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上がったり下がったり... 振り回された「武田薬品」株の8月

   米中貿易摩擦の激化で大荒れとなった8月26日の東京株式市場で、武田薬品工業の株価が一時、前週末終値比3.1%安の3438円をつけ、2012年10月以来、約7年ぶりの安値をつけた。終値は前週末比2.8%(100円)安と、日経平均株価の下落率(2.2%<449円87銭>安)を上回り、きつい下げとなった。

   約6兆2000億円を投じて1月にアイルランド製薬大手シャイアーの買収を完了したことへの不安が横たわる中、投資家が売り材料に反応しやすい状況が続いている。

  • 投資家心理は一喜一憂(イメージ)
    投資家心理は一喜一憂(イメージ)
  • 投資家心理は一喜一憂(イメージ)

月初には急伸したものの...

   武田薬品株については、7月31日に4~6月期連結決算(国際会計基準)と2020年3月期業績見通しの上方修正を発表した直後の8月1日に見直し買いが入って急伸した、というのが最近のトピックだった。

   通期の業績見通しについては、純損益が3677億円の赤字(前期は1091億円の黒字)と従来予想(3830億円の赤字)から赤字幅が縮小すると見込んだ(2020年3月期はシャイアー買収による無形資産償却費などがかさむため、もともと巨額赤字を見込んでいた)。血液がん治療薬「ベルケイド」の米国販売が好調なうえ、2020年3月期中に競合品の追加参入がないことが判明したことを反映した。ただ、売上高にあたる売上収益は従来予想(前期比57.4%増の3兆3000億円)を据え置いた。ベルケイドは従来の想定を上回るものの、2019年7月にスイス製薬大手ノバルティスに売却したドライアイ治療薬「シードラ」などの売り上げがなくなるためだ。

   一方、武田薬品が重視している「のれんの減損」といった一時的な要因を除いた「コア営業利益」についても従来予想より270億円多い9100億円に上方修正した。ベルケイドの米国販売の上方修正と想定以上の費用効率化が主因だとして「印象はポジティブ」(SMBC日興証券)などの声が上がっていた。

   4~6月期は武田薬品のトップ製品である潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」のグローバル販売とベルケイドの米国販売が好調だったことなどから、売上高が野村証券の予想を約250億円上回る8491億円となる一方、販管費が野村予想を下回るなど「2020年3月期のスタートとしては好調な出だし」(野村証券)と受け止められていた。

足元の業績にはやや明るさ

   これを受けて8月1日の武田薬品株は一時、前日終値比7.6%(278円)高の3913円まで上昇、チャート図に「窓をあける」節目の展開となった。

   ただ、その後は市場全体が下げ基調ということもあって株価に浮揚力がなく、じりじりと値を下げた。そうした中で売り材料の一つとなったのが大和証券の8月15日付リポートだ。投資判断を5段階で上から2番目の「アウトパフォーム」から3番目の「中立」に格下げし、目標株価も4500円から3700円に引き下げた。アナリストの橋口和明氏は「ベルケイドの想定変更による中長期業績見通しへの影響は限定的」と見る一方、別の血液がん治療薬「ニンラーロ」や高血圧治療薬「アジルバ」、関節リウマチ治療薬「エンブレル」といった主力薬が競合に押されるなどして売り上げが伸びないと判断、「新薬開発の具体的進展を待ちたい」と指摘した。

   これを受けて16日の武田薬品株は続落し、一時前日終値比2.3%(84円)安の3531円まで下げて年初来安値を更新した。この日の安値はシャイアー買収が臨時株主総会で承認された直後、買収が嫌気された2018年12月の安値(3498円)まであと33円に迫った。一方、市場では第一三共株が臨床試験を進めるがん治療薬への期待から連日上場来高値を更新。その影響で新薬の話題に乏しい武田薬品株が売られる展開ともなっており、8月26日の7年ぶり安値につながった。その後は28日を底に上向き、3600円台手前まで戻している。

   足元の業績にやや明るさが見られるものの、シャイアー巨額買収の不安や主力薬の競争力懸念などから武田薬品株は上値の重い展開が続きそうだ。