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「タカラジェンヌ体験」に夢中な女性たち 「褒められまくり」でお姫様気分に...

   世の女性の多くは、きれいでありたい、お姫様になりたいという願望をひそかに抱き続けているのかもしれない。そんな願望を叶えてくれそうな場所が、宝塚歌劇の本拠地、宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)にある。

   宝塚大劇場内にある「Salon de Takarazuka ステージスタジオ」では、宝塚の舞台衣装とメイクを着用し、写真まで撮れる、タカラジェンヌ気分を味わう体験ができる。しかし、宝塚ファンのみならず、一度体験してしまうと病みつきになる楽しさがあるようだ。体験者のいきいきした感想と、ステージスタジオのスキルを取材することができた。

  • 「Salon de Takarazuka ステージスタジオ」であまみやさんがエリザベートに扮した写真。表情から手の位置に至るまでスタッフが細かく指示し最高の1枚に仕上げる
    「Salon de Takarazuka ステージスタジオ」であまみやさんがエリザベートに扮した写真。表情から手の位置に至るまでスタッフが細かく指示し最高の1枚に仕上げる
  • 「Salon de Takarazuka ステージスタジオ」であまみやさんがエリザベートに扮した写真。表情から手の位置に至るまでスタッフが細かく指示し最高の1枚に仕上げる

女性のみ体験可能、1万7500円~

   宝塚大劇場に併設の、Salon de Takarazuka ステージスタジオでは、複製ではあるが舞台と同じデザインの衣装の着用と舞台メイク体験・写真撮影までがセットになった「メイクステージ」というコースを用意している。体験できるのは女性のみ、最も価格の安いプランでも1万7500円と男子禁制の世界だが、体験者からはポジティブでウキウキ気分が伝わってくるような感想がSNSや個人ブログにあふれている。舞台メイクと衣装の体験コース予約は希望月の前月の1日からインターネットで受け付けているが、休日の予約は早めに埋まってしまうことが多い。

「やばい」「別人みたい」「ダイエットの目標になる」と、生粋の宝塚ファンならずとも虜になる人が続出しているようなこのステージスタジオでの体験について、J-CASTニュースはツイッターユーザーの「あまみや」さんに話を聞いた。

   幅広く舞台を観ているが、宝塚初観劇は2016年でディープなファンというほどではないあまみやさんがステージスタジオに行きたいと思ったきっかけは、19年に東宝のミュージカル「エリザベート」を見たことだった。

   あまみやさんが観劇した舞台で、ヒロインのオーストリア皇后・エリザベートを演じていた元タカラジェンヌの花總(はなふさ)まりさんは、宝塚在団時代にもエリザベートを雪組と宙組でトップ娘役として演じていた。花總さんに憧れ、同じ衣装を着てみたいと思い立って19年9月にステージスタジオを予約し、東京から宝塚へ日帰りで向かった。この日は観劇せず、着用体験のためだけに大劇場の門をくぐった。

   ステージスタジオでは娘役・男役ともにメイクと衣装着用ができるが、あまみやさんは迷わず「エリザベート」のドレス2着を選んだ。メイク→衣装着用の順番で進むが、スタッフに「お絵描きをされるように」眉を描き、つけまつ毛をつけてもらい、ドーランを塗られたメイク姿を鏡で見ると、まるで別人のような顔になっていた。

まるで別人なのに「しゃべると自分の声が聞こえる」

   タカラヅカ独特のメイクで目がとても大きくなった印象を与え、「自分の顔の原型がないくらいなのですが、しゃべると自分の声が聞こえるんです」と不思議な感覚だったことを覚えているという。同時にドレスの重さに、一般人とは隔絶したスタイルでこれを毎日着こなすタカラジェンヌの体力の凄さを実感したとのことだ。

   いきなり別人のようになると戸惑う体験者もいるかもしれないが、スタッフの「神対応」が贅沢な気分にさせてくれる。あまみやさんの場合、スタッフがひたすら「可愛いです」と変身した姿を褒めてくれた。とにかくスタッフが何から何までほめてくれるのである。

   ドレスを着ると一般人では1人で歩くのは困難で、スタッフに介助してもらいながらスタジオの中を歩くのも、まるでかしずかれているお姫様のよう。写真撮影の時もポーズの細かな指示に加えて、「可愛いです」と褒めちぎってくれるので普段撮影されるのに慣れていないあまみやさんでも自然な笑顔で写真が撮れた。

   後日自宅に送られてきた写真を見ると、ヅカメイクがなされた顔は家族にも自分と分からないくらいで、まだ自分の写真ではないかのような印象だったが、それでも綺麗な笑顔がドレスに映えていて、確かにあのエリザベートと同じドレスだ、という実感がわいたという。

「褒められていても、相手が無理に褒めているならそれが何となく分かるものですが、スタッフの皆さんがお世辞ではなく甥や姪をめでているような感覚で言葉をかけてくれて、モチベーションを上げてくれました。1人で来ていたので緊張しないよう特に声をかけてくれいたのかもしれませんが、表情が緊張でひきつっていないか。といった不安もそれで消えたのかもしれません」(あまみやさん)

「全肯定されてお姫様やお嬢様のような気分になれて...」

   あまみやさんが写真をツイッターに投稿してみると、幅広いジャンルから予想外の反応が相次いだ。演劇ファンに始まり、コスプレイヤーや美容に興味があるアカウントなどへ、ステージスタジオでの体験談が共有されて「バズって」いった。同様にステージスタジオ経験者の感想も拡散されていったが、ネガティブな反応がほとんどない。「やってみたい」「行きたくなって調べてみた」「宝塚も観てみたい」と、こんなに興味を持ってくれる人がいたのか、と驚くくらいに反応があった。体験内容そのものだけでなく、思い出の写真を残すためのスタッフの対応力もまたネットで「凄い」と興味を持たれている。

「大人になると日常生活であれだけ無条件に『可愛い!』と言ってもらえたり、褒められることってほとんどないと思います。全肯定されてお姫様やお嬢様のような気分になれて、撮影の終わりにも取ってみたいポーズを取らせてもらって。勢いで行ってみたのですが、ここでしかできない装いで非現実的な体験ができて、思う存分楽しい時を過ごせました」

というあまみやさん。ネットでの反応を知って、こういった「褒められたい」「変身したい」願望は多くの女性が抱いているのだろうと感じている。確かに体験者の感想を見ていくと、男役より娘役の方に興味を持つ人が多いようで、美しく変身してみたいという女性の潜在的な願望には娘役の華やかなドレスの方がマッチしているのかもしれない。体験者には50代を超えていそうな年配の女性もいたが、皆スタッフによるメイクと撮影の技術で美しいビジュアルに生まれ変わっていくとのこと。投稿が宝塚歌劇への「布教」にもなったというあまみやさん、

「『もう若くない...』とか思わず、思い立った今が一番若いのですから、迷っている人にはぜひ一度体験してほしいです」

と、憧れを実現するなら躊躇しないでと勧めてくれた。聞いている記者もとても興味をそそられるのだが、いかんせん男子禁制なので諦めざるを得ない。

スタッフが「神対応」する理由は?

   スタッフの褒めちぎる「神対応」が体験者には軒並み好評だったが、Salon de Takarazuka ステージスタジオはどんなコンセプトで体験者を迎えているのだろうか。J-CASTニュースは19年10月に宝塚大劇場に取材を行った。スタッフの褒めちぎる対応力について、ステージスタジオは

「変身体験のようなものかもしれませんが、お客様が憧れのタカラヅカの世界に少しでも近づき、いい思い出となるように、リラックスできる雰囲気を作ってお客様に撮影を楽しんでいただいています」

と答えた。すべてを肯定してくれるスタッフの言葉もまた、ステージスタジオでの体験の非日常感を高めている。

   このステージスタジオに務めるスタッフだが、土地柄、タカラヅカが大好きでぜひとも劇場で働きたかった、という人もいれば全く観たこともない人もいて、働くきっかけはさまざまだという。メイク技術は宝塚OGからの指導で習得されていくという。宝塚大劇場には、舞台裏で現役の劇団員の衣装作りや早替わりを担当する衣裳部という部署もあるが、衣裳部との人的交流はなく、ステージスタジオのスタッフの間でスキルが共有されているそうだ。

   ステージスタジオに興味を持ったネットユーザーの中には、宝塚歌劇については「存在は知っているけど、敷居が高そう」というイメージを抱く人もいたが、肯定感が高まり憧れの姿になれるこの変身体験は、タカラヅカのPRにとどまらないポジティブな経験を女性にもたらし、元気をくれているのかもしれない。

(J-CASTニュース編集部 大宮高史)