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前田道路の「勝算」 TOBへの捨て身抵抗続ける内幕は

   道路舗装大手の前田道路が、準大手ゼネコンの前田建設工業から仕掛けられた敵対的なTOB(株式公開買い付け)に対し、「捨て身」の抵抗を続けている。

  • TOBの行方は?(Hiroserivさん撮影、Wikimedia Commonsより)
    TOBの行方は?(Hiroserivさん撮影、Wikimedia Commonsより)
  • TOBの行方は?(Hiroserivさん撮影、Wikimedia Commonsより)

単純な親子関係ではないがゆえに

   中でも注目を集めたのは2020年3月期に計画していた額の6.5倍に当たる535億円の特別配当を実施すると、2月20日に発表したことだ。従来計画分を合わせた配当総額は約615億円になる。2000億円余りの純資産の4分の1以上を吐き出すことで資産価値を下げ、会社の「魅力」を落とし、買収意欲をそごうという奇策だ。

   前田道路は4月14日に臨時株主総会を開き、特別配当の議案を諮る。特別配当は1株当たり650円で、予定していた年間配当(100円)の6.5倍になる。

   前田建設は前田道路株を24.68%保有する筆頭株主で、持ち分法適用会社にしている。前田道路の前身は1930年設立のアスファルト舗装工事の草分け「高野組」。経営が傾いた1962年に会社更生法の手続きを開始して再建を目指し、前田建設の支援を受け、1968年に社名を前田道路に変更した経緯がある。単純な親子関係ではないのだ。

   前田建設は2020年1月20日、前田道路にTOBを実施し、連結子会社にすると発表した。買い付け価格は前週末の17日の終値を50%上回る1株3950円、買い付け期間は1月21日~3月4日、買い付けの上限は2181万1300株で、発行済み株式数の51%を目指すという内容。

   前田建設は「脱請負」を目標に掲げ、愛知県の有料道路や国際展示場、仙台空港の運営に参画するなどインフラ運営事業に注力し、自信を深めている。道路舗装事業も組み合わせ、シナジー効果を狙ったのが今回のTOB提案だ。前田道路が過去5年で5回、公正取引委員会から課徴金の納付命令を受けていることから、グループ全体のコンプライアンス強化をTOBの理由の一つに挙げる関係者もいる。

抵抗の背景には「独立心」の強さ

   これに対し前田道路は、その生い立ちからも伺えるように、独立心が強い。前田建設のTOB発表直前に、前田建設保有株を自社株取得して資本関係を解消するとの提案を先手を打って発表。24日には、「将来においても事業シナジーが創出される見込みがない」「資本市場からの評価がより乏しい企業によって経営されることになる」などとしてTOB反対を明確にした。

   前田建設は29日、過半取得によって「総合インフラサービス企業グループ」になることが双方の企業価値向上にとって望ましいとして、改めてTOBの目的・意義を理解してもらえるように、協議の機会を設けていくと発表した。

   その前田建設の呼びかけへの返答が「巨額配当」だった。

   前田道路はさらに、2月27日にはJXTGホールディングス(HD)傘下の道路舗装最大手のNIPPOと資本・業務提携の協議を始めると発表。アスファルト合材工場の共同運営などによるコスト削減を見込んでおり、株式の5%程度を持ち合う方向で検討するとしている。前田建設のTOBをけん制する狙いがあるとみられている。

   実は、前田道路は初めから巨額配当を計画していたわけではない。TOBを仕掛けられると、別のパートナー、つまり友好的な買収者(ホワイトナイト)を探し、大手外資系ファンドや石油業界など幅広く接触、ファンドの力を借りて経営陣による買収(MBO)を行う案や、ある企業グループに株式の3割程度を持ってもらう案などが検討されたが、結局、まとまらなかった――という。

   万策尽きて打ち出したのが巨額配当というわけだが、そこには二重の意味があると、関係者は指摘する。

巨額配当の「二重の意味」とは?

   前田建設のTOB条件には「前田道路が単独純資産の10%に相当する額を上回る額の配当を実施する場合、TOBの撤回等を行うことがある」と期されていて、まさにこの条件に該当する配当だということ。ただ、単純にこの数字を満たすには200億円余りの配当でよく、600億円は過大に見える。

   そこで、もう一つの意味(狙い)が見える。前田建設のTOBには下限が設定されていないため、51%の上限に届かなくても、株主が応募した株は前田建設に渡る、つまり30%なり40%なりの株を握ることもありえる。前田道路としては経営の手足を縛られ、今回は免れても、行く行くは子会社化されないとも限らない。だから、TOBを撤回してもらう必要があり、配当額を増やし、前田建設の意欲を完全に削ごうとした――というわけだ。

   過去1年、主に2000円台前半を中心に推移し、直近では2600円台で小動きだった前田道路株はTOB発表を受け、1月20日に3135円、21日には3835円まで暴騰し、その後も3600~3700円台で推移していたが、2月20日の巨額配当発表を言受け、一時、3315円までに急落、その後はNIPPOとの提携発表に加え、株式市場全体の軟調もあって、28日には一時、3175円をつけている。TOBの成立期待の後退、TOB失敗観測の広がりを示しているといえる。また、特別配当の「権利落ち日」となる3月5日に急落し、6日時点ではとうとう2777円まで下がった。

   前田建設は巨額配当の発表を受け、TOB期間を3月4日から12日に延長した。前田建設はTOBの旗を掲げ続けるのか、降ろすのか、予断は許さない。

   株主にとって特別配当はありがたいが、TOBを前提にした現在の株価が、今後どうなるかは不透明だ。また従業員や取引先など、株主以外のステークホルダーにとってのTOB騒動の功罪も、現段階では判断できない。