J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

安倍首相「世論調査、議論行うべきが多数」 改憲への「根拠」はどこまで正確か

   安倍晋三首相は2019年12月9日に開いた記者会見で、憲法改正について「決してたやすい道ではないが、必ずや私たちの手で、私自身として、私の手で成し遂げていきたい」と述べ、自らの自民党総裁としての任期中の実現を目指す考えを改めて強調した。

    その根拠として挙げたのが、憲法改正を掲げて勝利した19年夏の参院選と世論調査の結果だ。安倍氏は世論調査で「議論を行うべきという回答が多数を占めている」としているが、必ずしもそうではない結果が出たものもある。

  • 記者会見する安倍晋三首相。憲法改正について「最近の世論調査においても、議論を行うべきという回答が多数を占めている」などと主張した
    記者会見する安倍晋三首相。憲法改正について「最近の世論調査においても、議論を行うべきという回答が多数を占めている」などと主張した
  • 記者会見する安倍晋三首相。憲法改正について「最近の世論調査においても、議論を行うべきという回答が多数を占めている」などと主張した

2019年夏の参院選公約では重点項目の最後に「憲法改正」

    安倍氏は記者会見で、

「自民党総裁の任期は残り1年10か月に迫っている。任期中の憲法改正の目標は引き続き掲げるのか」

という記者の問いに対して、

「選挙の結果は、国民の皆様の声は、憲法の議論を前に進めようということだったのだと思う。最近の世論調査においても、議論を行うべきという回答が多数を占めている。国民的関心は高まりつつあると考えている」

と答えている。

    19年夏の参院選で自民党が掲げた公約では、6項目を重点項目として掲載。冊子には「外交・防衛」「強い経済」「安心社会」「地方創生」「復興・防災」の順番で掲載され、「憲法改正」は6項目のうち最後に載った。

「憲法改正」と「憲法改正に向けた議論」の是非を聞く質問

    では、世論調査の結果はどうか。報道各社の世論調査では、憲法改正に関する質問が含まれるタイミングはまちまちだ。19年9月の第4次安倍再改造内閣発足直後の調査では、朝日新聞、読売新聞の調査で改憲について聞いている。朝日の調査では「安倍政権のもとで憲法改正をすることに、賛成ですか」の問いに「賛成」33%、「反対」44%。読売新聞の調査では、「あなたは、今後、国会の憲法審査会で、憲法改正に向けた議論が活発に行われることを、期待しますか、期待しませんか」という質問に、「期待する」56%、「期待しない」34%、「答えない」9%という回答だった。

    11月には、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)、日本経済新聞とテレビ東京、共同通信、NHKの4調査で改憲について聞いている。

    産経・FNN調査では、改憲関係で3つ質問している。「憲法改正に賛成か」には「賛成」52.2%、「反対」34.9%、「他」12.8%。「衆参両院の憲法審査会で憲法改正に向けた議論をもっと活発化させるべきだと思うか」には「思う」73.3%、「思わない」16.2%、「他」10.5%。「憲法改正の是非を争点に衆院を解散して国民の信を問うことは問題だと思うか」には「問題だ」27.8%、「問題ない」57.3%、「他」14.9%だった。それ以外の3調査では、具体的な質問項目の文言は不明だが、その結果を次のように報じている。

「安倍晋三首相が2021年9月の党総裁任期までに憲法改正の国民投票をしたいと表明していることに『賛成』は58%、『反対』は32%だった」(日経・テレ東)
「首相の下での憲法改正に反対は49.2%で、賛成の37.9%を上回った」(共同)
「安倍総理大臣が意欲を示す憲法改正について、国会で議論を早く進めるべきかどうか質問したところ、『早く進めるべき』が33%、『早く進める必要はない』が32%、『議論をする必要はない』が22%でした」(NHK)

「聞き方」で分かれそうな解釈

    まとめると、改憲の是非そのものを聞いたのは朝日、産経・FNN、共同の3調査。単に「憲法改正に賛成か」と聞いた産経・FNN調査では賛成が過半数だったが、「安倍政権のもとで」「首相の下での」という前提条件がついた朝日、共同は反対が賛成を上回った。質問の仕方によって回答が変化していることがうかがえる。

    議論を加速させることの是非を聞いたのは読売、産経・FNN、NHK。そのうち、読売、産経・FNNでは賛成が反対を大幅に上回った。一方で、「早く進める必要はない」「議論をする必要はない」と、議論を加速させることに否定的な選択肢が2つあるNHKの調査では、議論の加速に前向きな「早く進めるべき」を選んだのは、全体の3分の1に過ぎなかった。安倍氏が根拠にしている「議論を行うべきという回答が多数を占めている」が妥当かどうかは、その聞き方によって解釈が分かれそうだ。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)