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モヤさま紹介「足湯デトックス」に専門家警鐘 テレ東も「一部誤解招きかねない表現」認める...問題はどこに?

   「えーーー!!」「嘘だろ」「出まくりじゃねえか」――。これは、テレビ東京系列の人気バラエティー番組「モヤモヤさまぁ~ず2(モヤさま)」での一幕だ。

   この日の放送では、足を浸すだけで体内の有害物質が排出されるという健康器具を取り上げた。女性アナウンサーが試したところ、透明な水が赤黒く濁り、出演者一同が驚嘆する様子が映された。

   説明が事実なら、テレビで紹介する意義は十分あるといえる。しかし、複数の専門家は「科学的根拠があるとはいえない」と指摘する。

  • 19年12月22日放送のモヤさま(動画配信サービス「Paravi」より)
    19年12月22日放送のモヤさま(動画配信サービス「Paravi」より)
  • 19年12月22日放送のモヤさま(動画配信サービス「Paravi」より)

「信じられないくらいの老廃物が出ちゃいました」

   2019年12月22日放送のモヤさまでは、「衝撃の足湯デトックスができる」という東京都内の整体院を取り上げた。店頭の看板では「TV、雑誌、口コミで話題!!足湯デトックス」「まさに・・・毒出し!?」と宣伝しており、足湯を売りの一つにした店だとわかる。

   番組のナレーションによれば、同院で導入している足湯機器に足を30分間浸すだけで体内の老廃物が排出されるとする。副院長は「排気ガスであったりとか、避けることができないものが体に溜まってる」「足の方に体の悪いものがプラスイオンとなって溜まるんですけど、マイナスイオンの水が電気を通して引き出す」と仕組みを解説した。

   実際に女性アナウンサーと男性スタッフが体験すると、結果ははっきり分かれた。男性は水が透明のまま変化しなかったが、女性の方は赤黒く濁り、出演者一同は驚がく。ナレーションで「信じられないくらいの老廃物が出ちゃいました」と伝えた。

   一方、男性は「どんだけ健康なんだよ」と出演者から突っ込まれていた。

放送後に予約相次ぐ

   この整体院の公式サイトによれば、施術は30分で5400円。"毒出しマシーン"と銘打ち、「疲労感回復・身体が軽くなる」「毒素が排出され気分もスッキリ」など5つの「効果」をうたう。

整体院の公式サイトより(編集部で一部加工)
整体院の公式サイトより(編集部で一部加工)

   番組放送後には「モヤモヤさまぁ~ず2をご覧になった皆さまへ お問い合わせのお電話が続いており、ご対応が追い付いておりません。皆様には大変ご迷惑をおかけいたします」とのお知らせが掲載され、反響の大きさがうかがえる。

   同じ足湯機器を導入している愛知県のマッサージ店のブログでも「やはりテレビの影響はすぐに現れて放送後のけっこうな人数の方からネット予約が入りました。デトックスという概念を多くの方に知っていただくには良い機会でした」と触れられており、波及効果もあったようだ。この店では「冷え症、婦人科系の症状、アレルギー、花粉症、頭痛、アトピーの痒み」について、足湯デトックスの「効果だけではないかもしれませんが」としつつ、「良いことがたくさん起こってきます」としている。

   ただし、放送内容に懐疑的な視聴者は少なくない。SNS上では「インチキを堂々と放送することに驚愕である」「こういうのテレビで取り上げるのはもうやめようよ......」と苦言も寄せられている。

   整体院の院長はJ-CASTニュースの取材に、この機器の名称は「ゴッドクリーナー・ゴールド(GCG)」で、健康機器などを販売する「マインドフィットネス」(大阪市)から購入したと明かす。

ゴッドクリーナー・ゴールド(製品サイトより)
ゴッドクリーナー・ゴールド(製品サイトより)

   サイトに記載していた「効果」は体験談によるもので、科学的根拠(エビデンス)については「メーカーに聞いてください」と答えた。

エビデンスの中身は...

   マインドフィットネスは、"氣エネルギー"を発するという開運グッズや、"有害電磁波"から身を守るとするシート、「認知症患者・認知症予備軍に朗報」と打ち出すアロマオイルなど、約30種類の商品を販売している。

   民間調査会社によると、同社の従業員数は3人(19年3月時点)で、18年12月期通期の売上高は1億6371万円だった。

   GCGの製品ページでは、仕組みを次のように説明する。

   まず、本体を湯で満たし、チタンとステンレス入りの電極カートリッジを沈める。次に、ヒーターをオンにして足を浸し、塩を投入。すると、水が電気分解されて「マイナスイオン水(高濃度水素水)」ができ、デトックスにつながるという。

「高濃度水素水に含まれる"水素(H)"は皮フを通して体内に取り込まれ病気・老化の原因と言われている悪玉活性酸素(フリーラジカル)を取り除いてくれます」(製品サイトより)

   価格は税抜き44万8000円。電極カートリッジは寿命があり、約60回の使用で交換が必要だ。

   効果を裏付ける科学的根拠としては、主に3つの分析結果が示されている。

   「変色汚水成分分析」では、72歳の男性がGCGを使用した後に出た汚れを分析したところ、「『有害ミネラル』8種類のうち、アルミニウム・ヒ素・水銀のデトックスが特異的です」などと結論づけている。分析は遠赤外線応用研究会(大阪市)を通じてアメリカの分析機関が担当したという。

   ※同研究会は取材に対し、マインドフィットネスから依頼があったのは事実としつつ、提出された汚水はGCGで使用されたものかどうかは、「試料水の作成過程について、弊社では関知いたしておりません」と答えた。また、分析したのはアメリカではなくカナダの民間企業だとした。

   「血液顕微鏡での観察結果」では、GCG使用前後の血液を比較すると、「重金属・化学物質の蓄積により多量の汚れが溜まっているため全く見えない」状態から「一部ではあるが、姿がクリアーに現れ始め、血液が流れている状態までもがよく見えるようになった」。調査主体、サンプル数は不明(マインドフィットネスへの取材で、同社が3人を対象に行った観察だとわかった)。

   「有害重金属デトックス成分分析結果」では、『オリンピックドクターが教える "ナノバブル水素水"健康法』(幻冬舎)などの著書がある、富山医科薬科大(現・富山大)の田沢賢次名誉教授の写真とともに、6人の被験者の"デトックス"効果が記されている。GCG使用後に出た浮遊物の中から、「通常の量」を超えた有害重金属の検出傾向がみられたという。

   そのほか、「波動測定器」による分析結果なども紹介されている。

   なお、GCGは米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けているとしているが、マインドフィットネスから提供された資料(登録製品名:BASBA FOOT VIBRATOR)をもとにFDAのデータベースで検索しても該当はなかった。FDAの申請代行2社に調査を依頼しても結果は同じで、(1)更新をしていないため登録抹消された(2)そもそも登録していない――のいずれかが考えられるという。FDA広報に確認を求めるも、明確な回答は得られなかった。

変色汚水成分分析/血液顕微鏡での観察結果
変色汚水成分分析/血液顕微鏡での観察結果
有害重金属デトックス成分分析結果
有害重金属デトックス成分分析結果
波動測定比較
波動測定比較

専門家2名はバッサリ

   科学的言説の評定サイト「Gijika.com」を運営する、明治大学科学コミュニケーション研究所の山本輝太郎研究員に見解を尋ねると、GCGはエビデンスに欠けると指摘する。

「一般に『〇〇に効果がある』との主張に科学的根拠があるとみなすためには、信頼性の高い実験デザインによって主張したい効果を繰り返し検証する必要があります。たとえば、『機器を使用する群』と『使用しない群』に被験者をランダムに分け、そのうえで主張に合致した指標によってその効果を検証する実験(ランダム化比較試験)や、それらの実験結果を統合する『メタ分析』などが科学的に信頼性の高い研究デザインとされています。国立がん研究センターのページ(https://ganjoho.jp/med_pro/med_info/guideline/guideline.html)が参考になります」
「しかし、少なくとも当該製品のホームページ(HP)では、そうした信頼性の高い実験が実施されている形跡は見当たりません。当該機器に特有としてうたわれている効果について、科学的根拠があるとはいえないと思われます」
「ただし、当該機器はいわゆる『足湯』の製品ですので、評価対象を『足湯の効果』まで広げた場合、いくつかのランダム化比較試験が見つかりました(医学系文献データベースPMIDの「27261980」など)。たとえば、『一日30分程度の足湯を1か月程度継続することによって高齢者の睡眠時間や質が改善する』などの効果についての研究です。ただし、これらも限定的な効果が示されているに過ぎないため、慎重に評価する必要があります」

   山本氏に、より具体的な問題点を挙げてもらった。

「HP上で記載されている実験とされるものの一つに、ごく少人数の6人の対象者に『当該製品(3人)』と『類似品(3人)』の使用の違いによる比較が掲載されています。しかし、そこで使用されている『波動測定器』なるものにそもそも大きな問題があります。ここでいう『波動』とは物理学的な波動ではなく、『自然エネルギー』などの独自定義による概念を測定しているもので、科学的に十分に議論されているものではありません」
「簡単に言うと、『そもそも何を測定しているのかよくわからない機器によって計測された数値』でしかなく、評価に値しない結果です。さらに、HP上に記載しているのは当該製品と類似品3人ずつの使用者のうちの一人分の結果ですが、誤差の影響などによってこれだけでは普通は何もいえないはずで、多くの被験者を比較し統計的に検証されなければいけません」
「なお、『有害ミネラル』についても、HP上で記載されているのは6人の被験者が当該製品を使った後の数値だけで『比較対象』がないため、これだけでは何もわかりません。また、グラフの目盛をかなり拡大して違いがあるかのように強調していますが、その値にどの程度意味があるかが書かれていないためこれも評価不能です。そもそもグラフの記載意図がわからず、単に『科学的っぽくみせるため』だけにグラフを載せているのではないかと思われます」

   京都女子大の小波秀雄・名誉教授(物理化学)も、「まったくのデタラメ」と言ってはばからない。そもそも、体内の悪いものを排出するという意味での"デトックス効果"自体が眉唾ものだとする。

   水が変色するのは、鉄やクロムのイオンが溶け出すためで、番組での体験者の反応が二分したのは「塩分濃度や電極の調節などすれば、いくらでも可能です」と断言。「金属アレルギーの人は、ニッケルに敏感なケースが多いので、簡単に発症してしまうのではないか」と使用リスクも懸念する。

販売会社社長は猛反論

   販売側の受け止めはどうか。マインドフィットネスの小橋一央社長が取材に応じた。

   小橋氏によれば、2006年からGCGの前身である「ゴッドクリーナー」を販売し、14年に独自改良したGCGが誕生した。

   ゴッドクリーナーはもともとチベット人医師が開発し、中国企業が製造権を得た。その後、マインドフィットネスが独占的に半製品の状態で輸入し、自社でヒーターの取り付け加工を行っているとする。直近5年間で5000人以上が体験し、累計2000台を売り上げたという。

   小橋氏に専門家の指摘を伝えると、十数年にわたって市場で生き残っていたことが、製品の素晴らしさを証明していると語る。

「商品化にあたっては、類似品を取り寄せて比較データを取ったところとんでもない偽物が市場にありました。こんなものを商品化するとあなたの信用がなくなるからやめなさい、と詳しい方が私にアドバイスをくれました。ですが比較データを見たときにこのゴッドは本物だと、類似品はまったく重金属が検出されなかったので偽物だなと。こんなものが市場に出たら必ずマスコミに叩かれるということを予測しながら私は2006年に発売しました。そしてほぼ1年経過したところで偽物が叩かれ市場から消えていきました」

   水の色が濁るのは鉄の成分だと認めたが、「我々が問題にしているのは色ではないんです。表面に浮かぶヘドロ状のものです」と反論する。

「ヘドロ状のものが大量に浮かぶ方は食生活がぐちゃぐちゃです。最近あった事例では、健康サロンの部長が大量に浮遊物が浮かぶんですね。隣の若い女の子は綺麗なんです。部長に食生活を聞いたところ、毎日コンビニ弁当を食べていると。コンビニ弁当は最悪ですよと。添加物がいっぱい入って防腐剤も入っていますという話をその方にしたんです。明日からおにぎりを作って食べたらどうですかと提案するくらいひどかったです。出る方には出る理由があるんです。たとえば薬漬けのかたは大量に出ます。薬を飲んでいない方は出ません。それは毎日の食生活の結果ですよね」

   エビデンスに絶対の自信があるのなら、研究成果を論文にまとめ、厳格な査読審査がある学術誌に掲載すれば信頼性が増すはずだが...。

「今のところないですね。いま代替医療をおこなっている先生にGCGを貸出ししてデータ取りをお願いしているんですが、先生もお医者さんなのでなかなかデータ取りが進んでいなくてそこまで至っていないというのが実態です。その先生はこれで臨床データを集めてまとめたいとおっしゃっていたんですけれどなかなかお忙しいようで」(小橋氏)

取り上げたテレビ東京はどう考えるか。

   番組は現在も、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で視聴できる。ただ、一部場面がカットされて配信されていた。例えば、GCG使用後の「信じられないくらいの老廃物が出ちゃいました」とのナレーションや、出演者の「摂取してたんだ、体に重金属を」とのセリフだ。退店時の「衝撃の足湯デトックスができる整体サロン」とのテロップは、「〇〇先生がいる整体サロン」(伏せ字は編集部)にトーンダウンしている。

   テレビ東京の広報部に、(1)GCGを紹介した経緯(2)Paraviでの編集の意図(3)謝罪や訂正の予定はあるか――などを問うと、「放送では、一部誤解を招きかねない表現があったため、あらためて検討した上で、放送後の対応を致しました」と答えるにとどめた。

   前述の山本氏は、今回の事例で、メディアの「頼りなさ」があらためて浮き彫りになったとみる。

「今回の件に限らず『科学』に関して、基本的にメディアは『珍しいもの』『新しいもの』をよく取り上げる傾向にあると思います。また、『これまでの常識(科学的知見)を覆す』といった大発見を強調することも多いようです。しかし、科学の知見は仮説と検証の繰り返しによって積み上げられ、蓄積されてきたものです。そのため、従来知られている知見から著しく外れた主張が『科学的』としてなされる場合、それだけで注意が必要だということをメディア側も理解する必要があります」

   一方で、山本氏は「デトックスに限らず、反ワクチン論、水素水など疑似科学的言説についてメディアの罪は大きいと考えますが、現在はネットやSNSを中心にそうした言説に対する『監視の目』も醸成されつつあり、潮目は変わりつつあるのではないか」と注目する。

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)