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「老いは恥ではない」元ヘビー級王者の復帰理由 タイソン、ホリフィールドは...?

   ボクシングの元世界ヘビー級王者の「カムバック」が話題を呼んでいる。元世界ヘビー級3団体統一王者マイク・タイソン(53)=米国=とイベンダー・ホリフィールド(57)=米国=がリング復帰を示唆している。

   タイソン、ホリフィールドともにエキシビションマッチでの復帰を計画しており、2人のレジェンドの動向に世界中のボクシングファンが注目している。

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豪州プロモーター、タイソンに1億円オファー

   専門サイト「ボクシングシーン」によると、53歳のタイソンにオファーを出したのは、オーストラリアのボクシングプロモーターであるブライアン・アマトルダ氏だ。アマトルダ氏は、タイソンがSNS上で公開したミット打ちなどの練習動画を見てすぐさまタイソンの代理人にオファーを出したという。ファイトマネーは約1億円で、対戦相手には元ラグビーの人気選手でボクシングに転向した選手など複数の候補を挙げている。

   一方のホリフィールドは、57歳にしてエキシビションマッチのリングに上がろうとしている。ホリフィールドは5月3日に自身のツイッターを更新しリング復帰を示唆。専門サイト「ボクシングニュース24」によると、57歳のホリフィールドの体は40代前半のようにみえ、体調を崩していないことからエキシビションマッチのリングに上がるのはそれほど難しくないだろうと分析している。

   タイソン、ホリフィードともにヘビー級の一時代を築いたレジェンドだ。両者は1996年11月に拳を交え、王者タイソンが挑戦者ホリフィールドに11回TKO負け。王者、挑戦者と立場が変わって行われた翌年97年6月の再戦では、タイソンが3回終了失格負けを喫した。この試合でタイソンがホリフィールドの耳に噛みつき、ボクシング界では「世紀の耳噛み事件」として知られる。

「300億円」浪費もビジネスで成功したタイソン

   50歳を過ぎたかつてのレジェンドは、なぜリングに復帰するのか。タイソンとホリフィールドにはそれぞれ異なる理由がありそうだ。タイソンは現役時代に稼いだ300億円以上ともいわれるファイトマネーを浪費し自己破産に追いやられた過去を持つ。現在はカリフォルニア州で大麻農園「タイソン農園」を経営する傍ら俳優としても活躍するなどビジネスで成功しており、リング復帰はあくまでチャリティー的な要素が大きいようだ。

   これに対してホリフィールドのリング復帰は金銭面が目的であるとの見方がある。「ボクシングニュース24」の記事によれば、ホリフィールドの純資産は50万ドル(約5300万円)だという。ホリフィールドは2011年5月を最後にリングから遠ざかり、14年に正式に引退を表明。引退からの9年間で、リングの上で稼ぎ出したファイトマネーの多くを失い、記事では金銭面が大きな目的であると推測している。

   ホリフィールドはエキシビションマッチでの「ファイトマネー」が復帰の目的としても、本格的な復帰は考えにくい。いくら見た目が40代前半だとしても、57歳の元王者がヘビー級で現役復帰するのは現実的ではないだろう。ボクシングの長い歴史から見ても50歳を過ぎてから現役に復帰して第一線で活躍した選手は皆無である。ボクシングは顔面を殴り合う過酷なスポーツでもあり、健康面で見ても危険といえるだろう。

28歳で引退→慈善活動資金のため38歳で現役復帰

   過去、ヘビー級において「奇跡の復活」を遂げたボクサーがいる。元世界ヘビー級王者ジョージ・フォアマン(71)=米国=だ。フォアマンは1968年メキシコシティ五輪で金メダルを獲得し、73年にWBA、WBC世界ヘビー級王座を獲得。この王座の3度目の防衛戦でモハメド・アリ(米国)に逆転KOで敗れ王座から陥落。この一戦は「キンシャサの奇跡」としてボクシング界で語り継がれている。

   フォアマンはこの敗戦後、1年以上のブランクを経て復帰。5連勝後の復帰6戦目で判定負けを喫した。この試合はフォアマンが序盤からリードしていたが、中盤から失速して最終回にダウンを喫して判定で負けた。復帰して世界再挑戦の道が残されていたものの、フォアマンはこの試合後にグローブを置きキリスト教の牧師に転身。28歳の若さだった。

   ボクシングを引退してから布教活動の傍ら青少年の更生施設を設立し、慈善活動に努めていた。だが、ボクサー時代のファイトマネーでは施設の維持が難しく、自身の会計士の横領なども重なり資金が底をつき、1987年3月に現役復帰を果たす。当時、38歳のフォアマンに世界中のボクシング関係者から健康面での危険を指摘する声が多く上がり、「金儲けのための復帰」などと批判の声も見られた。

復帰後3度目の世界戦で「奇跡」が...

   周囲の批判的な声をよそに復帰後のフォアマンは快進撃を続ける。87年から90年までの4年間で24連勝し、91年4月に世界戦の機会が巡ってくる。対戦相手は世界ヘビー級3団体王者ホリフィールド。この試合で判定負けを喫し、93年6月に訪れた2度目の世界戦、WBO世界ヘビー級王座決定戦でトミー・モリソン(米国)に判定負け。この時点で限界説が囁かれたが、94年11月、復帰後3度目の世界戦で「奇跡」は起こった。

   ラスベガスMGMグランド・ガーデン・アリーナで行われたWBA、IBF世界ヘビー級タイトルマッチ。フォアマンが挑んだのはサウスポーの王者マイケル・モーラー(米国)。フォアマンは序盤からモーラーのスピードについていけず、試合は王者のワンサイドで進んでいった。そして迎えた10回、象をも倒すと言われたフォアマンの右ショートが王者の顎を捕らえカウントアウト。45歳9カ月の新王者が誕生した。

   世界的な傾向を見ると、一度引退したボクサーが復帰する大きな目的は金銭面にある。57歳で復帰を示唆したホリフィールドもまたそうかもしれない。29年前、14歳下のホリフィールドに挑戦して敗退したフォアマンは言った。「老いは恥ではないのだよ」。50歳を超えても今な大きな注目を集めるタイソンとホリフィールド。たとえエキシビションマッチとはいえ、レジェンドの「復帰」は世界中のボクシングファンにとって明るいニュースになりそうだ。