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中国経済、V字回復は持続可能か 「一人勝ち」に立ちはだかる壁

   中国では、北京・天津・河北を一体経済圏として、日本の東京圏よりはるかに大きな「グレート北京」(大北京)を開発するという構想があったが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって粉々に粉砕された。北京だけでも団地や高層ビルがそれぞれ分裂し、自分たち以外の外部の者をコロナウイルスに感染している患者と見なして、戦々恐々の2か月を過ごしてきた。

   2020年4月下旬からは、天津や河北の人が北京に上京する際、14日間の隔離の必要がなくなったが、もはや北京・天津・河北の一体化は話題にならなくなっている。

   第1波のコロナ危機をいち早く乗り切った中国では、発生源とされた湖北省も含めて、生産がV字型に回復し、2020年第2四半期は間違いなく正常に戻るとみられているが、途切れたサプライチェーン、失われた顧客の回復は容易ではない。湖北省以外の地域でコロナウイルス危機の洗礼を経験していないところも多く、ウイルスの第2波の攻撃に耐えられるか、という心配もあり、中国の経済復活に関する懸念は消えていない。

  • 北京市中関村のスーパー内にあるレストラン。中での食事も可能にはなったが、まだ食事する人は少なく、料理の持ち帰りが多い(2020年4月22日、筆者撮影)
    北京市中関村のスーパー内にあるレストラン。中での食事も可能にはなったが、まだ食事する人は少なく、料理の持ち帰りが多い(2020年4月22日、筆者撮影)
  • 北京市中関村のスーパー内にあるレストラン。中での食事も可能にはなったが、まだ食事する人は少なく、料理の持ち帰りが多い(2020年4月22日、筆者撮影)

IMF予測は中国だけがプラス成長

   4月14日にIMF(国際通貨基金)が、2020年の世界経済についての予測を公表した。世界全体の経済成長率は2019年のプラス2.9%から2020年にはマイナス3.0%に下がると予測するなか、中国は6.1%から1.2%に下がるものの、プラス成長を維持するとみている。一方で、日本はプラス0.7%からマイナス5.2%へ、米国プラス2.3%からマイナス5.9%へと、それぞれ急激に落ち込む見込みとしている。

   4月21日、中国評論社が主催する「コロナショックの下での中日韓三か国の協力と東アジア運命共同体」フォーラムが開かれた。この2か月で、中国ではほとんどの会議がオンライン化された。日本で多く使われているZoomも中国で使えるが、どちらと言えば「テンセント会議」というソフトがより多く使われ、このフォーラムもそうだったので、筆者も中国の学者、政府関係者の中に紛れ込んで参加した。

   中国の政府関係者は当然、日米などの諸外国と比べて中国のV字型回復予想を高く評価した。

「新型コロナウイルスの感染によって供給側は供給できなくなったが、市場が萎縮したわけではない。生産の回復、とくに中国のV字回復によって東アジア経済を立て直していく」

   しかし、筆者は違う見解を持っている。新型コロナウイルスによって断ち切られたサプライチェーンは、地域によって途切れた時期が違い、まだ、常にどこかが途切れそうで、生産が安定しない。さらに地域内のフルセットの生産システムの再構築は簡単ではなく、V字回復をいつまで維持できるか、もう少し時間をかけてみる必要があるのではないと、このフォーラムで発言した。

SARSのときも遅かった消費の回復

   中国の経済回復の兆しは公共工事からだった。3月の中国国内の有力掘削機の販売台数が4万9408台に上り、昨年同期比で11.6%増の伸びとなったことにそれが現れている。

   4月15日に国家エネルギー局が公表した、3月の電力使用量は、昨年同期比で5.6%増となり、生産の回復が順調であることを示唆している。

   しかし、コロナウイルスの第2波に備え、北京などでは、ほとんどのレストランがまだ完全な営業に戻っていない。大人数の会食はもちろん厳禁であり、レストランの中での食事はできるが、基本はまだ持ち帰りだ。スーパーも客が多くなるのではないかと常に警戒している。病院は今も急を要しない病気なら極力、外来に来ないよう求めている。映画館、スポーツイベントなどはいまだに完全に営業禁止である。

   2003年の北京などで感染が拡大したSARS(重症急性呼吸症候群)の際も、2004年になって生産はV字回復したが、消費はなかなか回復できなかった。今回の場合その時にくらべても、レストランなどの消費はかなり制限され、自粛ムードも社会に溢れている。また、中国からの輸出も海外でのコロナ禍の拡大によって今後はますます厳しくなる。

   IMFは「世界はマイナス成長が5年続く」と予測している。一人勝ちに見える中国といえども、今度のコロナショックを乗り越えるにはしばらく時間がかかりそうである。

(在北京ジャーナリスト 陳言)