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女性のネイルへの情熱にパナソニックが動いた 新しいジェルネイル「nafeee」の可能性

提供:Game Changer Catapult

   手を美しく保つネイルの世界に、あのパナソニックの中の若手チームが新しいネイルソリューション「nafeee」(ネイフィー)で参入を狙っている。

   市場2000億円ともいわれるネイル市場にチャレンジしているのは、社内の新規事業創出プラットフォーム「Game Changer Catapult」(ゲームチェンジャーカタパルト、以下GCカタパルト)で結成されたチームである。彼らが未経験の「ネイル」に着目したエピソードから、現在に至るまでの約1年半の取り組みを聞いた。

家電メーカーの男性たちは、なぜネイルに注目するのか
家電メーカーの男性たちは、なぜネイルに注目するのか

パーティーでの一言がきっかけ

   GCカタパルトはパナソニックで主に家電事業を推進しているアプライアンス社で、お客様の新しい体験やサービス、社会課題の解決に繋がる「未来のカデン」をカタチにすることをミッションとし、社内公募型の新規事業アイデアコンテストを実施している。そこで選考に残った企画のひとつがnafeeeだ。

   ネイルアートの中でも、ジェルと呼ばれる溶液を爪に塗り専用ライトで固めるジェルネイル。デザイン性に優れ、耐久性が高く、昨今のネイルアートの主流になっているが、さらにそこに独自の素材を活かし、爪へのダメージを大幅に減らして数分でジェルネイルを除去できるようにする、というのがnafeeeのソリューションアイデアだ。通常、30~40分程度かかるのが悩みだったジェルネイルの除去がわずか5分に。もっと手軽にジェルネイルを楽しめるだけでなく、ネイルサロンの回転率にもつながる為、施術する側もされる側も、ネイルに関わるすべての人にwin-winなツールを目指している。

nafeeeのイメージ。ベースコートに新素材を採用、紫外線を照射すると剥離が簡単に
nafeeeのイメージ。ベースコートに新素材を採用、紫外線を照射すると剥離が簡単に

   このプロジェクトに携わっているのは、アプライアンス社の甘利啓太郎さん・松井はなさん・川口慎介さん・梅本大輝さんの4人のスタッフだ。始まりは2018年の10月頃にさかのぼる。海外向け美容家電の営業・マーケティング担当として米国に出張していた甘利さんは、あるパーティーで駐在員の奥様から声をかけられた。

「あなたは美容家電の担当なのね。ではなぜネイルアートを扱おうと思わないの?」

   当時、ネイルアートについてほとんど知らなかった甘利さん。

「ネイルアートには年間10万円くらい使っているわよ」

   3~4週に一度ネイルサロンに通って年間10万円ものお金をかけるほどの、女性のネイルアートにかける熱い想いと、ビジネスとしてのポテンシャルを、その女性から知らされた。

   日本有数の家電メーカーで仕事をこなしながらも「新しい価値を中々生めていない、この状況はよくない」という危機感を抱いてきた甘利さんにはこの一言がきっかけになり、帰国後、ネイルアートにまつわる新しい商品やサービスを生み出せないか、女性用美容商品の担当だった松井さんに相談。たまたま同様にネイルアートについての構想を持っていた彼女と意気投合し、企画を練り始めた。しかし、実際には長らく「暗中模索」が続いたという甘利さん。

nafeee起案責任者の甘利さん
nafeee起案責任者の甘利さん
「2019年の春頃から企画書を作り始め、想定ユーザーや市場概要など、商品企画に必要な基本的要素を、主に定時後を利用してまとめていきました。しかし、残業を増やせば働き方改革に逆行する事にもなる為、本業とのバランスを見ながらの『草の根運動』のような動き方でした。そのような中、5月にGCカタパルトの公募を知り、応募してみよう、と思ったのです」

と振り返る。GCカタパルトのエントリーシートが無事、選考を通過し「二歩目」を踏み出した甘利さん。ネイル市場に興味があった梅本さんと川口さんも加わって現在のチームメンバーが固まり、皆本業の仕事と並行で取り組んでの新規事業が始まった。

4人で本業と並行して開発を進めた
4人で本業と並行して開発を進めた

   もっとも、当時アイデアにあったのは「IoTネイルプリンター」だったそう。ネイルデザインのデータをサーバーを介してやり取りし、自宅で気軽にプリントできる、そんな企画だった。しかし、ネイルユーザーへのヒアリングの結果、コンセプトを180度方向転換することに。ユーザーが強く反応したのは、プリントやデザインデータのやり取り、といった「いかに装飾するか」の工程ではなく、爪にダメージを与えず、短い時間で「いかに除去するか」というポイントだったからだ。この方向転換を基軸に、本格的に現在につながるnafeeeのコンセプトを固めていった。

「当たり前のようですが、耐久性を上げればそれだけ除去が大変になり、逆に除去を簡単にすれば、外れてほしくない時に外れてしまう。その矛盾を根本的に変える発想が必要なのではないか、と考えました」

そう甘利さんは振り返る。


素材を工夫し「普段は丈夫、でも、外したいときは外しやすい」

   nafeeeの最大の売りは、既存のジェルネイルでは30~40分程度かかっていた除去の工程を、特殊光の照射によって数分に短縮する点だ。

ネイルランプに手を入れて照射すると、ベースコートに気泡が生じて5分で剥離可能になる
ネイルランプに手を入れて照射すると、ベースコートに気泡が生じて5分で剥離可能になる

   この「密着性と剥離性の両立」(梅本さん)の実現のため、チームはこれまでの仕事で培った、本来ネイルアートとは異なる分野の知見も総動員して素材を検討した。これは総合電機メーカーであるパナソニックグループならではの強みと言える部分かもしれない。ちなみに、ベースコート剤に採用された特殊光を照射すると気泡が発生してはがれやすくなる素材は、元々、航空機の燃料等の分野で活用されてきたものという。

梅本さん「ネイルを剥離する為のトリガーとして、最初は電気を使うことも考えたのですが、微電流とはいえ、人体、それも爪の上に均等に電気を流すのはハードルが高く、断念しました。しかし、この商品は素材開発がカギになるので、その選択を担当するのはやりがいがありましたね」

   ベースコート剤の工夫だけではない。nafeeeはアプリでジェルネイルのデータを共有、ネイルデザインの履歴を自動的にデータ化する機能の搭載を予定している。この検討には主にソフトウェア技術を通じてIoT家電の開発に従事してきた川口さんの経験が活かされた。「自分の専門分野はnafeeeでは脇役かもしれませんが、デバイスをシームレスに使う発想が活かせたのかなと思います」と川口さんは語る。

   4人のうち3人が男性というチーム構成だが、男性陣も自らnafeeeのジェルネイルを付けて「付け心地」を試し、よりよい素材を目指してきた。

ジェルネイルを付けてみて「2週間、全くはがれませんでした」と川口さん
ジェルネイルを付けてみて「2週間、全くはがれませんでした」と川口さん
川口さん「女性がネイルをつけるのは手を美しく保ち、気分よくいられるためだと聞いていたんですが、自分にはまだその感覚がなくて。日常生活でもつけ続けるのは緊張もありましたけど、意外と女性から話しかけられたりして楽しいこともありました(笑)」

   リサーチを続けていくうちに、チームは女性がネイルにかける情熱を知った。

甘利さん「ネイルユーザーの皆様が、時間や、手間や、本当に色々な事に投資しながら、ネイルアートを楽しんでいることを知りました。それだけの投資をしてでもやりたい、という強烈な魅力があるんです。日常生活の中で、手が他の人や自分の視界に入らない日はほぼありませんから、『ネイルアートできれいになった爪先を見ていると"気持ちがアガる"』と多くの方がおっしゃるのも納得です」

   記者も同僚の女性社員から、指をきれいに見せるだけでなく手を清潔かつ健康に保ち、年齢を重ねても元気でいられるとネイルの魅力を熱弁されたことがある。爪をいためずに、より多様にネイルを楽しめる可能性をnafeeeは持っている。




本業にも刺激に

   元気がない、と誤解され揶揄されることもありがちな家電業界の中で、何かやらなければという危機感を抱いていた甘利さんたち。「本業といいますか、普段の仕事を相対化して見る機会もあまりないので、刺激になります。仮に小さくても、まず成功事例を作り、それを引き金として、既存の事業のやり方に新しい展開のヒントを与えるような、そんな変化をもたらしたいです」(甘利さん)と語る。GCカタパルトの活動そのものだけではなく、元々本業としてきた既存事業に対するシナジーやメリットも意識しているようだ。

   実用化に向けての課題は、技術の完成度の向上とサプライチェーンの確立だ。社内外で協力を仰ぎ、まずは地域を絞ってのモニタリング販売から始め、短期間での正式商品化を目指している。

「サロン側へのコスト・心理的負担を低減する為、ネイルランプはリースし、使用回数に応じて課金させていただくプランを考えています。また、将来的にはアプリとの連動によりハード面だけでなくソフト面でも様々な価値をユーザー、ネイリストの皆様に提供したいですね。大仰な言い方かもしれませんが、nafeeeを通じて、ユーザー、ネイリストがもっとネイルアートを楽しめるようになり、それが結果としてネイル産業や文化の振興に少しでも貢献することになれば、と考えています。」(甘利さん)

と、チームの意気はますます盛んだ。


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