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楽天「送料ゼロ」が持つ遠大な視野 公取委はどう判断するか

   楽天が、運営する日本最大級のネット通販サイト「楽天市場」で3980円以上を購入した場合に送料を一律無料とするサービスを2020年3月18日に始める。

   その費用は出店者が負担するため、反発も。公正取引委員会も独占禁止法違反の恐れがあると指摘しており、政府が進める巨大IT(情報技術)企業への規制強化政策とも絡んで、実現までには曲折も予想される。一方で楽天にとっては、物流の大幅強化も含めた一大プロジェクトであり、その行方に注目が集まる。

  • 楽天の構想は実を結ぶか(掬茶さん撮影、Wikimedia Commonsより)
    楽天の構想は実を結ぶか(掬茶さん撮影、Wikimedia Commonsより)
  • 楽天の構想は実を結ぶか(掬茶さん撮影、Wikimedia Commonsより)

無料になる「ライン」を原則一律で指定

   楽天はこれまで、出店者がそれぞれ送料を決め、無料にするのも自由で、無料になる購入額の線引きも任されていた。2020年3月18日以降の新しい仕組みは、利用者が3980円以上を購入した場合、自動的に「送料無料」となり、そのことをサイト上に表示する。ただ、「沖縄・離島」を発送地とする店は送料無料にする購入額ラインを自分で設定できるとして配慮した。出店者に対し、2019年12月19日に通知した。

   楽天が意識しているのは、いうまでもなくアマゾンだ。アマゾンは基本的に2000円以上購入すると配送料は無料、会費を払ったアマゾンプライム会員(月額500円または年額4900円)は購入額にかかわらず無料だ。

   両者の差は生い立ちの違いからきている。アマゾンはもともと自ら本を販売するところから始まり、送料無料でスタートし、自社販売を中心に品ぞろえを広げてきた。楽天のような商店街である「マーケットプレイス」もあり、その出店者は送料を自分で決められるが、半分以上は自社直販といわれ、出店者でも無料配送のないものもいるので、多くが無料配送扱いということになる。

   楽天は、すたれる商店街をネット上で活性化するとのコンセプトで始まり、出店事業者の多様な個性を尊重することで成長。三木谷浩史会長兼社長は当初の考えとして、自著で「大企業のネット通販はルールが厳格すぎて失敗していた」と書いており、送料も出店者に任せてきた経緯がある。ちなみに、楽天はポイントを重視して販促を図るのが特徴だが、アマゾンはこれに追随して2019年、出店者負担のポイントサービス(全商品に販売価格の1%以上)を導入しようとしたが、公取委の調査を受けて断念するという、今回の楽天の送料問題の裏返しのような展開を経験している。

送料が「分かりにくいというユーザーの声が強い」(関係者)

   さて、「自由」を特徴にしていた楽天の転機は2013年のプロ野球・楽天ゴールデンイーグルスの日本一を記念したセールでの「二重価格問題」だった。一部出店者が元の価格を高く表示して大幅に値引きしたようにみせたもので、消費者の猛反発を受け、三木谷氏は「厳格にチェックすべきだった」と謝罪に追い込まれた。以降、楽天は「ユーザーメリット第一」を鮮明にしていった。今回の無料化も、「送料が分かりにくいというユーザーからの声が強い」(楽天関係者)ことが根底にある。

   2019年1月に無料化方針を表明して以降、楽天は全国5万の出店者を対象に各地で説明会を開いて理解を求め、8月には無料化の購入額ラインを「3980円」と公表済みだが、当然、反発は強い。10月には一方的なルール変更を批判する約200の事業者が送料無料化の撤回などを求め、「楽天ユニオン」(任意団体)を設立し、公正取引委員会に調査を要請している。楽天のように「プラットフォーマー(PF)」と呼ばれる巨大IT企業に比べ個々の出店者の力は弱く、楽天に店を出せなければ売り上げが落ちて死活問題になるだけに、楽天の意に反するのが難しいことから、送料負担の強制は独禁法の優越的地位の乱用にあたる可能性がある――というのがユニオンの言い分だ。

   これに対し楽天は、ネット通販サイト間の競争が激化する中で、サイトの利便性を高めることが不可欠だとして、無料化により売り上げが伸びて出店者も潤うという、ウィンウィンの関係を訴えている。実証実験では、送料無料の基準を設けることで購買金額と出店者の新規顧客数がそれぞれ約15%、14%増えたとして、説明会でも理解を求めている。

不利益変更でも、直ちに違反になるとは限らず

   もう一つのポイントが、「ワンデリバリー」構想だ。2000億円を投じて物流網を整備し、独自の配送サービス「Rakuten EXPRESS」を拡大するものだ。すでに700億円を投じており、大阪(牧方)、兵庫(川西、尼崎)、千葉(市川、流山)、神奈川(相模原)の6拠点を整備、2020年中に千葉(習志野)と神奈川(中央林間)も加えて8拠点体制とする計画だ。さらに、これら拠点に遠い北海道と九州には小規模な配送拠点の設置も検討しているという。出店者は楽天の物流拠点に商品を持ち込めば、そこから先の消費者までの配送は楽天に任せることになる。出店者の配送負担は、他の物流業者に委託するより軽減されることになる。

   楽天は、「Rakuten EXPRESS」のカバー人口を現在の30%から2021年に60%に引き上げ、出店者の配送量の約10%を担うだけなのを50%にアップさせる考え。「配送料一律無料」はこうした物流強化の前提でもあり、目的でもある。まさに一体のものなのだ。

   とはいえ公取委の山田昭典事務総長は11月の会見で、「(楽天など主要なデジタルプラットフォーマーが)自社の便益を図る目的で取引の相手方に不当に不利益を与えるやり方で取引条件を変更することは独禁法上の問題となりうる」と述べている。ただ、独禁法の専門家の解釈では、仮に不利益を与える変更でも、直ちに違反になるとは限らず、全体として適正といえる状況かどうかが判断の分かれ目という。その施策(今回は無料配送)が合理的か、また、事前に理解を得る努力を十分に行ったかなどがポイントになる。

   説明会の開催、独自の配送網整備による出店者の負担軽減などを総合的に、どのように判断するか、公取委の対応が注目される。