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新卒一括採用は消えるのか 春闘に「変化の荒波」

   2020年春闘は、1月28日に東京都内で開かれた連合と経団連の労使トップ会談でスタートした。賃上げをめぐって前年並みは確保したい労働側と、景気の先行きを厳しく見て抑制したい経営側の間で、交渉は難航も予想される。また、経営側はグローバル化やデジタル化の進展をにらみ、日本型雇用の見直しの姿勢を強めており、曲がり角といわれて久しい春闘に、一段と変化の荒波が押し寄せている。

   春闘の最大の焦点は何といっても賃上げだ。トップ会談で連合の神津里季生(りきお)会長は、「賃上げのうねりが社会全体のものにはなっていない。分配構造の転換をめざす」と強調。5年連続で、賃金体系の底上げを意味するベースアップ(ベア)2%程度、定期昇給分とあわせて4%程度の賃上げ統一要求に盛り込んだ。

  • 「日本型雇用システム」の見直しも大きな論点に(写真はイメージ)
    「日本型雇用システム」の見直しも大きな論点に(写真はイメージ)
  • 「日本型雇用システム」の見直しも大きな論点に(写真はイメージ)

「日本の賃金水準は先進国の中でも決して高くない」、しかし...

   対する経団連の中西宏明会長は「日本の賃金水準は先進国の中でも決して高くない。賃上げを続けるモメンタム(勢い)は大事だ」と賃上げの必要性は認めているが、企業の景況感が悪化しているとも強調し、最終的に各社の判断に委ねる方針だ。

   第2次安倍政権の下、政府が経済界に賃上げを求める「官製春闘」が2014年に始まり、14~19年の6年連続で2%超の賃上げが続いてきた。しかし、アベノミクスで大企業を中心に利益が増え、企業の内部留保が18年度に463兆円と7年連続で過去最高を更新し続ける一方、労働分配率は歴史的な低水準が続いている。経済協力開発機構(OECD)のまとめでは、1995年と比べた名目賃金は米国が2倍、ユーロ圏は1.6倍に増えているのに対し、日本は非正規雇用の割合が増え続ける影響で0.9倍と約1割下がっている。中西会長が日本の賃金水準が低いことを認めざるを得ない所以だ。

   ただ、安倍首相は2019年12月末の経団連の会議に出席して「来春も大いに期待している」と、賃上げを要請したものの、18年に「3%」との数値を目安に挙げたのに対し、19年に続き20年も数値には触れていない。軽量級の会長が続いた後、久しぶりの〝本格政権〟といえる中西会長体制への配慮との見方もある。

非正規雇用の増加に伴う格差の是正も課題

   いずれにせよ、経営側の賃上げへの熱意は前年より低下している。米中貿易摩擦などの影響で企業の景況感悪化しており、ここにきて、中国発の新型肺炎の拡大が世界経済に与えるマイナスへの懸念が急速に拡大していることも、経営側のマインドを後退させている。トヨタ自動車やホンダなどの労組が前年妥結額を下回る要求にとどめる動きもあり、労働側には厳しい展開も予想される。

   賃上げでは、非正規雇用の増加に伴う格差の是正も課題。連合は今春闘の要求に、非正規社員にも勤続年数に応じた昇給ルールを導入することや、法律の最低賃金(東京で時給1013円)とは別に、時給1100円以上の「企業内最賃協定」を労使が結ぶことなどを盛り込んでいる。4月から、正規・非正規の格差是正をめざし「同一労働同一賃金」が大企業向けで実施(中小企業は2021年4月から)されるなか、経営側の対応が注目される。

   今春闘では、「日本型雇用システム」の見直しも大きな論点だ。経団連が、年齢の上昇に伴って上がっていく年功型賃金や新卒一括採用などの見直しを求めている。旧来の仕組みが終身雇用を前提とした「メンバーシップ型」といわれるのに対し、専門性や成果による処遇を基本とする「ジョブ型」の雇用に転換していこうというもので、賃上げについては「脱一律」ということになる。経済のデジタル化やグローバル化のなかで、米大手IT(情報技術)企業などと専門分野で優秀な人材の奪い合いになっている状況を踏まえ、日立製作所会長である中西氏の意向を反映した方針とされる。

賃上げ「脱一律」に呼応する動き

   労働側の中でも、自動車総連は、2019年からベアの水準を示すのを取りやめたのを今回も踏襲、中でも、日本一の利益を上げているトヨタの労組は今春闘で、ベアの額が各組合員の人事評価に応じて従来より差がつく制度を提案し、ベアがゼロになる社員が出るのも容認するなど、経営側の「脱一律」に呼応する動きがある。電機連合も春闘の方針で、前年と同じ「月額3000円以上」のベアを統一要求とする一方、条件付きで各社の回答にばらつきが生じることを初めて容認するなど、春闘の代名詞だった「同額要求・同額回答」の図式が崩れ、賃上げの多様化が広がる流れが広がる気配だ。

   これについて連合の本部は、経団連の方針が国際競争の最前線にいる大企業の意向ばかりを反映しているとして、「我々の問題意識は日本型雇用システムの良い部分をいかに取り戻すかだ」(神津会長)と反論。セーフティーネットとして機能してきた終身雇用に基づく長期雇用の行き過ぎた改革に慎重な姿勢で、中小企業や非正規労働者などの待遇改善による格差是正の必要を訴える。

   景気動向もにらんで、厳しい労使交渉が続く。