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家庭学習の「時間割」がしんどい 一部小学校など導入、助かりもするけど...働く親の戸惑い

   新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止のための休校が続く小学校の一部で、家庭学習用の「時間割」の導入が進んでいる。学習の進め方に頭を悩ませていた保護者にとっては、具体的なスケジュールが示されて「ありがたい」という面もある一方、月曜から金曜まで毎日4~5限組まれている小学校もあり、共働きやシングルペアレントの家庭では十分に面倒を見切れないという懸念もある。

   「家で子ども1人にやらせてうまく進められるかどうか...」。小学生の子をもつ東京都在住の女性は戸惑いを隠さない。夏休みの復習課題などと違い、新たな時間割では新学年の教科書を進めていく内容もあるため、子ども1人で学ばせるには限界がある点は否めない。子どもの小学校で家庭学習の時間割が導入された4人の保護者に、現状と率直な心境を聞いた。

  • Aさんの娘の小学校で配布された5月11~15日の家庭学習の時間割(編集部で一部加工)
    Aさんの娘の小学校で配布された5月11~15日の家庭学習の時間割(編集部で一部加工)
  • Aさんの娘の小学校で配布された5月11~15日の家庭学習の時間割(編集部で一部加工)
  • Bさんの子どもの小学校で配布された5月11~15日の家庭学習の時間割(編集部で一部加工)
  • 「とらねこ大将」さんの子ども(5年生)の小学校で配布された5月11~15日の家庭学習の時間割(編集部で一部加工)

「できなかった内容は土日に回さざるを得ません」

   文部科学省の2020年5月13日の発表によると、臨時休校は全国80%の公立小学校で25~31日の週まで続く。北海道、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、京都、兵庫の8つの特定警戒都道府県をのぞく39県では、緊急事態宣言が14日に解除されたことを受け、学校再開を1週間程度前倒しすることを検討する自治体も出てきている。それでも家庭学習はもう数週間、多くの地域で続きそうだ。

   テレビ電話によるJ-CASTニュースの取材に応じた、東京都武蔵野市在住の女性Aさん(36)。共働きの夫と、市立小学校に通う4年生の娘の3人で暮らしている。

   ゴールデンウィーク(GW)中の5月4日に緊急事態宣言が延長され、休校期間も5月末まで長引くと、家庭学習の進め方が変わった。4月までは漢字ドリルや計算ドリルを使った「復習」が中心だったが、5月11日からは学校作成の「時間割」をウェブサイトからダウンロードし、これに沿って進めるようになった。7日ごろに学校から連絡があったという。

   「時間割」には11~15日の1週間について、1コマ45分で4限までの各教科と学習内容が、タイムテーブルとともに書かれている。たとえばある日の2限に組まれた算数には「P.○の×番の問題をとく」といった具体的な内容が箇条書きで並んでおり、補助教材のプリント類も提供された。毎週金曜日に翌1週間分の「時間割」が新たに配布されるというサイクルが、5月末まで続く予定という。

   Aさん自身は新型コロナウイルスの影響で勤務日が減少しているが、休業しているわけではない。詳細な「時間割」が配布された時は「家で子ども1人にやらせてうまく進められるかどうか...」と戸惑ったという。オンラインの映像教材を使う学習もあり、「目と耳で学べる、口で説明してくれる教材があるのは助かります」とする一方、親にかかる負担について複雑な胸の内を明かす。

「新学年の教科書を使うので、まったく知らないことを新しく学習していくことになります。少なくとも『復習』ではないため、子ども1人で学ぶには難しい内容が出てくると思います。そうなると親がついて教えないといけない。休みの日は私が勉強を見ることができますが、勤務日は難しく、学習できなかった内容は土日に回さざるを得ませんね。私も夫もテレワークの日がありますが、テレビ会議などもあるので、ずっと子どもに張り付いているわけにはいきません。いきなり毎日時間割で、というのではなく、徐々に取り入れていってほしかったなとは思います」(Aさん)

「仕事などの事情を考慮しないボリューム」

   低学年の子をもつ東京都在住の女性Bさん(40代)も5月7・8日、子どもが通う公立小学校から、翌週の「家庭学習の時間割」が新たに配布された。月曜から金曜まで毎日5限組まれ、それぞれの学習内容が箇条書きされている。

   4月も学習課題は出されていたが、今回「急にボリュームが増えていて戸惑いました」とツイッターのダイレクトメッセージ(DM)を通じた取材に明かすBさん。前出Aさんの小学校と同様、Bさんの小学校もGW明けの11日に「時間割」が開始し、毎週金曜に翌1週分が新たに配布されるサイクルが続く予定という。

   ただ、Bさんの小学校の時間割にはAさんと異なり、「提出物」が明記されている。「学校再開時にプリントやノートなどを提出する」旨や、こうした提出物などで「学習状況や成果を確認していきます」といったことが書かれている。

   Bさんは「休校の間はこれまで市販のドリルなどをやらせていましたが、具体的に学習内容を指示してくれたので、休校中の学習をどう進めればいいか悩まずにすむのは助かります」と家庭学習の時間割にメリットを感じる一方、「毎日5科目あり、カリキュラムに書かれた時間内に到底終わるボリュームではありませんでした」と、困惑もしている。

「我が子が低学年なのもあり、新しいことはつきっきりで教えなければ理解出来ない年頃なのにもかかわらず、仕事などの事情を考慮しないボリューム。1つの課題が30分とありますが、よほどスムーズに進めなければ終わらせられない内容。また休憩時間も5分またはない時間もあります。多種多様な子や事情がある中で無理な時間割と感じます」(Bさん)

   夫婦共働きで、夫は出社、Bさん自身はテレワーク。学童保育もあるものの、「テレワークの人は基本学童に預けられないと言われておりますが、仕事の状況により、どうしても無理な時は学童にお願いしております」という生活を送る。ただ、「学童に預けていない時でも(仕事などに)余裕がある訳ではなく、正直1日1日をやり過ごすので精一杯です...」と負担は大きい。

   新たに始まった時間割による家庭学習について、Bさんは「『提出』をマストとせず、『出来る範囲で』として欲しいです。また提出状況によって評価が決まるのではないかという不安があるので、きちんと説明して欲しいです」との要望を明かした。

「学習の遅れを懸念していたので、必ずしも否定的には受け取っておりません」

   「仕事ができない」。東京都区内に住む男性Cさん(40)も、3年生の娘が通う公立小学校で毎日4コマの「時間割」に沿った家庭学習がスタートすることになり、その内容に驚いた。

   ツイッターのDMによる取材に明かしたところでは、GW明けの5月11日に学校に赴いて時間割を受け取り、同日からこれにもとづく家庭学習が開始。国語、算数、理科、社会、音楽、図工、道徳と、各科目でプリントやノートの提出が「課題」として出されている。課題の内容については「特に説明、注意などはなかったように思います」という。

   4月も家庭学習中の課題は出されたが、時間割はなかった。毎週金曜に課題を提出し、次週の時間割と課題を受け取るサイクルが、休校期間の5月末まで続く見込みだ。

   Cさんは在宅で自営業をしており、妻はフルタイムで仕事をしている。休校中は、子どもと毎朝その日のスケジュールを立てており「比較的そのとおりに動いてくれています。自己学習(通信教育)、読書、自由時間、という感じです」と学習自体はスムーズに続けている様子。一方、午後は気分転換を兼ねて買い物、散歩、運動などを子どもと一緒にしており、「(自身の仕事の)稼働時間は確実に落ちている状況です」という。

   小学校で導入された「時間割」について、Cさんは「親としては学習の遅れを懸念していたので、必ずしも否定的には受け取っておりません」と助かっているようだ。ただ、「私の娘は比較的できが良く、この内容であれば半分の時間でこなせ、かつ私が在宅で面倒を見られることもあってなんとか回せるとは思いますが、両親の仕事が忙しく、また手のかかるお子さんの場合はこなすのは無理だと思います」と指摘し、こう願った。

「時間割になっているのであれば、例えば先生がオンラインで複数人同時で良いので見守ってくださったりすると、子供も意識して多少はやる気もしますし、親も少しは助かると思います。単に、ZOOMで同級生、先生とつながっているだけで全然違うのではないかと思います」(Cさん)

「1年生の子は、全て親が付きっきりで見なくては出来ない内容」

   兵庫県神戸市に住むツイッターユーザーの「とらねこ大将」さんは、小学5年の長男、1年の次男、年中の長女を育てる女性(37)。上の子2人が通う公立小学校で「時間割」による家庭学習がGW明けの5月11日に開始した。「私にはかなりキツいです」とDMでの取材に漏らす。5年生の子は45分×5コマに及ぶ。

   7~8日に保護者が学校へ時間割と大量のプリントを直接受け取りに行ったが、時間割の進め方について教員から特段の説明はなかった。やはり休校期間中の31日まで続く予定だ。

   共働きで、夫はフルタイムの在宅勤務。自身は「教育関係で非常勤ですが休業中(小学校、子ども園が特別措置のため)。職場自体はやっています。休業中でも自宅で教材の準備や事務作業などがあります」といい、子どもの勉強を見ながらどうにかやりくりしている。

「子どもの勉強(お稽古帳やドリル系の一人でも出来るもの)を見ながら横で(自分の作業を)やってます。または、子どもにパソコンで映像教材の『NHK for school』など、学校から見るように言われているものを見せています。出来ない作業は、子どもが寝たあとに夜にしています」(とらねこ大将さん)

   家庭学習の時間割は、「ご近所さんで子どもに習い事を一切させていないご家庭からは評判がいいです」ともちろんメリットもある。一方で「はっきり言って、私にはかなりキツいです。でも、もらった日からなんとかやってます。我が家は子どもが塾にも通っているため、より忙しさを感じます」と、3児のワーキングマザーは多忙な毎日を過ごしている。

「5年生の子は中学受験のための塾もオンラインで週4日、12時20分から17時50分まであるため、小学校の宿題は朝一の6時半から7時半、夜は塾の宿題などが終わった後、大体21時から22時半にまとめてやっています。

理科はインゲン豆の実験まであり、ある程度は子どもに任せてやらせていますが、『めあて』とずれていないか、指示されていることが出来ているか、本当に内容を理解しているのかなど、親がチェックし評価しなくてはいけないので、終わった後は必ず見ています。

前回の課題は親が全部丸つけするようにありましたが、今回は書いてありませんでした。そのため今回は解答が配られておらず、何を書けば正解かどうか分からないところも多々あります。全教科あるため、まだ習っていない家庭科や英語などは分からないことも多く、5年生でもかなり教えています。

1年生の子に関しては、全て親が付きっきりで見なくては出来ない内容です。なので(時間割のタイムテーブルに書かれている)8時半から12時過ぎまではずっと一緒にやってます。その間、年中の子は基本ほったらかしです。ただ、子ども園からも工作などの教材が送られてくるので、それも一緒にやりつつ、教えてます」(同)

「親に丸投げしすぎです」

   やはり負担は大きいという。疑問点や改善すべき点など、率直な思いをこう吐露した。

「量も凄いです。内容も私自身は教員経験があるので教えられますが、先生がされている授業を保護者が教えられるなら、教員はいらないんじゃないかと思うくらいです。指導案を配って、親にやって下さいと言うなんてどうかと思います。親に丸投げしすぎです。

今回のやり方の問題点は、誰がこの学習内容を評価し、それが実際の成績に反映されるのか等、明確にされていないことです。また、まだ習っていない学習内容にもかかわらず、家庭学習のみで学校での学習と同等と見なすのなら、本当に理解できているのか、誰が評価するのか、親か、課題だけを見た教員か、テストをするのかなど、疑問だらけです。

やれと言われたことなら、我が子の学力に関わってきますので、色々と思うとこはありますがやらせます。ただ、これは各家庭の事情によって、教育格差が確実にうまれます。子どもが多いご家庭は、お母さんが倒れそうになりながらも勉強を見ています。また、シングルの方はお祖父さんお祖母さんに子どもと課題を預け、毎日働いていらっしゃいます」(同)

「家庭学習の進め方の参考例として示している」

   今回取材した4人の保護者は、子どもの家庭学習の時間割制がGW明けに開始した点や、新学年の学習が時間割に組み込まれたため子どもだけでの学習に限界を感じている点などで共通する。「旗振り役」はいたのだろうか。また、共働き・シングル家庭の親の負担についてどのように考慮されているのか。

   東京都教育庁は12日の電話取材に「都内の小学校は区市町村立で、設置しているのは各自治体です。都の『学びの支援サイト』でも学習方法の例として『時間割表』の作成を掲載していますが、具体的に都から小学校に指示できる関係ではありません。家庭学習の進め方は、国の通知などを参考にしながら各自治体、各小学校で決めることになります」と話した。

   前出Aさんが住む武蔵野市教育委員会に13日、電話取材すると、担当者は「校長会で、今後の家庭学習の進め方の参考例として、学習計画表(時間割)の活用を示しています」と明かす。

「4月も各小中学校で児童生徒に課題を出してもらっていましたが、生活リズムを維持しながら学習できる子どもばかりではありませんでした。一方で学校側も、4月は教科書が届いたばかりで新学年の学習課題を出すのが難しく、前学年の復習課題が多くなっていました。教員が新しい教科書を読み込んで学習プランを立てる余裕もあまりありませんでした。

また5月のGW中に、学校の休業期間が延長されました。この間の家庭学習の保障を考えるにあたり、ドリルやプリントばかりでは子どもの学習意欲が低下する懸念がありました。

こうした経緯から、子どもたちが生活リズムを整えながら、意欲をもって少しでも新学年の学習を進められるよう、各学校にお願いしています。その中で5月からの対応策として、各学校で家庭学習の計画表をつくってもらっているのが現在です」(市教委担当者)

「子どもたちが自分で学習を進められるよう、工夫されている」

   共働きやシングルの家庭を中心に、負担増加を感じる親がいることについては、次のように見解を示している。

「動画などを教材に取り入れる学校もあると思います。そうしたものを活用し、家庭内でお子さんと話し合いながら、学習を止めずに進めていくことも大事だと考えています。

各小学校の時間割表では、学習の具体的な順番や手立てを示し、それに沿うことで子どもたちが自分で学習を進められるよう、工夫がされていると思います。すべて保護者の方がついて教えなければいけないわけではないと考えております。

家庭学習中に分からないことがあれば、学校に連絡していただくことはできると思います。また、週に1回程度はお子さんの学習状況、健康状況を確認するように各学校に連絡しております。その中でいろいろな相談はできると考えております」(同)

   一方、渋谷区教委の担当者は12日、電話取材に、区立小学校で「家庭学習の時間割」を取り入れているところがあることは「把握している」とするものの、「具体的な学習の進め方は校長の権限」とし、区の指導で取り組んでいるわけではないと話している。必ずしも自治体が船頭となっているわけではなさそうだ。

「1週間の学習計画表をつくるという方法を、あくまで一例として示している」

   文科省初等中等教育局教育課程課の担当者は12日、電話取材に「文科省は臨時休業中の家庭学習を進めるにあたって、3月以降これまでに、何度か通知を出しています。その中で1週間の学習計画表をつくるという方法を、あくまで一例として示しています。臨時休業が始まった3月時点で、時間割にもとづく家庭学習を導入している学校はありました。文科省はそうした事例を共有し、通知で伝えてきました」と話す。

   文科省は4月10日、各自治体の教育委員会などへの通知で、家庭学習の充実についても知らせている。そこには、教科書を中心にプリントや映像といった補助教材を組み合わせて学習を進めるといったことに加え、「時間割」に関する記述もある。

「児童生徒の規則正しい生活及び学習習慣の維持、学習の流れの分かりやすい提示等の観点から、例えば、一日の学習のタイムスケジュールや一週間の学習の見通しなどを併せて示すことで、可能な限り計画性をもった家庭学習を促すこと」

   4月21日の文科省の通知でも、家庭学習について「別紙の『学習計画表』なども参考に計画性をもった家庭学習を課すなどの工夫を講じること」といったことを伝えていた。

「ご家庭の協力なしで現在の状況を乗り切ることは難しい」

   家庭学習の履修への影響についても、10日の通知で触れられている。新型コロナウイルスの拡大に伴う長期の休校に対する「特例的な措置」として、学校が課した家庭学習が一定の要件を満たせば「学校の再開後等に、当該内容を再度学校における対面指導で取り扱わないこととすることができる」と同じ内容をもう一度授業で扱う必要がない旨が示されている。その要件は、家庭学習が指導計画に照らして適切であることや、教師が家庭学習における子どもの学習状況や成果を適切に把握できることなどとなっている。

   ただ、GW明けから「時間割」を導入するように、といった内容の通知はない。そもそも通知に法的拘束力はなく、「文科省として一律で具体的に家庭学習のやり方を決めることはできない」と前出の文科省担当者は話す。大綱的な基準としての学習指導要領策定や教科書検定は国が行い、都道府県レベルでは人材育成計画などを立て、それを各学校が教育委員会と連携しつつ具体的に進めていく、といった関係になるという。

   また担当者は「GWまでの臨時休業であれば、たとえば学校再開後の授業を1日5限から6~7限に拡大したり、土曜日や夏休みを活用したりすることで、『取り戻し』がしやすかったと思います。しかし休業が5月末まで延長され、学校再開後の授業増加だけでは取り戻しが難しくなってきています。その中で、各学校で家庭学習を工夫していると思います」とし、親の負担緩和についてこう話している。

「学校が責任をもって家庭に随時電話をする、地域の感染状況を見ながら家庭訪問などをして学習状況を確認したり相談を聞いたりする、などのお願いはしています。家庭状況や子どもの発達段階に応じ、学習の進め方を柔軟に変えていただくように、ということもこれまで通知などでお願いしています。それらを踏まえ、具体的な学習に関する対応は各学校が教育委員会と連携しながら進めていくことになります。一方、ご家庭の協力なしで現在の状況を乗り切ることは難しく、ご家庭にご協力をお願いしたいところもあります」(文科省担当者)

(J-CASTニュース編集部 青木正典)