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杉並区議「朝鮮通信使は凶悪犯罪者集団」発言が物議 史料に詳しい学芸員の見解は

   歴史上の朝鮮通信使について、東京都杉並区議会の佐々木千夏議員(46)が「女性に対する暴行、殺人、強盗を繰り返す凶悪犯罪者集団」と議会で発言したことが、ネット上などで物議を醸している。

   通信使については、粗暴な行いがあったのかを巡って、度々議論になっている。そんな史料があるのかについて、詳しい学芸員2人に話を聞いた。

  • 佐々木千夏議員はその後も同様なツイート
    佐々木千夏議員はその後も同様なツイート
  • 佐々木千夏議員はその後も同様なツイート

ネットでは、通信使が盗んだり争ったりしたと推測も

   佐々木議員は、ツイッター上で事前に同様な質問をすると予告し、2019年9月12日にあった本会議の一般質問で、それを実行した。杉並区で使われている社会科教科書について、朝鮮通信使が歓迎を受けたというのはウソだとも主張し、副読本を配ることなどを区教委に求めた。

   これに対し、区教委は、教科書に問題はないとの認識を示したほか、議会では、「ヘイトスピーチではないか」と発言撤回を求める声が相次ぎ、19日には大手紙も取り上げる事態になった。

   佐々木議員は、4月に「NHKから国民を守る党」公認で初当選したが、その後、除名処分を受けた。現在は、所属する宗教団体にあやかった「正理の会」の会派を称している。

   自らのツイッターでは、その後も、朝鮮通信使について、同様な主張を繰り返している。

   朝鮮通信使は、室町時代から江戸時代にかけて、当時の李氏朝鮮から日本に何度も派遣された外交使節団を指す。ネット上では、通信使が1748年に淀藩(現在の京都市内)を訪れたときの当時の絵図を元に、鶏を盗んだり町人と争いをしたりしていたとの推測が出回っている。また、ほかの史料や歴史書からは、通信使が物を盗んで船に積んだり食事に難癖をつけたりした、日本人を罵倒して攻め滅ぼしたいと日記に書いていた、といった情報が流れている。

凶悪犯罪は聞いていないが「何らかのトラブルはあったと思います」

   とはいえ、暴行、殺人、強盗をしていたといった歴史的事実まで本当にあるのだろうか。

   この点について、京都市歴史資料館の学芸員は9月19日、「そのような史料があるとは、聞いたことがありません」とJ-CASTニュースの取材に答えた。

   淀藩の絵図については、次のようにみる。

「藩では、通信使をもてなすために下行所という建物を建てて、通信使の団員に鶏や魚、米を支給していました。ほかの史料でも、盗難があったという表現は一言もなく、盗んでいるとは言い切れないと思います。また、絵図は、あくまでも見て楽しむもので、争いを面白く描くのは昔からあることです。当時のにぎわいを書かせており、絵師が直接見たわけでもないでしょう」

   一方で、団員が鶏を抱えて走るのを藩士が追いかけているような場面もある。この点については、こう言う。

「言葉が通じなかったのかもしれませんが、自炊するための食材を無断で持ち出した可能性はあります。食材を黙って持っていかれると困るので、藩士が制止したということも聞いています」

   高麗美術館(京都市)の学芸員も19日、通信使が「凶悪犯罪」をしていたとする史料があるかについて、「聞いたこともありませんし、今回のことで調べても見当たらなかったですね」と取材に明かした。

   通信使が粗暴な行いなどをしていたかについては、こう述べた。

「食事に難癖をつけたりしたという史料は見たことはありませんが、8~10か月をかけて日本と行き来するわけですから、何らかのトラブルはあったと思います。日記には、悪口は書いていませんが、日本を偵察して報告するという目的があり、当時の厳しい状況から冷ややかな目で書いていたのは事実だと思います」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)