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立教大シンポに「胎内記憶」医師登壇 ネット賛否も...主催側は「スピリチュアリティ」議論の意義を強調

   立教大学で開催予定の公開シンポジウム「霊性(スピリチュアリティ)と現代社会」をめぐり、「大学でやることなのか」と疑問の声があがっている。講師に招く「胎内記憶」研究者の医師が自著で披露している内容が、かねて物議を醸していることなどが背景にある。

   疑問が出ていることについて、立教大広報はJ-CASTニュースの取材に「さまざまな意見があることを受け、担当部局に確認している」とし、中止の可能性についても否定しなかった。一方、シンポジウム主催側は「こうした場で色々な方の意見を聞きながら議論するのは、重要なことだと思います」とその意義を明かした。

  • 立教大学公式サイトより
    立教大学公式サイトより
  • 立教大学公式サイトより

「胎内記憶」主張はたびたび論争に

   大学公式サイトによると、同シンポジウムは立教大の池袋キャンパスで開催予定。「霊性(スピリチュアリティ)やスピリチュアルという言葉は、カルトなどの反社会的勢力との関連から、負のイメージと共に語られることが多々ある」という現状に対し、実際は「霊性とは、人間が普遍的にもつ人間存在の意味や価値を問う行為や、人知を超えた大いなる存在を認識し、それに対し畏敬の念を抱くことなど、人間ならではの深遠な特質と捉えることが出来る」として、

「本シンポジウムでは、霊性の意味を色々な角度から再検討し、令和の時代を迎えた現代社会における霊性の意味、その重要性に関して議論を深めたい」

と趣旨を示す。

   3人の講師を招いており、その1人は池川クリニック院長で「胎内記憶」研究を進める池川明医師。池川氏は自著『胎内記憶でわかった子どももママも幸せになる子育て 「もって生まれた才能」の伸ばし方』(誠文堂新光社・2016年)で、「2~5歳の子どもの約3割が、胎内にいたころの記憶をもっている」とし、母親の妊娠・出産・育児に関するさまざまな悩みを、胎内記憶の観点から解決に導くことを試みている。

   同著では、「お母さんを選んで生まれてきた」と話す子どもが多くいたことや、「お腹の中でも、お母さんのイライラや不安を感じ取って、少しでもお母さんを元気づけようとしている」ことなどを紹介。不安を抱える母親から「安心できた」との評価もある。

   一方で、「虐待を体験するというプログラムをもっている子もいる」「『どんなお母さんでも、ぼくたちは大好きだよ。生まれてきて良かった。お母さん、産んでくれてありがとう』 どんなひどい虐待を受けた子どもでも、そう思っています」といった記述もある。池川氏は「虐待されることが、その子の生まれてくる目的ではありません」とも書いているが、こうした内容は物議を醸してきた。なお同著では、書かれた内容は刊行時点で科学的に説明できないとしている。

立教大「担当部局に確認中」...再検討も

   立教大の今回のシンポジウムが公になると、ツイッターでは11月26日ごろから「マジか立教大学。胎内記憶の池川明医師を登壇させるの? これやっちゃったな......」「不穏な感じがあるんですけどいいんですかねこれ...」「えっこんなん大学でやるの?止めといた方がよくない?後々禍根を残しかねんと思うけどな」などと、疑問の声が複数投稿された。

   同シンポジウムには他に、一般財団法人育生会横浜病院院長・長堀優(ゆたか)氏、「スピリチュアル系元国連職員」を自著で名乗る桜美林大学非常勤講師・萩原孝一氏が、講師に招かれている。長堀氏は、「魂」の目的について論じた池川氏との共著がある。

   立教大の広報課は28日、J-CASTニュースの取材に、同シンポジウムの趣旨を把握しているかについて「シンポジウム自体はウェブサイトにも掲載していますし、承知しています」と話す。一方、上記のような疑問があがっていることに対しては「さまざまなご意見があることも踏まえ、学内で担当部局などに内容を確認しています」とする。そのうえで、中止を含めた再検討をするかどうかについて、

「可能性としては、それも含めて確認しています」

と答えた。

主催者「教育機関だからこそ、意味を問うた方がいい」

   同シンポジウムを主催する立教大のウエルネス研究所所員でコミュニティ福祉学部教授の濁川(にごりかわ)孝志氏は、取材にその趣旨を話す。

「現代社会においてスピリチュアリティという概念が重要であることを皆さんで話し合いたいというのが趣旨です。スピリチュアリティ、霊性は誤解されている側面もあります。現代は蓄財できる物質・金銭の価値が非常に高く、それはもちろん大切ですが、少しバランスが悪い。もう少し精神的に豊かにしていかないと解決できない問題があるのではないか、という視点で講師の方々にお話しいただきます」

   教育機関である大学で、先の「虐待」に関する記述をしている池川氏を講師として招くことに、懐疑的な声があることに対しては、次のようにシンポジウムの意義を述べる。

「そういう(編注・虐待を体験するというプログラムをもっている)子どもがいると言っているのではなく、そう証言する子どもがいるということです。これに池川先生が意味付けをしています。もちろん虐待を肯定するようなことは問題ですが、池川先生は当然ながら虐待を勧めているわけでは無く、そのような悲しい現実が起こる意味を問おうとしているわけです。

むしろ教育機関である大学だからこそ、意味を問うた方がいいと思っています。『虐待なんてことが起きるのはなぜなんだろう』と。こうした場で色々な方の意見を聞きながら議論するのは、重要なことだと思います」(濁川氏)

   池川氏が唱える考え方には「素晴らしいと思います」とし、「全ての人に対していろんな意見があります。賛同する人も反対する人もいるのは、価値観の多様性という点でもいいことだと思います」と話した。シンポジウムでの講演内容については、テーマ・概要を各講師に伝え、具体的な内容は任せているという。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)