J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

退職保育士への源泉徴収票、発行されず半年間 運営会社「今後は改善したい」

   保育士5人中3人が退職した東京都目黒区の認可保育園「学栄ナーサリー 八雲保育園」で、保育士らが源泉徴収票の発行を再々求めたにもかかわらず、運営会社が半年間も応じていなかったことが分かった。

   所得税法の第226条1項では、給与所得者には退職後1か月以内の発行が義務だとされている。運営会社の学栄(本部・中央区)は、「外部に委託して年間まとめて出しており、3人には今週中に発送する。法的に引っかかるなら、今後は改善したい」と言っている。

  • 退職後は1か月以内の発行が義務になっている(写真はイメージ)
    退職後は1か月以内の発行が義務になっている(写真はイメージ)
  • 退職後は1か月以内の発行が義務になっている(写真はイメージ)

「税理士が不在のため発行できない」との内容

   全国で保育士の大量退職が相次いだ中で、八雲保育園でも2019年3月末までに保育士5人中3人が退職した。ボーナス支給などの待遇面で、会社との認識の違いがあったことが背景だった。この保育園では、16年と18年も大量退職が起きている。

   その後、退職した保育士らは、再就職先に19年1~3月分の源泉徴収票を提出するため、学栄に何度も発行を求めてきた。しかし、「税理士が不在のため発行できない」との回答内容だったため、半年が経過した10月末ごろに税務署に徴収票の不交付届を提出したという。税務署では、この場合に会社側を行政指導することもある。

   11月に入っても状況は変わらず、3人は、年末調整を行うことが困難な状況になっていた。

   中央区の子育て支援課によると、3人の知人から11月5日に相談があり、同課が学栄に問い合わせたところ、今週中に出すとの回答があった。保育園がある目黒区の保育課は6日、徴収票のことは初めて聞いたとJ-CASTニュースの取材に答え、学栄に確認したところ、同日中に3人あてに発送したと聞いたと説明した。学栄からは、中途退職者には一括して11月上、中旬に発行していると説明を受けたとしている。

国税庁「台風や火事など外的な要因が必要」

   源泉徴収票を1か月以上発行しなかったことについて、目黒区の保育課では、所得税の部分は管轄外だとしながらも、「状況を見て、適切に行うよう助言することはできる」と話している。

   所得税法第226条では、税務署長の承認を受けたときは、1か月を超えて発行できるとしている。その場合の事情について、国税庁の課税総括課は、取材に次のように説明した。

「台風や火事などの災害があって、出せる資料がないといった外的な要因があるケースが主になります。個別に判断はしますが、経理の事情など内的な要因によるケースは、一般的になかなか認められないと思います」

   徴収票不交付については、所得税法の第242条6項では、1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則を定めている。課税総括課では、「状況によって、悪質なら税務署が刑事告発することもありえます」としている。

   学栄の広報担当者は6日、取材に対し、次のように説明した。

「源泉徴収票を発行しないわけではなく、退職された方には、毎年11月中旬までに発行しています。しなかったことは今までなく、自治体にも給与の支払い報告をしています。退職後1か月がめどということは把握していますが、煩雑なので外部に委託しており、税務署に相談しながら、年間まとめて作成しています。3人の方については、今週中に発送予定です。税務署から指導は受けていませんが、法的に引っかかるのでしたら、今後は改善したいと考えています」

他の保育園では?労組にも相談が

   全国の他の保育園でも、退職した保育士らに源泉徴収票を1か月以上も発行しないようなことは起きているのか。

   この点について、全国福祉保育労働組合は11月6日、書記長が次のように取材に答えた。

「退職手続きについての労働相談で、源泉徴収票や社会保険などの書類を請求しても出てこないというケースは、たまにありますね。年に数件ぐらいです。とはいえ、相談しない人も多いとみられ、潜在的にはかなりいるのではないかと思っています」

   徴収票不交付の理由については、こう話す。

「保育園運営は大きな企業ではないことが多いので、発行手続きをするのに常勤ではなく非正規の職員を雇ったり、園長や主任が自分の業務の中でやっていたりすることもあります。1か月以内の認識を持っていなかった、税理士をそろえられなかった、ということもあると思います。退職勧奨によるトラブルで保育園側が発行を遅らせたり、中には、保育士との関係が悪くなって意地悪をしたりするところも聞きますね」

   保育園側にも様々な事情があるとしながらも、書記長はこう言う。

「保育士にとっては切実な問題ですので、そのことを持って、致し方ないとは言えないと思います。こちらに来られた方には、関係機関で相談を受けられますよとお伝えすることにしています」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)