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日韓否定も...徴用工「基金案報道」で観測気球か 落としどころ探り駆け引き

   元徴用工問題をめぐり、その落としどころを探る観測気球が上がったようだ。共同通信によると、日韓両政府が「事態収拾に向けた合意案の検討に着手」した、というのだ。韓国側が「経済協力」を名目に創設した基金に日本企業も参加するというもので、「賠償」という表現を避けることで、日韓請求権協定との整合性を保つ狙いがあるとみられる。

   ただ、現時点では日韓政府は事実関係を否定。両国の駆け引きは続きそうだ。

  • 菅義偉官房長官は報道内容を否定している(2017年撮影)
    菅義偉官房長官は報道内容を否定している(2017年撮影)
  • 菅義偉官房長官は報道内容を否定している(2017年撮影)

6月には「日本企業が資金拠出」提案を一蹴

   徴用工問題では、日本政府は日韓請求権協定に基づいて、第三国を交えた仲裁委員会の設置を韓国政府に要請しているが、韓国政府は応じていない。日本政府は、韓国が仲裁手続きに応じなかった場合、国際司法裁判所(ICJ)への提訴を視野に入れている。

   そんな中で共同通信が2019年10月28日、「日韓両政府が元徴用工問題を巡り、事態収拾に向けた合意案の検討に着手した」などと「複数の日韓関係筋」の話として伝えた。

   共同によると、両国の協議では、「韓国の政府と企業が経済協力名目の基金を創設し、日本企業も参加するとした案」が浮上し、「元徴用工への補償ではなく、互いの経済発展を目的に資金を準備するとの内容」だという。

   韓国側は6月、韓国企業と徴用工訴訟で被告となった日本企業が資金を拠出して元徴用工に賠償することに日本側が応じれば、日韓請求権協定に基づく協議に応じるという案を提案したが、日本側が一蹴したという経緯がある。

「細部は詰まっておらず、合意形成へのハードルは高い」

   日本政府としては徴用工への賠償問題は「完全かつ最終的に解決された」とする1965年の日韓請求権協定との整合性を持たせる必要がある一方で、韓国政府としては、日本企業に対して元徴用工らへの賠償を命じた韓国大法院(最高裁)の判決を「尊重する」という立場。共同は「細部は詰まっておらず、合意形成へのハードルは高い」とも指摘した。

   ただ、両国政府は報道を否定している。聯合ニュースによると、韓国外務省当局者は「この報道は事実ではない」としたうえで、今回報道された基金の案は「これまで韓国と日本当局間の議論の過程で一度も言及されたことがなかった案」だとした。

   菅義偉官房長官も10月29日の会見で、

「そうした報道があったことは承知しているが、そのような事実はない」(午前)
「今ご指摘をいただいているような、その構想について、日韓政府間で検討している事実はない」(午後)

などと繰り返し否定。ただ、李洛淵(イ・ナギョン)首相は10月24日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領からの親書を携えて、安倍晋三首相と約20分間にわたって会談している。親書に今回報道された提案が含まれていたかについては、

「親書という性格上、内容は明らかにしないことにしているので、控えたい」
「親書の内容は、その評価を含めて控えたい」

とするにとどめ、ICJ提訴の可能性については

「そういう全体を見る中で、対韓関係は対応していきたい。基本は変わらないということ」

とした。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)