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「ライバル」NTTと手を組んだトヨタの野望

   トヨタ自動車とNTTが資本業務提携を発表した。相互に約2000億円分の株式を持ち合い、スマートシティ(最新技術を用いた、持続可能な都市)を実現する上での基盤となる「スマートシティ・プラットフォーム」の共同構築を目指す。

   トヨタはすでに、静岡県の工場跡地に「Woven City」(ウーブン・シティ)と名付けた実験都市を整備する予定だ。NTTとの協業により、どんな変化が起きるのだろうか。

  • Woven Cityのイメージ画像
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NTTは社会システムの「大動脈」

   トヨタは2020年1月、年末までに撤退を予定している東富士工場(静岡県裾野市)の跡地に、「Woven City」を整備する計画を発表した。ここでは自動運転やAI(人工知能)などの技術が用いられ、完全自動運転かつゼロエミッション(排出物がないこと)の乗り物が高速走行する道と、歩行者とスピードの遅い乗り物が共存する道、そして歩行者専用の道が、編み目のように織り込まれる(英語でwoven)としている。21年初頭の着工予定で、将来的に約70.8平方メートルの「街」になる敷地内には、まず従業員や関係者ら2000人程度の住民から暮らし始める予定だ。

   今回の協業では、このWoven Cityと、品川駅前(東京都港区)のNTT街区を先行事例として、「スマートシティ・プラットフォーム」を実装する。このプラットフォームは、データマネジメントや情報流通、街づくりシミュレーションなどで構成されたもの。これまでもNTTは、AIやIoT(モノのインターネット)、ICT(情報通信技術)の知見があるため、そのノウハウを投入する試みだ。

   トヨタの豊田章男社長は、20年3月24日の共同記者会見で、社会システムを人体にたとえた。自動車や家は「筋肉」「骨」、通信は情報を流す「血管」であり、なかでもNTTは「大動脈」で、その根幹を担っていると指摘し、提携の重要性を訴えている。

トヨタはKDDIの第2位株主

   豊田社長の発言からもわかるように、トヨタはこれまでも「血管」である通信事業者を評価していた。というよりも、過去にはNTTのライバルを作るべく、奮闘してきた歴史がある。1980年代中頃、NTTの前身である日本電信電話公社の民営化により、通信事業への民間参入が可能になった。その波に乗って、トヨタなどが立ち上げたのが日本高速通信(TWJ)や、日本移動通信(IDO)だ。これが後に、国際電信電話(KDD)や、京セラ系列の第二電電(DDI)と合流し、KDDIへとつながっていく。現在もトヨタは、京セラ(14.22%)に次ぐ、KDDIの第2位株主(12.67%)となっている(19年3月末時点)。

   また、ソフトバンクとのつながりもある。19年1月に合弁会社となった「MONET Technologies(モネ・テクノロジー)」は、ソフトバンク35.2%、トヨタ34.8%(20年3月下旬閲覧時点の公式サイトより)。MaaS(ICTを用いて移動サービスを一元化すること)のデータを活用して、交通空白地や高齢化などの課題解消を目指すもので、今回のNTTとの協業にも重なる部分がありそうだ。

   政府はスマートシティを、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、「Society 5.0」(第5の社会)の場として位置づけている。織機を源流として、日本を代表する自動車メーカーになったトヨタが、通信各社とのタッグで「街づくりの会社」になる日が来るかもしれない。

(J-CASTニュース編集部 城戸譲)