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安倍首相は「意味のない質問」なぜ謝罪したか 憲法定める権利の重さ

「不規則な発言をしたことをお詫びする。今後、閣僚席からの不規則発言は厳に慎むよう総理大臣として身を処していく」

   2020年2月17日の衆院予算委員会の冒頭。安倍晋三首相はこう述べ、「意味のない質問だよ」と辻元清美議員(立憲民主党)にやじを飛ばしたことについて、謝罪と撤回を行った。

   やじが飛んだのは、12日の衆院予算委員会。辻元議員が「鯛は頭から腐る。頭を替えるしかない」と批判して質問を終えた直後、安倍首相が自席から「意味のない質問だよ」と発言。その後、安倍首相は「罵詈雑言の連続で、私に反論の機会が与えられなかった」と釈明したのだが――。

  • 安倍首相VS辻元議員、その深層は(2019年9月撮影)
    安倍首相VS辻元議員、その深層は(2019年9月撮影)
  • 安倍首相VS辻元議員、その深層は(2019年9月撮影)

「桜」にいら立ち...

    連日、新型コロナウイルスの対策に追われるなか、「桜を見る会」をめぐる野党の度重なる追及に、首相はいら立ちを募らせたのかもしれない。実際、安倍首相は12日の衆院予算委員会で、このやじ以外にも皮肉を込めた答弁、挑発的な態度を連発し、野党に対する攻撃的な姿勢が目立った。

   一方で、「桜を見る会」をめぐって同じ趣旨の質問を繰り返す野党に対し、「体たらく」「時間の無駄」といった声が、Twitterなどでも挙げられている。

   ただ、忘れてはいけないのは、野党はじめ国会議員の「質問権」は憲法で定められた権利であるという点だ。安倍首相=内閣、辻元議員=国会という位置付けで考えた場合、憲法にはそれぞれの関係性について規定する項目がいくつかあるのだ。

国会議員の「質問権」憲法上でどう規定?

   まず、国会には「国勢調査権」という、国政に関わる事柄を調査する権限が与えられている。憲法上では、【第62条】「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」とされている。この規定に基づき、首相や閣僚は、答弁や説明のため出席を求められたときは、出席して説明する必要がある。

    さらに、現行憲法下では「議員内閣制」という制度が採用されている。わかりやすくいうと、内閣は国会の支持のうえに成立し,国会からの信頼のもと職務を行うことができるという制度だ。憲法上では、【第66条第3項】「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」とされ、内閣は連帯して国会に責任を負い、首相は国政に関わる事柄について国会に報告する義務を負っている。

   また、やじが飛んだのが「予算委員会」であることから、憲法上の【第86条】「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」という規定もかかわってくる。内閣は、自らが作成した予算について国会の審議と議決が必要で、予算の最終決定権は国会が持つ、というものだ。

支持率は8.3ポイントの急落

   憲法上からも、首相は、国会で多くの批判に答え、説明する責任が求められている――。つまり、野党の質問を「意味のない質問」と切り捨てることは、単に辻元氏だけでなく、国権の最高機関であり唯一の立法機関である国会を「軽視」するを意味し、ひいては「民主主義」や「議院内閣制」を危うくするおそれも――こうした批判が成立するからこそ、安倍首相も17日の謝罪と撤回という事態に追い込まれた。

   15日・16日の週末、報道各社による世論調査が行われ、内閣支持率が不支持率を逆転した。特に、共同通信が行った調査では、安倍内閣の支持率は41.0%、1月の調査から8.3ポイントの下落だ。これほどの下落は、森友学園をめぐり財務省の決裁文書改ざんが明らかになった2018年3月以来だ。

   安倍首相は答弁書をそのまま読み上げる形での謝罪と撤回だったが、はたして国民の納得を得られ、再び支持率を回復させることはできるのだろうか。