以降、岡山県や高知県、茨城県、福岡県でも確認された。

   (2)早期の対策が必要なため、生産者の協力を得つつ薬剤防除や作物ごと土にすき込むことなどを実施。

   (3)8月8日、害虫被害に対する支援策を決定。被害はどこまで広がるか、どの程度出るのか、などはっきりしていないが、被害が出た場合の不足の可能性に備え、「前倒しで購入(輸入)した場合はその保管料」を最大3か月分全額補助する。「最大3か月分」としたのは、民間企業が契約をする際、3か月分をまとめて行うケースがかなりあるため。また、既に不足した分のエサ(粗飼料、濃厚飼料いずれでも)があれば、その購入費の一部を補助する。

   という流れがある。

   農水省担当者によれば、安倍首相の発言は上記の対応を説明したもので、また、日本が飼料用トウモロコシを輸入する相手国はその約95%が米国なため、仮に前倒し輸入をするならば、米国からの輸入になる可能性が高いとも説明した。そもそも、今回のトウモロコシの話は、9月の署名を目指す日米の貿易交渉とは別枠の話だ。

安倍首相は「民間の判断」を強調

   では実際、首脳会談後の会見で安倍首相は何と発言したのか。動画で確認すると、次のような内容だった。先にトランプ大統領が、余剰トウモロコシについて、「安倍総理が買う」ことになっている、などと発言。しかし次に発言した安倍首相は、トウモロコシについて触れなかった。すると、トランプ大統領は

「『(中国の不正で余っている)コーンを買って下さる』と総理が言って下さると、もっと彼ら(生産者)は嬉しいと思うので、少しその点について触れてはいかがですか」(会見の通訳者)

   と言及を促した。これを受けて安倍首相は、

「トウモロコシについては、害虫駆除(編注:の対策)の観点から、購入を必要としている、これは民間レベルですが、前倒しで緊急な形で、購入をしなければと民間が判断しているので、(数語、聞き取れず)できると思います。それ以外につきましては、またよく大統領と相談して、と思っております」

   と、「民間の判断」を強調しながら発言した。トランプ大統領は、期待した程の明確な回答ではないと感じたのか、

「日本のプライベート(民間)セクションは、パブリック(公的)セクションの言うことをよく聞くようで、聞いてくれると思う」

   と補足していた。

安倍発言、海外メディアはどう報じた?

   なお、先の経緯説明で出てきた「粗飼料」と「濃厚飼料」についても、農水省は一部報道を踏まえ、補足解説した。害虫被害も懸念される国内生産分(年間約450万トン)は粗飼料(葉や茎も利用)で、輸入分(同約1100万トン)は濃厚飼料(実を利用)だ。粗飼料用の害虫被害が懸念されるのに濃厚飼料を前倒し輸入しても、両者は用途が異なるため単純に代替できない、との批判もある。これに対し農水省は、粗飼料には、トウモロコシだけでなく牧草なども使うケースがあるが、仮に牧草だけになると栄養価が低くなるため、牧草と濃厚飼料を混ぜて粗飼料用に加工することもできるとしている。

   一方でトランプ大統領は、先の会見で「(余剰分?)全てを安倍首相が購入する」とも述べていた。海外メディアでは、どう受け止められたのか。ロイター通信(25日)は、「安倍首相は、トランプ氏による『トウモロコシの購入は成約したという提案』については断定的なことは言いたくなさそうに見えたが、(略)」(編集部訳)と、その様子を描写していた。