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政府は「見せ方、インパクトにこだわりすぎ」 布マスク炎上、厚労省OBが指摘する「情報発信」の課題

   新型コロナウイルス感染症に関し、政府の情報発信の「マズさ」がたびたび露呈している。

   安倍晋三首相は2020年4月1日、全世帯に布マスク2枚を配布すると発表したが、「場当たり的」などと批判が集中。経済産業省の官僚が意図を説明するも、「上から目線」と火に油を注ぐことになった。

   政府の一連の対応には「まったく信頼できない」「都合の悪いことは隠しているんじゃないか」とSNSで不信感が広がっており、官僚OBは「見せ方、インパクトにこだわりすぎている」と指摘する。

  • 安倍首相
    安倍首相
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「日本ってそういうの苦手じゃないはず」

   「(国民から)エラく馬鹿にされている」「広報がまず過ぎて凹む」――。政府のマスクチームに関わる経産省の浅野大介・サービス政策課長は4月4日、自身のフェイスブックで「マスク2枚の真相」との投稿をした。

   安倍首相は、布マスク配布の意義を「洗剤で洗うことで再利用が可能なことから、急激に拡大しているマスク需要に対応する上で極めて有効」などと語ったが、浅野氏は説明が不十分だとして次のように説明する。

   「飛沫感染防止のため、マスクはしてもらいたい」との思いから配布を決定したものの、使い捨ての不織布マスクには生産能力に限界がある。使い捨ては医療機関に優先的に回したいため、市民には繰り返し使用できる「布マスク」か「自作マスク」でしのいでほしく、前者の配布を決めたという。

   費用は約200億円の計算だが、浅野氏は「この昔懐かしい『布マスク』など今時作ってない。政府が買い上げる約束でもしなけりゃ、メーカーは怖くて何億枚も作らない。だから政府買い上げの形で発注する必要があった」と理解を求めた。

   郵送での配布も送料がかかると批判を集めたが、「配布のときに行列ができて感染クラスターをつくる恐れがあるから、日本郵便の全戸無差別配達サービスでやるしかない」と強調。

   1世帯につき2枚としたのは「平均世帯人数は約2人。個々の世帯人数に合わせて丁寧になど配れないし、まずは2枚配るのが精一杯」だったといい、

「『オレ要らない』って人もいるでしょう。そういう方も、ひとしきり文句垂れていただいた後は、『2枚では足りない、もう1枚欲しい世帯』に隣近所で融通するとか(中略)日本の社会ってそういうの苦手じゃないはずだとおもってますんで」

と結んだ。

   浅野氏の投稿は「ようやく腑に落ちた」「こういうプロセスをもっと公開してくれたらいいのに」と一定の支持を集めたが、「印象は全く変わらず」「なにこの上から目線?」と反発もあり、現在は削除されている。

   浅野氏はJ-CASTニュースの取材に「とにかく、届いたマスクをぜひ使ってくださいと伝えたかった」と話す。

総理を演者として前に出して...

「今の政府の情報発信能力は平時に支持率を維持するためには機能していると思うが、新型コロナウイルス対応にはマッチしていない。見せ方、インパクトにこだわりすぎている」

   元厚生労働省の千正康裕氏は取材に対し、これまでの国の発信の問題をこう指摘する。千正氏は01年~19年9月まで厚労省に在職し、年金、雇用、医療など8つの法改正に関わった。

   突然の一斉休校発表やマスク配布など「総理を演者として前に出して派手さやカッコよさを意識した」発信が目立つというも、いまのような緊急時には真摯(しんし)さや信頼感につながる内容が求められるという。

   千正氏はお手本として、京都大の山中伸弥教授を挙げる。新型コロナの感染拡大を受けて個人サイトを開設し、「皆様の判断や行動基準として少しでも役立つことを願って」連日のように情報を伝えている。

官僚が抱える構造的な問題も

   一方、浅野氏の投稿からは、官僚が抱える情報発信の課題が浮き彫りになったという。

   千正氏は「こういうことを勇気を持って発信できるのは素晴らしい」と評価した上で、「何のための政策か目的を明確に共有すべきだった。国民の支援ではなく、医療機関への協力依頼をしなければいけないのにねじれていた。支援という前提に立てば、私たちが求めているのはこれじゃないと反発されるのは必至」と分析。

   伝え方を誤った背景には「官僚が一般の人に政策の意図や中身を伝えるという訓練をしてこなかったのと、(周囲がエリートばかりで)色んな立場の人を想定できない』点が考えられるという。

   千正氏は改善策として、官僚が民間企業に出向して広報を学んだり、個人SNSを開設したりするのが有効だと説く。自身は厚労省時代、ブログやツイッターから情報発信の知見を得たという。

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)