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コロナ疲れの日本を、ヒルナンデスが癒している!? 「怒る」ワイドショーの反作用

   2020年の5月に入ったあたりから、ネット上で「ヒルナンデス!」(日本テレビ系)の評価がジワジワと上がり始めている。それらを見ていると、ある傾向があることに気付くのだ。

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裏番組はみんな「怒っている」けど...

   あるツイッターアカウントは、「ヒルナンデスの良い所」としつつ、「視聴者の不快、不安を煽るコーナーがない」「出演者が番組中に世相を切ったり怒ったりしていない」「コーナーがどれも『楽しい』目的でできている」と、番組の長所を列挙。また、別のアカウントも、「コロナの話題をやらない」「志らくや坂上忍など怒る人がいない」と、同番組について同様の指摘を行っている。これらの投稿はツイッター上でバズり、改めて番組の注目度を高めた。

   これらの他にも、「恵やコメンテーターがしたり顔で綺麗事ぬかしたり、坂上忍が勝手にブチキレてる裏で、お化け屋敷で延々怯える阿佐ヶ谷姉妹を電波に乗せて全国にお届けしてるヒルナンデス、それでいいんだよ」という書き込みが。

   5月6日の「阿佐ヶ谷姉妹の 見るとなぜか癒やされる2人旅」特集は、阿佐ヶ谷姉妹が岡山県内を旅する姿が放送されており、2人がお化け屋敷などに興じるほのぼのした様子を視聴者に届け、SNS上でも好反応だった。

「一文の得にもならない」情報だが、それでも絶賛

   これらの声、及び、その放送内容から察するに、ヒルナンデスを支持する声の裏に隠れているのは、その「人畜無害な情報」を歓迎する心理ではないだろうか。というのも、「阿佐ヶ谷姉妹」という、その温和な印象が好まれている芸能人が「お化け屋敷に興じる」という、それこそ、視聴者からすれば「一文の得にもならない」情報なわけだが、それでも前述のような声はネット上に多数上がっているのだ。

   また、新型コロナウイルスの流行によって、出演者がリモート出演する中、

「コロナ情報も気になるんやけど...お昼はヒルナンデス ナンちゃんの笑顔は癒しだし、クイズなんかみんなで解答する人のこと応援し合って、正解すればみんなで喜んで、間違えればみんな残念がる 笑 ほのぼのするわ」

と、番組司会の南原清隆さん(55)を含め、出演者の姿がほのぼのとしたとする声も多い。これら、一人一人がバラバラの場所に置かれ、南原さんはスタジオで孤軍奮闘。

   そんな異例の状況の中にもかかわらず、出演者の声が上手に統合されて番組として成立している姿に癒やされたとする声は多く、ネット上には他にも「久しぶりにヒルナンデスというかお昼バラエティ観て面白いなぁと思ったけど、そうか不快要素が無いから面白かったんだなぁ」とする声もあるほどだ。

   これら、誤解を恐れずに言えば、「人畜無害」「一文の得にもならない」情報であるにもかかわらず、多くの人々を楽しませている「ヒルナンデス」。ネット上に上がっている声を見ていくと、「コロナ疲れ」を起こした人々の心に、ヒルナンデスは癒しを与えているようだ。それにしても、それこそ、「毒にも薬にもならない」はずの情報が、視聴者の心を癒し、それこそ、「結果として薬になっている」というこの状況は一体どういうことなのだろう。

   そこで、J-CASTニュース編集部は、経営コンサルタントで心理学博士の鈴木丈織氏に、これら、ヒルナンデスのような番組によって人々が癒されていくメカニズムについて解説を依頼した。

実現しない正論ばかりだと「空しさ」が募る

   まず、鈴木氏は、ヒルナンデス、及び、その裏番組との違いについて説明してくれた。

「ヒルナンデス以外の番組に見られる、それこそ、『PCR検査を増やすべきだ!』といったコメンテーターの時に激しい正論には痛快さこそあれど、これらの正論は実現しないと問題は解決しません。そのため、視聴者は実現しない正論ばかり聞いていると『空しさ』を抱くようになります。その一方で、事態の見通しはまだ立たない状況。これではストレスは溜まるばかりです。その一方で、ヒルナンデスは出演者のトークなどがメイン。これらの情報は気楽に見られるものばかりです。笑うことでストレスは当然に解消されますから、これらを考えれば、ヒルナンデスへの評価が徐々に上がるのは当然と言えるでしょう」

   次に、なぜ人は「人畜無害な情報」でストレスを解消することが出来るのかについて、その仕組みについて説明してくれた。

「『人畜無害な情報』ということは、それこそ、その情報に意味や価値などない、ということになってしまいますが、仮に本当にそうであっても、それで良いのです。そのような情報に接すると、人は、自らそのような情報に対して意味付けを行ったり、価値を見出すのです。つまり、『情報に意味や価値があるのではなく、それに触れた人が意味や価値を見出す』のです。コロナの不快な情報に晒されている人は『人畜無害な情報』に触れることで、ストレスを解消すべくそれらの情報にプラスの意味付けや価値判断を行って自らを守るのです」

   ただ、鈴木氏はこうも付け加えた。

「ストレスで疲れているからといって『人畜無害な情報』にばかり接していると思考力が低下し、問題を解決する能力が下がってしまいます。ですから、そのような情報は意識的に見ようとするのではなく、ふと、疲れた時に『心のオアシス』として活用すべきでしょう」

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)