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ふるさと納税から返礼品が消える? マスコミ論調と総務省の苦悩

   ふるさと納税の新制度から大阪府泉佐野市が外された問題で、国の第三者機関「国地方係争処理委員会」が、総務相に対して再検討を勧告した。総務省の指導に従わず豪華返礼品で多額の寄付を集め続けた同市などを狙い撃ちした「見せしめ」ともいえる措置だったが、法的には不当だと判断された。

   ふるさと納税をめぐっては、過熱する返礼品競争を抑制するため、2019年3月に成立した改正地方税法に基づき、総務省が6月から新制度をスタートした。返礼品を「寄付額の3割以下の地場産品」に限った自治体だけが参加できるとしたのがポイントだ。問題は、法成立前に同省が内容を「先取り」し、18年11月までに、返礼品を寄付額の3割以下などに抑えるよう自治体に要請し、多くの自治体は18年中に返礼品を見直したが、同市と3町だけが従わなかったこと。同省はこの4市町を新制度の対象から外したが、このうち同市だけが係争処理委に審査を申し出ていた。

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係争処理委が示した判断

   同市の寄付集めは、従来から高額返礼品で集めていたうえ、新制度移行を前に、「閉店キャンペーン」と称して返礼品に加えてインターネット通販「アマゾン」のギフト券を贈り、寄付額に対する返礼品の割合は最大7割に。この結果、2018年度、同市の市税収入の約2.5倍、一般会計当初予算(516億円)に迫る498億円の寄付を集めた。同年度の全国の寄付総額は5127億円で、その1割近くを1市が占めるわけだ。

   係争処理委は申し立てを受けて7回の協議を重ね、同省が改正法成立前に返礼割合の抑制を求めたことは法的根拠がないから、従わなくても違法行為にはならないと認定。それを「直ちに不指定(新制度からの除外)の理由とすべきではない」と結論づけた。法令の効力はその法の施行前には遡って適用されないという「不遡及」という一般原則に沿った判断だ。

   係争処理委は同時に、返礼品の豪華さを強調し多額の寄付を集めた同市の行為が、他の自治体に不利益を及ぼし「ふるさと納税制度の存続が危ぶまれる状況を招いた」と厳しく批判した。

   決定を受けた、泉佐野市は「主張をおおむね理解いただき感謝する」と歓迎。

   一方、石田真敏・総務相(当時)は「勧告文の内容を精査のうえ対応について検討する」とコメント。内閣改造で就任した高市早苗・総務相は「勧告で示された各点を総合的に検討して、対応方針をしっかりと決めさせていただきたい」と慎重に検討する考えを示しつつ、「特定の自治体が、自分のところさえいいというような考え方で得をしてしまうということは、他の自治体の税収減に明らかにつながります」と、恨み節ともいえる発言もしている(12日の総務省での就任会見)。

「金持ち優遇」指摘も

   係争処理委の決定は9月3日で、総務省は10月4日までに再検討結果を同市に通知する必要がある。

   今回の問題は、そもそも、ふるさと納税という制度の抱える問題、そして具体的な制度設計の甘さが招いたといえる。

   自分が住む自治体に収めるべき税金を、自分の出身地や被災した地域などを応援したいという思いで、あえてよそに回すのが制度の趣旨で、都市と地方の間の税収格差をすこしでも埋めようという狙いでもあったが、実際には返礼品目当てのカタログショッピング化しているのは、多くの自治体に共通する。旧制度に返礼品に法的規制はなく、モラルに委ねられていたわけで、泉佐野市のような自治体が出ることを見越し、もっと早く手を打つべきだったのに後手に回った。

   他方、東京都を中心に、大都市はふるさと納税による税収の流出に苦しむ事態になっている。

   利用者は年々増えて300万人を超えているが、高額所得者ほど寄付への税優遇の上限額が大きくなり、富裕層の節税対策にされているという「金持ち優遇」も指摘される。寄付額の約1割といわれる手数料目当てに仲介サイトが林立し、過度な競争に拍車をかけているという問題もある。

   そして、新制度にしても、返礼品の上限を寄付額の3割とした根拠は乏しい。

   なにより、今回の総務省の〝敗訴〟は、国と地方は対等という地方分権の原則をないがしろにし、地方を力ずくで従わせようとした結果で、自らの制度設計の甘さの責任を地方に押し付けようとして失敗したことになる。

   総務省は係争処理委の決定をないがしろにはできないし、かといって総務省の言うことを聞いて返礼品を減らすなど協力してきた自治体の手前、泉佐野市の「やり得」を許すわけにもいかず、板挟みで苦悩するともいわれる。

各紙社説では...

   大手紙の社説(産経は「主張」)は、ふるさと納税を繰り返し取り上げている。5月に、泉佐野市などを新制度の対象外とした際は全紙が取り上げ、

   日経「除外はやむを得ない」(5月15日)
   読売「除外措置はやむを得まい」(5月16日)
   産経「健全な競争を促すためには必要な措置」(6月1日)
   毎日「除外は当然だろう」(5月20日)

   など、是認論が目立った。ちなみに、東京は「制度設計の責任は国にあり、自治体に一方的に罰を科すような形での再出発には疑問が残る」(5月23日)と国の手法を疑問視。朝日は「返礼品が残る限り、お得感を競う風潮はなくならないだろう。......いまの制度ありきではなく、根本から考え直すべきだ」(5月17日)と、抜本見直しを一貫して主張している。

   今回の係争処理委の決定を受けて社説で取り上げたのは3紙で、今のままではいけないとの認識は共通ながら、どうすべきかでは立場が分かれる。

   毎日は「返礼品を廃止し、純粋な寄付制度に戻すことでしか税のゆがみは正せない」(9月4日)、朝日も「返礼品をなくすことも、検討する必要がある」(9月5日)と、廃止を含む抜本見直ししかないとの立場。これに対し産経は「総務省は......制度も不断に見直す。自治体は地場産品や観光資源の開発、情報発信に努める。国と地方の両輪が回転してこそ、節度を持ってふるさとを応援できる」と、制度を手直ししながら存続すべきとの立場だ。