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続投が「ニュースになってしまった」パナソニック・津賀社長が迎える正念場

   新型コロナウイルスの感染拡大を受けた企業や自治体の対応を1面トップで伝えた2020年2月27日の日本経済新聞朝刊。ページをめくって読み進むと、企業面に「パナソニック 津賀社長の続投決定」と目立つ見出しの記事が掲載された。

   前日に発表された6月の定時株主総会後の経営体制を報じた記事だが、一般的に大企業であったとしても社長が続投すること自体がこうして扱われるのは、ちょっと異例だ。裏読みをすれば、2012年に就任した津賀一宏社長が退任するか、続投するかの瀬戸際に立っていると日経新聞は認識していたことを意味する。

   その見立てがむしろ退任側に傾いていたからこそ、続投が、これほど大きく扱われたと言えよう。それほど津賀社長、そしてパナソニックは厳しい局面を迎えている。

  • 日経の紙面を「続投」が飾った
    日経の紙面を「続投」が飾った
  • 日経の紙面を「続投」が飾った

昨秋に駆け巡った「噂」とは

   この記事の伏線になるような情報が、2019年秋に大手報道機関を駆け巡ったという。パナソニックのある幹部が社外の人物に、津賀社長が2020年6月の株主総会をもって退任する可能性が高いと話した、という真偽不明のものだ。後任の社長として、中国・北東アジアを担当する本間哲朗・代表取締役専務執行役員の名前を挙げていたという説もある。結局は「ガセ」の情報になったが、社内から公然と社長退任に言及する動きが出るようになっては、津賀社長の求心力は低下しているとの見方が広がった。

   2代前の中村邦夫氏と前任の大坪文雄氏が強力に推進したプラズマテレビ事業の失敗が明白になり、1兆5000億円を超える巨額の赤字を計上するタイミングで社長に登板した津賀氏。社長就任早々にプラズマテレビ事業からの撤退を決め、その減損のために2013年3月期も巨額赤字を計上した。

   その一方で、経営の主軸をコモディティー化が進む家電から、企業向けの製品やサービスへのシフトする姿勢を明確に打ち出し、自動車関連や航空機関連に注力した。イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)率いる米電気自動車(EV)メーカーのテスラと組んで米ネバダ州で操業するEV用電池工場は、変わるパナソニックの象徴となった。

   とはいえ社長就任から丸8年を迎えようとしているが、業績は冴えない。テスラと組んだEV用電池事業は、パナソニック側が生産ラインの拡充を済ませたもののテスラ側の事情で稼働率が上がらず、「テスラ向け事業だけ見れば、まだ赤字だ」(2019年4~6月期決算記者会見)。パナソニックの前身、松下電器産業を辞めた後、日本マイクロソフト社長などを歴任した樋口泰行氏を呼び戻してトップに据えた企業向けソリューション部門も、収益に大きく貢献するのはまだこれからだ。

成長の柱「中国」も新型コロナで逆風

   その一方で、2019年には不採算事業の切り離しに相次いで踏み切った。テスラ向け以外の車載電池事業は、トヨタ自動車に事実上売却した。パナソニックホームズ(旧パナホーム)などの住宅事業は、これもトヨタ自動車の住宅事業と統合させ、パナソニックの連結対象から外した。確かに100年を超えるパナソニックの歴史の中で事業が多角化した結果、事業ごとの企業価値の合計より全体の企業価値が小さくなる「コングロマリット・ディスカウント」が起きている可能性はあり、選択と集中を進めるのはセオリーに沿った判断と言える。

   ただ、会社全体の成長エンジンが定まらない中では将来の姿は描けず、社長を8年続けてもこうした状況では交代論が出ても不思議ではない。

   その中で、中国初とされる新型コロナウイルスの世界的な感染が発生した。津賀社長は中国事業も「成長の柱」に据えていただけに、中国で生産・消費の両面が一時凍結し、回復に月日を要する事態はパナソニックの業績にとって相当の逆風だ。影響は今期だけではなく、次の期にも及ぶと覚悟すべきだろう。

   津賀社長の在任が9年目に入ると、1977年から9年間社長を務めた山下俊彦氏(故人)と並び、創業者の松下幸之助氏(故人)ら創業家を除けば「最長」となる。63歳という年齢は、大手企業の社長としては若い方だ。成長軌道に本格復帰するための遺産(レガシー)を今度こそ残せるか、新型コロナウイルスの影響に翻弄されてしまうか。この1年は津賀社長にとって正念場となる。