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中国が重苦しく見守る「東京五輪延期」 コロナ危機より大きな経済損失の可能性

   新型コロナウイルスによる経済危機から急ピッチで回復が進んでいる中国では、社会生活も徐々に正常に戻りつつあり、マスコミの間では、2021年に延期された東京五輪と、2022年に開催が決まっている北京の冬季五輪に少しずつ注目が集まるようになっている。

   前代未聞の五輪延期によって、中国がこうむる経済的損失、さらに北京五輪への影響について、悲観的な見方が支配的になっている。

  • 北京市内の公園では運動する大人、遊ぶ子どもが多くなっている(2020年4月16日、筆者撮影)
    北京市内の公園では運動する大人、遊ぶ子どもが多くなっている(2020年4月16日、筆者撮影)
  • 北京市内の公園では運動する大人、遊ぶ子どもが多くなっている(2020年4月16日、筆者撮影)

日本民宿への投資が破滅

   中国は2008年開催の北京五輪による社会的インフラ急成長という実体験から、五輪はスポーツイベントであると同時に、経済成長という意味できわめて大きいインパクトを持つと多くの人が思うようになっている。

   ここ数年、いわゆる「金満現象」が中国でも至る所で起きており、2020年の東京五輪も日本社会を大きく変化させ、金儲けのチャンスがやってきたと思う中国人は、東京の不動産を購入したり、民宿に投資したりしていた。

   しかし、東京五輪の延期で、その投資の目論見は狂い、加えてコロナショックがやってきて、たとえ2021年7月に東京五輪が開催されても、その投資自体が破滅する可能性がある。2020年4月8日、中国ポータルサイトのSohuニュースは、日本の民宿に投資した中国人を取材した記事を載せた。

「あっちこっちからかき集めた金は、せいぜい五輪開催予定だった2020年7月まではもつが、コロナショックもあって中国人の観光客が少なくなり、21年7月以降は生きられない。もう破産だ」

   ある中国人投資家は語っていた。日本人ではないので、投資はすべて現金であり、日本の銀行からの融資などは一切なかった。その分、資金繰りはすでに底がついているという。

   テレビ局で働く友人も

「(東京五輪の)チケットはもう買っている。キャンセルもできないようで泣き寝入りするしかない」

と言う。21年の延期された大会でも使えるようだが、それはあまりにも長いと感じている。

   日本の報道では、東京五輪の1年延期によって6000億円ぐらいの損失が出ると大学教授は指摘していたが、それは延期にかかる諸費用であり、中国の投資家たちの損失は当然、その総額に入っていない。中国人の間では、熱い思いで2020年の夏を東京で過ごす夢もすでに覚めている。

北京冬季五輪への広告減少も

   東京五輪の延期は、中国人アスリートの訓練にも大きな影響を与えている。

   プロのアスリートは、五輪でのチャンピオンを目指してここまで訓練を重ねてきた。1年延長となると、アスリートの人選、新しい訓練計画も必要となる。4月15日に中国・国家体育総局が会議を開き、対策を専門家などに聞いた。首都体育学院の鐘秉樞学長はアスリートの精神状態を心配して発言した。

「専門的な心理コンサルが必要となってくる。とりあえず2週間か1カ月の休みを取ってみたらどうか」

   温州大学スポーツ専門の易剣東教授はむしろコロナ禍が長引き、

「東京五輪は完全な形で開かれない場合、代表団の縮小なども今から考えるべきではないか」

と心配している。

   一方、2021年の北京冬季五輪の主催者も大きな懸念を抱く。もともと東京五輪の2年後に開催されるはずの北京冬季五輪に出す予定だったスポンサーの五輪関連のコマーシャルが、1年しか間がない場合、企業の北京向けの広告関連予算が減少するのではないかというのだ。

   4月6日のSohuニュースは、2022年2月4日から開会する冬季北京五輪は、東京夏季五輪との間隔が、550日間から180日間に短縮された結果として、「観客はもう冬季五輪にはあまり興味を持たず、スポンサーも年間の予算を考えて、あまり冬季五輪にはコマーシャルを出さなくなるのではないか」と指摘した。

   東京五輪の1年延期は、コロナから回復しつつある中国にとって、実に重苦しい決定となっている。

(在北京ジャーナリスト 陳言)