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フリーランス俳優の苦境 公演相次ぎ中止...休業補償あっても「先が見えない」

   仕事や収入が減って苦境に立たされていると、俳優や音楽家らの団体が、政府に支援を要請する声明を相次いで出して、ネット上で反響を集めている。

   元々は、政府が新型コロナウイルスの感染拡大でイベントなどの中止を要請し、それに応じたことがきっかけだ。俳優らの現況はどうなっているのか、関係者に話を聞いた。

  • 西田敏行さんが俳優の苦境を訴え(写真は公式サイト)
    西田敏行さんが俳優の苦境を訴え(写真は公式サイト)
  • 西田敏行さんが俳優の苦境を訴え(写真は公式サイト)

「公演中止でも、キャンセル料支払いはまず聞かない」

「公演が中止になっても、出演した俳優や女優にキャンセル料が支払われたケースは、まず聞きません。よほどの契約なら話は別ですが、突発的な中止には支払うよう求めていても、『紳士協定』で出ないことが多いですね」

   フリーランスの個人事業主の事情に詳しく、自身も女優として働く関係者は2020年3月9日、J-CASTニュースの取材にこう明かした。

   この関係者は、「何か言おうとするなら、次の仕事がないと覚悟しないと」と話し、俳優らは、事務所を通じた孫請けの立場で交渉力がないため強く言えないそうだ。

   そんな中で、個人ではどうにもならない状況を打開しようと、業界の団体が次々に公式サイトで声明文を出した。

   演奏家や歌手など約5200人でつくる日本音楽家ユニオンは3月3日、「新型コロナウイルス感染拡大防止措置に伴う公演キャンセルに関する声明」を発表した。そこでは、音楽家が「自らの生活を犠牲にして公演の延期、中止(キャンセル)を受け入れた。にも拘わらず、出演者へのキャンセル料等が支払われない事例もある」などとして、「公演自粛は政府からの要請により発生した事態であり、国は正規・非正規だけでなく、音楽家のようなフリーランスとして活動する人々への経済的支援にもとりくむよう強く要望する」と訴えた。

   また、俳優や女優ら約2600人でつくる日本俳優連合は5日、理事長で俳優の西田敏行さん(72)の名前で、政府への要望書を提出したことを明らかにした。

西田さん「仕事と収入の双方が失われた」

   「新型コロナウイルス感染防止措置に伴う公演などの中止に伴う声明 及び働き手支援についての緊急要請」と題したもので、西田さんは、俳優らが主催者の指示で中止を受け入れたものの、「出演者へのキャンセル料等の話し合いには到底至らないケースが多く、生活に困窮する事態が見えています」と訴えた。

   俳優のほとんどは個人事業主などのため、政府の助成や貸付の対象にならないとして、「私たちにとっては仕事と収入の双方が失われ、生きる危機に瀕する事態です。どうか雇用・非雇用の別のないご対応で、文化と芸能界を支える俳優へご配慮下さいますよう要望いたします」と結んでいる。

   西田さんの声明については、テレビアニメ「ケロロ軍曹」出演などで知られる声優の中田譲治さんが3月8日、自らも日本俳優連合に加入しているとしてツイッターで紹介し、5万件以上もの「いいね」が寄せられるほどの反響を呼んでいる。

   フリーランスらへの支援としては9日、政府が休業補償として1日4100円を支給することを盛り込んだ経済対策の導入を検討していると報じられた。学校休校で休んだ非正規雇用を含む保護者に支給する1日8330円(上限)の半額に当たる。また、休業した場合に、10万円を融資するとも報じられている。

   前出の関係者は、こうした政府の対策について、自身の経験を交えて、こう話す。

「本業でなくアルバイトをする俳優が増える」

「母親として、子供を預けて9時―17時で働いても、1日7000円をもらっています。食費もかかるのに、ちょっと支援額が低い気がしますね。また、10万円の融資1回では、生活費にもなりません。公演中止後に、貯金を崩して生活する俳優さんらも多いですね」

   感染拡大で、仕事そのものも減っているとこの関係者は明かす。

「出演者が密着するドラマの合戦シーンは、感染者が出ると続けられないとして、撮影ができなくなっています。本当は見せ場なのに、ストーリーを変えていると聞いていますよ。そうしますと、俳優は、シーンごと出番がなくなってしまいます」

   ライブハウスなどでの芝居上演も、感染者が出た後にどう再開するか悩んでいるといい、上演しても客席がガラガラだという。

「ただでさえ、ドラマの制作費が削られて、登場人物も減らされており、仕事の数が減っています。本業では食べていけなくて、アルバイトをしている俳優さんも多いですが、ますますバイトの割合が増えるでしょうね。4月に入って状況が好転するとも限らず、先が見えない状態が続いています」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)