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コクヨVSぺんてる、泥仕合の様相 「不信感が決定的」になったワケ

   文具大手のぺんてるを巡る株式争奪戦が勃発した。文具で国内最大手のコクヨが投資ファンドを通じて37%を取得したうえに買い増しの方針を示したところ、国内2位のプラスが友好的な第三者「ホワイトナイト(白馬の騎士)」として、ぺんてる株の買い付けに乗り出した。国内文具市場は少子高齢化で先細りになると見込まれており、コクヨは海外に強いぺんてるを取り込もうと目論むが、両社の間には不信感が決定的になっており、先行きは予断を許さない。

   この話にかかわる3プレーヤーの規模(売上高)は、ぺんてる403億円に対し、コクヨは3151億円、プラスは1772億円だ(いずれも2018年度)。

  • どうなる「ぺんてる」、どうなるサインペン――(画像は、ぺんてる公式サイトより)
    どうなる「ぺんてる」、どうなるサインペン――(画像は、ぺんてる公式サイトより)
  • どうなる「ぺんてる」、どうなるサインペン――(画像は、ぺんてる公式サイトより)

一旦は両社の関係が落ち着いたかのように見えたが...

   コクヨは2019年5月、ぺんてる株式の37%を保有する投資ファンド「マーキュリアインベストメント」に約100億円を出資し、ぺんてるに対して間接的に資本参加した。非上場会社のぺんてるは、株式を譲渡する場合は取締役会の承認を必要とする旨を定款に明記している。その抜け穴を突いたコクヨに対して、経営の独立性を維持したいぺんてるは当初反発したが、9月にはコクヨの直接出資を認め、コクヨがぺんてる株式の37%を保有する筆頭株主になった。併せて両社は提携交渉も始めた。

   これで両社の関係が落ち着いたかのように見えたが、コクヨは11月15日、ぺんてる株式を保有する元社員や取引先から1株3500円で買い付け、保有比率を50%超に引き上げると発表。記者会見したコクヨの黒田英邦社長は「『ぺんてる側が第三者との資本業務提携を進めている』と匿名の情報提供があった」と明かして、ぺんてる側を非難した。これに対してぺんてるは「コクヨの一方的かつ強圧的な当社の子会社化方針に対し強く抗議する。当社とコクヨとの間に他社との協業等を制限する合意は存在しない」などとする文書を自社ホームページに掲載して対抗した。さらにコクヨは11月20日、「プラスがぺんてる株を1株3500円で買い付けている」との情報を得たと明らかにした。プラスは株式買い付けのための合同会社を設立し、他社との合併など重要事項を否決できる33.4%を上限に1株3500円で12月10日まで買い付けるという。コクヨはプラスの動きに対応して、買い付け価格を3750円に引き上げた――といった展開で、もはや泥仕合の様相だ。

ぺんてるの海外販売拠点に魅力

   コクヨがぺんてるを取り込もうとしている理由は、潜在力がある海外事業が魅力だからだ。それを象徴する商品が、ロングセラーの「サインペン」だろう。筆屋をルーツとするぺんてるが筆のように書きやすく、ボールペンのように持ち運びやすい筆記具として1963年に開発したが、当初はさっぱり売れなかった。何とか販路を開拓できないかと考え、米シカゴで開かれた文具の国際見本市で試供品として配ったところ、たまたま大統領報道官の手に渡り、それを借りて使ったジョンソン大統領(在任:1963~69年)が気に入って、サインペンを大量に注文した。この逸話が雑誌などで伝えられると、ぺんてるのサインペンは全米で有名となり、人気に火が付いた。さらに米国の宇宙船ジェミニの宇宙飛行士が無重力の船内で使ったこともあり、評判が逆輸入された日本でもヒット商品に。ぺんてるは、これで文具メーカーとしての礎を築いた。

   ぺんてるは現在、欧米やアジアなど海外約20カ所に販売拠点を抱え、売上高に占める海外の比率は6割に達しているという。海外比率が1割程度しかないコクヨにとって、自社の弱点を補うには絶好の買収先だ。しかし、ぺんてるはこうした強引なコクヨの手法への反発は強く、コクヨのシナリオ通りに進むとは限らない。