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誤判定はなぜ起きたのか 関係者が明かす、日本選手権「不正スタート」問題の背景

   日本陸上連盟の誤判定問題が大きな波紋を広げている。日本陸連は2019年8月28日、6月に開催された日本選手権女子100メートル障害で起きた不正スタートに関して誤判定があったことを発表した。日本陸連は誤判定に至った経緯および当該選手に対して公式ホームページ上で「関係者各位には改めてお詫び申し上げます」と謝罪の意を表したが、2020年東京五輪を控えての「不手際」に関係者やファンから不安の声が上がっている。

   問題とされる誤判定は、同選手権2日目の6月28日に起こった。女子100メートル障害の予選3組に出場した金井まるみ選手(青学大)のスタートを、スターター・リコーラーが目視の判定により不正スタートとみなして失格とした。この判定を不服として青学大サイドは抗議を申し出たが判定は覆らず金井選手は失格となった。

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問われる陸連審判員の「質」

   金井選手の失格から2カ月が経過した8月28日に日本陸連が突如、誤判定を認める形で金井選手の失格が取り消された。ただ、これは公式リザルト上、失格が取り消されただけで、再レースは行われない。なぜ日本陸上の最高峰の大会でこのような事態を招いてしまったのか。長らく陸上の現場を取材しているメディア関係者は、今回の誤判定が起きた要因のひとつとして審判員の「質」を指摘した。

   今回、誤判定を招いた直接の要因は、スターター・リコーラーが不正スタートをチェックする機械及びそのデータに関して理解が乏しかったことにある。日本選手権では、スタートブロックのプレートにかかる圧力の変化で判定するS.I.S(スタートインフォメーションシステム)を使用している。スタート前の一連の準備動作において不正をチェックするもので、国際連盟の承認を受けた同システムを使用する場合はその判定を最優先で採用しなければならない。

   今回、同システムのデータに不正スタートは見当たらず、ビデオ画像でも不正は見つからなかった。本来ならば審判員はこのデータを最優先で採用すべきところを自身の目視を優先させたという。また、映像での検証も十分ではなく、青学大の抗議を却下した理由もずさんといわざるをえないもので、抗議の申し出のタイミングが規定時間を超えたため上訴には至らなかった。

「唯一の救いは事実が判明したこと」

   前出の関係者によると、陸上界では審判員の高齢化が見られ、最新の機械に関する知識が完全でない審判員もいるという。陸上界では一部の選手を除き、その多くが企業所属の選手や学生で占められ、アマチュアスポーツ色が濃く、審判員に関しても教員もしくは現役を引退した元教員が多いという。地方大会などではボランティア的な待遇で審判員を務めることもあるという。

「陸上の日本選手権は歴史、権威ともに国内最高峰の大会です。そのような大会で誤判定が起きてしまったのは大変残念ですし、陸連の体質を問われかねない問題だと思います。世界的に見ても機械のデータよりも目視を優先させることなどありえませんし、映像の検証も十分ではなかったと聞いています。唯一の救いは2カ月が経ったとはいえ、事実が判明したこと。陸連は審判員の質の向上を目指してもらいたい」(前出の関係者)

なお、日本陸連は公式ホームページ上で、今回の一連の誤判定に関して謝罪し、「今後、同じような事態が生じないように万全の体制を構築すべく、競技規則の解釈の周知や競技運営上の制度改正を視野に入れた対応策を検討して参ります」とした。