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文書は「議事要旨」1枚のみ ピエール瀧出演映画への助成金不交付、識者は「過程が大事。記録残すべき」

   映画「宮本から君へ」に、文部科学省所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(河村潤子理事長)が、内定していた助成金1000万円の不交付を決定して物議を醸した問題で、同振興会側が作成した助成金交付申請書審査会の記録が議事要旨1枚しかないことが分かった。

   J-CASTニュースが振興会に行った情報公開請求や取材で判明。基金部の担当者は、記録が議事要旨1枚という理由について、「一般的にこういう形で残している」と電話取材に語った。一方の識者は「結論と理由以外は実質的なことは書いていない」と指摘する。

  • 開示された審査会の議事要旨
    開示された審査会の議事要旨
  • 開示された審査会の議事要旨

記録は約250文字...「『公益性』の観点から適当でない」

   「宮本から君へ」には麻薬取締法違反で有罪判決を受けたピエール瀧氏が出演。逮捕後、内定していた助成金が不交付となった。J-CASTニュースでは、助成金が不交付決定に至った経緯についてさらに調べようと、2019年10月28日付で法人文書開示請求を実施。11月27日付で開示決定された。

   開示された法人文書の写しは、全部で21枚。そのうち、助成金交付申請書の審査会に関する記録は、この議事要旨1枚のみだった。

   開示請求された議事要旨の表題は、「平成31年度 文化芸術文化振興費補助金による助成金交付申請書審査会」。記録の写しでは、映画の作品名や起訴された人物が黒塗りにされていた。同書類には、「国の補助金を財源とした助成金を交付することは『公益性』の観点から適当でないと判断し、助成金を不交付とすることを決定した」とある。そして、「助成金不交付決定通知を後日、発出することとし、当振興会内での事務手続きを進めることを確認した」と書かれている。審査に関する記録は、黒塗り部分を除き、約250字だった。開示された当該部分は、次の通り。

平成31年度劇映画分野助成対象活動である■の応募団体((株)■)から提出された助成金交付申請書において、主な出演者欄に■の名前があることを確認した上で、助成金交付の可否に関して審議した。■が麻薬及び向精神薬取締法違反で■に起訴され、■に懲役1年6月、執行猶予3年の判決を受け、■に刑が確定されたとの報道があったことを踏まえ、国の補助金を財源とした助成金を交付することは「公益性」の観点から適当でないと判断し、助成金を不交付とすることを決定した。併せて、助成金不交付決定通知書の不交付決定理由について確認した。

   開示文書の記録や基金部の担当者によると、「宮本から君へ」には3月に助成金交付が内定していたが、ピエール瀧氏に対する有罪判決の報道を受け、文化庁や振興会顧問弁護士で協議を実施。6月28日、振興会が応募側に助成金交付申請書の提出を依頼した。助成金交付申請書を7月2日に受理。7月8日に日本芸術文化振興会の事務棟で、助成金交付申請書審査会が開かれた。

   起訴された人物が黒塗りになっていたため、J-CASTニュースがピエール瀧氏で間違いないかどうか担当者に問いただしたところ、「お察しの通り」と認めた。作品名も「宮本から君へ」だという。審査の内容についても担当者に聞いたが、「お答えを差し控える」との回答しか得られなかった。

「なんで決まったのかという過程が大事」「記録をちゃんと残すべき」

   「助成金がなくなれば一定の制約が映画にも出る。ある意味表現活動を制約することになる。単に犯罪者が出たからというだけではなくて、映画の表現との関係など含蓄のある議論をしてもらわないと。ちゃんと議論したかどうかを記録に残すべき」。J-CASTニュースの取材に、情報公開の問題などに詳しい、NPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長はこう指摘する。

   三木氏は、振興会側が残した議事要旨について、「結論と理由以外は実質的なことは書いていない。なんで(助成金不交付が)決まったのかという過程が大事。審議で異論があったのだったら異論があったことも記録しておかないとだめ」と強調する。

「例えば(審査会は)振興会が主導しているのか、文化庁が主導しているのかも結構重要。文化庁が『絶対認めない』などと言って、振興会は何も言えない感じで決まっているのか。それとも(両者が)対等な立場で議論しているのか。振興会がもう方針を決めていて、『文化庁さんこれでいいですか』というような話なのか。誰が主導性をもってやっているのか、それなりに議論をしてやったことなのかなど、これだけだとわからない。不利益な取り扱いをすれば当然訴訟になったりする可能性もあるわけですから。根拠として何もないと、後付けでいろんな言い訳をされても証拠にならない。記録をちゃんと残すべき」

   主に行政文書を対象とした「公文書等の管理に関する法律」(公文書管理法)の第4条では、意思決定の過程などを合理的に跡付けしたり、検証したりすることができるよう、事案が軽微なものの場合を除いて、文書作成しなければならない、などと定めている。独立行政法人などが管理する法人文書の管理規則については、第13条で行政文書の管理規則への記載事項などを規定した第10条2項を「参酌」し、「法人文書の管理に関する定めを設けなければならない」などとしている。法人文書管理の原則、いわゆる管理の内容については、第11条で「独立行政法人等は、第四条から第六条までの規定に準じて、法人文書を適正に管理しなければならない」としている。

   日本芸術文化振興会の「法人文書管理規定」では、「振興会における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに振興会の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう文書を作成しなければならない」としつつも、「振興会の意思決定と同時に文書を作成することが困難である場合」と「処理に係る事案が軽微なものである場合」に関しては、「この限りではない」と規定している。

(J-CASTニュース編集部 田中美知生)